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社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜  作者: 熊乃げん骨
第十四章 田中、みんなとはぐれたってよ

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第8話 星乃、死闘を繰り広げる

 EXモンスターは、人智を超えた化物である。

 その力は生物の枠組みを超えており、『災害』とまで表される。


 かつてアメリカで暴れたモンスター『ショゴス』は都市を三つ壊滅させ、数百万人の犠牲者を出した。

 Sランクの探索者が複数人がかりでも倒すことはできず、田中が倒すまではEXランクのモンスターは倒すことが不可能・・・だと思われていた。


 炎龍カグツチのランクは『EXⅠ』。

 EXランクの中ではもっとも弱い部類に入る。


 しかしそれでもSランクより数段高い能力を持っており、まともに戦える探索者は世界に数人しかいないだろう。


 そのような化物と……星乃は正面から渡り合っていた。


「はああああああっ!!」


 大剣を振りかぶり、カグツチに振り下ろす。

 カグツチは自慢の角でその一撃を受け止めるが、衝撃が脳に伝わりわずかによろける。


"頑張れゆいちゃん!"

"いけるでホンマ!"

"そんなやつぶっ飛ばせ!"


星乃の活躍にコメント欄も盛り上がる。


(いける! 私が勝つんだ……!)


 優勢と見た星乃は、何度も剣を振るい苛烈に攻め立てる。

 カグツチは火球をいくつも生み出し星乃に放つが、仲間がそれから星乃を守る。


「だらあッ! レイピアチョップゥ!」

「ぬう! 強力……!」


 雪が火球を蹴り砕き、別の火球を熊岩が盾で止める。

 火球の温度は凄まじく、雪はヤケドを負い、熊岩の盾は溶けてしまうが、それでも彼らは止まらなかった。


「俺たちじゃあれには敵わない……リーダーを援護するんだ! 回復薬を出し惜しみするな!」


 カグツチに渡り合えない者たちは魔法や遠距離攻撃で牽制しつつ、回復薬や強化魔法で星乃をサポートする。

 その甲斐あって星乃は格上のカグツチとも戦うことができていた。


"凄え、みんな頑張ってるな"

"これが即席のチームなんて信じられねえw"

"ゆいちゃんのリーダー特性凄えな"

"うおおおおお!"

"田中来る前に倒しちゃえ!"


「くらえ! 剛剣・万断よろずだち!」


 星乃は大きく跳躍すると、カグツチの長い体に斬りかかる。

 田中の技を模倣トレースしたその技は、カグツチの硬い鱗を斬り裂き、その下の肉体を大きく傷つけた。

 龍は血を流し、苦しそうに顔を歪める。


『ウゥ……オォ……!』


 そう呻いた後、カグツチはギロリと星乃を睨む。

 睨まれた星乃は背中に冷たいものを感じる。強者からの本気の殺気。相手が本気になったのだと星乃は本能で察した。


『ルルル……ゴアァッ!!』


 カグツチは咆哮を上げると、全身から熱気を放出する。

 周囲の温度が急激に上昇し、星乃の体から汗が吹き出る。


"え、なんか様子おかしいな"

"配信で見てるだけなのに嫌な汗でてきた"

"うう、怖い……"

"なんか部屋熱くね?"

"見てるだけで熱く感じるな、実際はどんだけ熱があるんだ……"


 なにかまずい攻撃が来る。そう察知した星乃は叫ぶ。


「みなさん逃げてください! なにか来ます!」


 カグツチから放たれた熱気が一箇所に集まっていき、形を成していく。

 生み出されたそれは一振りのつるぎであった。純粋な炎のエネルギーでできた剣。


 その剣の大きさは規格外であり、その全長は二十メートルはあった。

 都市を一撃で壊滅させるほどのエネルギーを持つその剣を見て、探索者たちの心が折れる。


「なんだよあれ……」

「か、勝てるわけがない」

「俺たちはここで死ぬんだ……!」


 諦めの空気が流れる中、星乃は一人駆け出す。

 まだ腕も足も動く、ならば戦う以外に道はない。彼女の覚悟は決まっていた。


「勝つ! ここで……っ!」


 走る星乃の体から、魔素が噴出する。

 体内の魔素が激しく燃え上がり、彼女の身体能力を大幅に向上させる。


 『追覚醒ついかくせい』。

 それは一部の覚醒者のみが使える、パワーアップ技術。時間制限があるものの、一時的に莫大な力を手に入れることができるこの技術を、星乃は自分のものにしていた。


 これを使った後は動けなくなってしまうが、使うなら今しかないと彼女は確信した。


「はああああっ!!」


 星乃は走る勢いそのままに飛び上がり、そのまま斬りかかる。

 カグツチは生み出した炎の剣、『炎剣えんけん迦具土神かぐつち』の切っ先を星乃に向け、射出する。


 二つの巨大なエネルギーが衝突し、爆音と衝撃波を周囲に撒き散らす。

 その衝撃は凄まじく、探索者たちは地面にしがみつくが中には吹き飛ばされてしまう者もいる。


"ゆいちゃん!?"

"え、大丈夫なの!?"

"音やばすぎる、鼓膜逝った"

"これはさすがにゆいちゃんでも厳しいんじゃ……"

"えほんと無理なんだけど"


 爆音がやみ、舞い上がった砂煙が落ちていく。

 するとそこには激突前と変わらず、空中に浮遊するカグツチの姿があった。


 息が荒く、疲弊している様子ではあるが、まだその体は健在であった。


"ああ……まじか"

"ゆいちゃんどこ!?"

"さすがにさっきの攻撃食らったら……"

"助けてシャチケン!"

"待ってあそこ誰かいない?"


 配信用ドローンが爆発跡地に接近すると、そこに倒れている人影を発見する。


「う、うう……っ」


 そこにいたのは星乃唯その人であった。

 体のあちこちをヤケドしているが、致命傷は負っていないようだ。


 しかしダメージは甚大なようで、手を地面につけるが上手く起き上がることができない。


"ゆいちゃんだ!"

"良かった!"

"早く逃げて!"

"たのむたのむたのむ"


 敵の生存を確認したカグツチは、低く喉を鳴らすとゆっくり接近してくる。

 先程の炎剣を出す力はまだ戻っていないが、爪や牙による攻撃なら可能。柔らかい人間など簡単に引き裂くことができる。


「く、そぉ……!」


 必死に体を動かそうとする星乃だが、追覚醒を使ったばかりということもあり、体が言うことを聞かない。

 カグツチの鋭利な牙がゆっくりと近づき、彼女を裂こうとするが、その瞬間、ある人物がその前に立ちはだかる。


「なんとか間に合ったな。そこまでだ」

「え……?」


 聞き馴染みのある声に、星乃は顔を上げる。

 そこには黒いビジネススーツを身にまとった剣士が立っていた。ずっと会いたかったその人を見て、星乃は大きな声を出す。


「田中さん……!」

「待たせたな星乃。よく頑張ったな」


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― 新着の感想 ―
レイピアチョップは字面でもう反則だよぉ!
おおカグツチ、死んでしまっでもしょうがない!
奴さんは調子に乗り過ぎました(笑)
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