第5話 田中、三上と合流する
「はああああっ!!」
三上は手にした剣をサラマンダーに叩きつける。
いい動きではあるが、疲労のせいか力が入っていない。その一撃はサラマンダーの鱗をわずかに傷つけただけで、ダメージを与えるには至っていなかった。
「く、硬すぎる! こんなのデータになかったぞ!」
"草"
"こんな漫画みたいなセリフ本当に言う人いるんだw"
"いくらなんでもデータキャラ過ぎる"
"三上ってこんな小物臭かったんだ……"
"推してたのに蛙化しそう"
"早くデータ捨てろ"
三上は魔法も使えるみたいだが、炎魔法しか使えないみたいだ。
炎の鱗を持つサラマンダーには、もちろん炎魔法は効果が薄い。他に攻撃手段を持たない三上にとって、サラマンダーは天敵というわけだ。
「ならこれならどうだ! 偉大なる一撃!」
三上は威勢よく剣を上げ、サラマンダーの頭頂部に振り下ろす。
衝撃でサラマンダーは少しよろめくが、傷は浅い。サラマンダーは『ジュア!』と怒った声を出すと、三上の腹部に頭突きをかまし、それを食らった三上は「ぐはっ!?」と声を出しながら吹き飛ぶ。
「ば、馬鹿な……サラマンダーごときに、この僕が……!」
"三上くんおもろすぎる"
"技名かっこいいっすねww"
"完全に蛙化した"
"これ配信されてるって知ったら死にたくなるだろうな"
"どんまい"
"強く生きて"
五頭のサラマンダーたちは三上を取り囲むように移動する。このままだと丸呑みにされかねないな。
俺は地面を蹴って、彼のもとに向かう。
「く、くそ! エリートである僕がこんなところで……って、あれ?」
「よう、大丈夫か?」
丸呑みにされる寸前で、俺は三上を抱えてその場から離れる。
咄嗟だったのでお姫様だっこのような形になってしまった。凛にこの配信を見られたら同じことをしろと言われそうだ。
"お姫様だっこだ! ずるい!"
"わいもシャチケンに抱かれたい"
"なんか意味違くない?w"
"トゥンク……"
"三上くんがヒロインになるとは。視聴者の目をもってしても見抜けなかった"
いつまでも抱っこしていると色々あれなので、俺は三上を下ろす。
突然現れた俺を見て、三上は驚いた顔を隠せない様子だ。
「あ、あなたは、なんでここに……?」
「話は後だ。ひとまずサラマンダーは俺に任せろ」
獲物を横取りされ、サラマンダーたちは怒った様子だ。
大きな口を開けながら、俺のもとに突っ込んでくる。
「田中さん! そいつらの鱗はデータ以上に硬い、普通にやっても無理だ!」
「硬いならそれ用の戦い方がある。休んで見てな」
剣を構え、サラマンダーを見据える。
以前こいつも食ったことがあるが、身がぷりぷりで美味しかった記憶がある。特にもも肉は絶品だ。倒して肉もいただくとしよう。
「来い」
『ジュラアッ!!』
サラマンダーが勢いよく噛みついてくる。
俺は前進しながらしゃがみ、その一撃を回避すると剣を抜き放つ。刃はサラマンダーの首を一瞬にして切り落とし、その生命を奪う。
「鱗が硬いなら、その隙間を狙えばいい」
「は、速すぎる……!」
"シャチケンの太刀筋、マジで見えねえw"
"カメラの性能もっと上がらないと無理だな"
"三上くん目をまんまるにして驚いててかわいい"
"やっぱ実際に見ると違うんだろうな"
「他にはやわらかいところ……口の中を狙うとかもいい」
サラマンダーをギリギリまで引き付け、口内に剣を突き刺す。
そしてそのまま奥にある心臓を突き刺し、剣を引き抜く。鱗や体皮が硬くても、体内まで硬いモンスターは稀だ。体内を壊してしまえば人もモンスターも動けなくなる。
"ひっ"
"こわ"
"グロすぎる"
"ためらいがなさすぎる"
"こんな死に方はしたくねえ"
仲間がやられたことで怒ったのか、残った三頭のサラマンダーが一斉に襲いかかってくる。
さっき体内を一突きされた仲間を見て学んだのか、口を開けず鋭い牙や突進で俺に向かってくる。こういう時は……
「剣が効きづらい相手には、打撃が有効だ。もし打撃武器がないなら、素手でやるといい」
握った拳でサラマンダーを上からなぐりつけ、地面にめり込ませる。
後の二頭も蹴りとチョップで片を付ける。
"素手でできてたまるか"
"そうはならんやろ"
"なっとるやろがい!"
"ためになる配信やね"
"ためにならないという点を除けばためになるな"
"みんなはちゃんと武器を用意しようね!"
素手格闘は結構おすすめなんだけど不評だな。
衝撃を上手く体内に伝えられるようになれば、脳や臓器にダメージを与えられて戦略も広がるというのに。
俺も子どもの時は師匠に武器を取り上げられた上でダンジョンに放り込まれたもんだ……懐かしい。
さて……サラマンダーの処理も終わったし、三上に話を聞いてみることにするか。




