第4話 田中、掘り進む
「うーん、迷った」
俺は頭をかきながらそう呟く。
目の前に広がるのは大量の溶岩といくつも枝分かれした道。
溶岩地帯は景色も全然変わらないのでどこを通ってきたのかも分かりづらい。なんとなく来た道は覚えているとはいえ、迷ってたらそれも分からなくなってしまうかもしれない。
"しまらんなあw"
"いやでも道分からなさすぎるだろこれ"
"あっちの道じゃない?(適当)"
"適当言うなw"
"モンスターの死骸が永遠に増えてくなw"
"最初こそモンスターの説明とかしてたけど、段々無言で斬るようになって草なんだ"
"ラヴァドラゴンくんが親指を立てながら溶岩に沈んでいったのは感動的だったな"
"シュ◯ちゃんかな?"
"I'll be back"
"存在していない記憶すぎる"
溶岩もモンスターも大丈夫だが、道が分からないのはマズいな。
普通ダンジョンは上から下に向かうものだ。目的地にたどり着けるかは分からないが、帰る道が分からなくなることはない。来た道を戻ればいいからな。
しかし俺は深層まで転移でやって来てしまった。帰りの道なんて知っているわけがない。こりゃ参ったな。
"シャチケンどうすんだろ"
"あ、そういえば他の転移した探索者見つかったみたいだよ"
"みたいだね、みんな下層に飛ばされてたらしいな"
"ゆいちゃんがリーダーしてるって投稿あったけどマ?"
"マジみたいだよ。クセの強い探索者まとめられるの凄いわ"
"さすが嫁"
"もう全員無事か分かったの?"
"ほぼ安否確認取れたはず"
"はえー、ダンジョンに電波を外に飛ばせる特性があって良かったな"
コメントで大事な情報が流れていることに気がつく。
どうやら探索者たちは下層にいて、星乃が彼らをまとめてくれているらしい。
良かった……信じちゃいたが、星乃が無事でホッとした。それだけじゃなくて他の探索者をまとめているなんてたいしたもんだ。帰れたらたくさん褒めないとな。
そしてみんなが下層にいるというのもいい情報だ。
なら俺にも取れる手が増える。
「視聴者のみなさん、情報ありがとうございます。他の方は下層にいるとのことですので、少し強引に深層を突破しようと思います」
"ん?"
"いつも強引じゃないと思ってたのか"
"なにする気だ?"
"嫌な予感する"
"どうせロクな手じゃないゾ"
俺はダンジョンの壁をコンコンと叩いた後、手をつけて集中する。
そして壁から手に伝わる『振動』を感じ取る。壁を叩いた発生した振動が中で反響し、俺の手に戻ってくる。その情報をしっかり感じ取れば、今いる層のだいたいの構造を把握することができる。
「よし……だいたいの構造は把握できました。あっちに下層に繋がる道がありますね」
"なんで分かんねん"
"必殺社畜ソナーじゃん"
"コウモリかな?"
"コウモリ「無茶言うなここまでできんわ」"
"最初からやれ定期"
この方法は便利だが、大雑把な構造しか分からない。
精度は高くないし、探知範囲も狭い。入り組んだ道を全部把握するのは困難だ。しかし上に繋がる道を見つけることくらいならできる。
「じゃあ始めます」
俺は剣を抜き、下層に繋がる道がある方向を見る。
そして剣を高速で振りながら進み、ダンジョンの壁を掘削しながら進む。
"は!?"
"掘ってて草"
"ダンジョンって掘れるんだ"
"いや普通は無理だぞ"
"人間掘削機じゃん"
ダンジョンの壁はかなり硬い。表面なら傷をつけることもできるが、穴を開けるとなると話は別。途中からダンジョンの壁はかなり硬くなる。
しかし絶対に壊すのが不可能なわけじゃない。一瞬の間に何度も何度も斬り刻むことでこうして穴を開けることもできる。
「とはいえダンジョンに穴を開けると崩れる可能性があるので、同じ層に人がいる時はやめた方がいいと思います」
"はーい……って、できるか!"
"お前しかできない定期"
"いらぬ心配すぎるw"
"話してる間もガンガン進んでて草"
"道がなければ作ればいい(物理)"
"これならすぐに上に行けそうだな"
ガリガリとダンジョンを削りながら、俺は進んでいく。
何度も壁に打ちつけているため、剣が段々赤熱していく。かなり負荷がかかっているけど、まあ大丈夫だろう。今までどんなに酷使してもこいつは平気だったからな。
"なんかモンスターも襲ってこなくなったな"
"確かに。サクサク進むな"
"まあモンスターも田中ァがやべえ奴だって気づいたんでしょ"
"モンスター「なにあの人間。壁掘ってるしキモ……」"
"それはそう"
"人間の動きじゃないからなw"
"どちらかというと機械に近い速度だよな"
こうしてダンジョンの壁を削って進むこと十数分。
俺は開けた空間に出る。
「お、あれが上に続く道か。とっとと上って星乃と合流しないとな」
溶岩の中をバシャバシャ進みながら、上に続く道へ向かう。
すると上からなにかがバタバタと音を立てながら降りてくる。
「この足音、一つじゃないな。モンスターか?」
"お、久しぶりにモンスター来るか"
"まあ上から来たなら下層のモンスターだし大丈夫でしょ"
"よゆーよゆー"
"ん? でもあれ本当にモンスターか?"
"え?"
上から来た存在の姿が目に入ってくる。
その多くはモンスター、火山地帯にいる大トカゲ『サラマンダー』だった。
ランクは確かA。下層にいるモンスターだが、硬い鱗と獰猛な性格、そして高熱の体と深層にいてもおかしくない強さだ。
そんなサラマンダーが5頭ほどいて、それらに追われる一人の人がいた。
「クソッ! こっちに来るな!」
その人物はサラマンダーと戦いながらこちらに逃げてくる。
剣や魔法で対応してはいるが、サラマンダーにはあまり効果がないみたいだ。
「ん? あいつは……」
よく見ると、俺はその逃げてくる人物に見覚えがあった。
えーと……確か三上とか言ったな。鋼鉄の牡鹿ギルド所属の探索者だ。
どうやら奴は深層近くに転移されて、こんな奥まで来てしまったみたいだな。不運な奴だ。
いけすかない奴ではあるが、見捨てるわけにもいかない。
助けてやるとするか。




