第2話 田中、溶岩ダイブする
"ええええ!?"
"シャチケン!?"
"溶岩に落ちた!!"
"全ロス不可避"
"え、これガチ?"
"オイオイ、死んだわアイツ"
"田中ァ! まじで大丈夫?"
考えてみればこのダンジョンは火山地帯にできたダンジョンだ。
高熱の溶岩地帯があっても不思議じゃない。
上層から中層にかけて雪に覆われていたので、それを失念していたな。
おかげで溶岩にダイブをかましてしまった。
「ぷはっ、結構温度高いな」
"え?"
"は?"
"ぷはじゃないが"
"生きてるやんけ!"
"え、なにが起きてるの?"
「あー、驚かせてすみません。えっと、これくらいの温度なら大丈夫です。鍛えてるので」
"なるほどね"
"いやどういうこと?"
"人間の可能性って無限大なんやね"
"なんか溶岩の中で普通にくつろいでて草"
"溶岩は温泉じゃありませんよ"
"溶岩風呂は草"
"スゴイね、人体♡"
俺は手頃な岩に腰かけ、溶岩で半身浴しながら考える。
ふう、適度に温かくて血流が良くなるな。
さて、ここからどうするか。
感じられる魔素濃度から考えて、ここはおそらく深層。そしてその中でも最奥部と考えていいだろう。中層で済ませるつもりだったのにこんなに奥に来てしまうとはな。
まあただ、一番最下層に降りれたのはある意味幸運とも言える。なぜならここから上に引き返せば、散らばった探索者を見逃すことはないからだ。
「とりあえず上層を目指します。そして道中で他の探索者を救助しつつ、このダンジョンからの脱出を目標にします」
"おけ"
"頑張って!"
"他の探索者どうなったか気になるな"
"まあ雪さんとゆいちゃんもいるから多少は安心だけど……"
"でもこのダンジョン危険度高そうだから不安だよ"
"それな"
"やっぱり初探索って怖いな"
目標を決めた俺は、早速上層に向かって歩き出す。
今いる場所は溶岩まみれの開けた空間だ。見渡すと遠くに上に続く道が見える。あそこから上に向かうとしよう。
「ん? これは……」
少し歩いたところで、俺はある物を見つける。
それは空中に浮かぶ、小さな球体だった。
煮えたぎる溶岩を凝縮したような見た目をしていて、大きさはサッカーボールほどだ。
かなりのエネルギーを感じるその球体に、俺は心当たりがあった。
「これはダンジョンコアじゃないか」
ダンジョンの核、ダンジョンコア。
それはダンジョンの心臓と言える物で、それが壊れればこのダンジョンは崩壊してしまう。
「ダンジョンコアがあるってことは、一番奥に来てしまったのか。急いだ方が良さそうだな……」
"ダンジョンコアめっちゃ熱そうだな"
"てかこれ壊せばよくね?w"
"バカ、これ壊したらみんな生き埋めだぞ"
"シャチケンは生き埋めでも大丈夫だろうけど、他の人はそうじゃないからな……"
"ていうかダンジョンボスいないんやね"
"留守とか?"
"まあいないに越したことはないでしょ"
確かにコアはあるのにボスがいないのは珍しいが、今日の目的はボスじゃない。鬼のいぬ間にとっとと帰らせてもらおう。
そう思って歩き出すと、
『オ゛オオオォォォッッ!!』
溶岩の中から、大気を震わせるほどの咆哮を放ちモンスターが現れる。
溶岩の鱗を持った巨大なドラゴン……こいつはラヴァドラゴンだな。
"うおおおお!!"
"ビビったw"
"なにこいつ!?"
"こいつめっちゃレアなモンスターじゃん"
"始めて見た"
"強そう過ぎる"
"Sランクモンスターだからな、そりゃ強いよ"
ラヴァドラゴンは口から溶岩のようなヨダレを垂らして俺を見る。どうやら空腹のようだ。
しかし空腹なのはお前だけじゃない。
「ちょうど俺も腹が減っていたところだ。食料調達といくか」
『ウウウゥ……バアアアッ!!』
ラヴァドラゴンは大きな口を開けて噛みついてくる。
大きな牙だ。噛みつかれたら痛いじゃ済まないだろうな。
「よっ」
俺はその牙を素手で受け止める。
ラヴァドラゴンの体は溶岩のように熱いが、まあこれくらいの温度なら大丈夫だ。
「ふん……っ!」
『ヴァア!?』
俺はラヴァドラゴンの牙をしっかり掴み、持ち上げる。
そしてそのまま岩場に思い切り叩きつける。
"ひえっ"
"えぐすぎるw"
"南無"
"ラヴァドラゴンくん、いい奴だったよ……"
ゴン! と地面が揺れ、そのままラヴァドラゴンは苦しそうに顔を歪める。
しかしまだ闘志は消えていないみたいで、ゆっくり顔を起こすと、口の中に炎を溜める。
「竜の吐息か」
火の息はドラゴンの得意技。
ラヴァドラゴンのそれは普通のドラゴンのものより高温だろう。俺は剣を構え、その吐息を正面から迎え撃つ。
「来い」
『ガアアッ!!』
視界を埋め尽くすほどの巨大な炎の嵐が襲いかかってくる。
強烈な攻撃だ、普通の人間なら骨も残らないだろう。
俺はその攻撃を正面から見据え、剣を抜く。
「我流剣術、断風」
嵐をも断ち切る斬撃が、竜の吐息を両断する。
そしてその一撃はその奥にいるラヴァドラゴンの首をも断ち切り、両断する。
「悪いな、急いでるんだ」
『ガ、ア……?』
斬られたことを理解できないような顔で、ラヴァドラゴンは倒れる。
"うおおお!!"
"シャチケン最強! シャチケン最強!"
"やっぱり田中しか勝たん!"
"相変わらず化け物じみた強さだなあw"
"誰がお前に勝てんだよ!"
よし、これで邪魔者はいなくなった。
こいつがボスモンスターかは分からないが、このクラスのモンスターが他にもいたら危険だ。早く上層を目指すとしよう。




