第4話 田中、北の地に降り立つ
「すー、すー」
「田中さん、起きてください。もうすぐ着きますよ」
「んん……?」
優しく肩を揺すられて、俺は眠りから目を覚ます。
あれ、俺はなにをしてたんだっけ? ここはベッドの上……じゃないな、椅子に座っている。
顔にはアイマスクが着いてるし、家で寝ているわけじゃなさそうだ。
「ああ……そうか。飛行機で寝てたのか」
アイマスクを外し、目を開けるとそこは飛行機の中であった。
しかも驚くことにファーストクラスだ。俺は普通席でいいと言ったんだが、堂島さんの厚意で最高の席を用意してもらった。
どんなところでも寝られる自信はあるけど、周りの目がないのは気が楽でいい。空港では視聴者に囲まれてしまって大変だったからな。
「田中さんが寝ている間にご飯も来たんですよ! すっごい美味しくて、私びっくりしました!」
星乃もファーストクラスを満喫しているみたいでなによりだ。
堂島さんには感謝しないとな。
「あ、窓から見えますよ! 楽しみですね!」
窓から外を見ると、眼下に大きな地面が広がっていた。
北の大地、北海道。テレビなどでは何回も見たが、実際に見ると本当にデカいな。
俺たちが向かうのは北海道西部にある『ニセコ』という場所だ。そこの火山地帯に新しいダンジョンが生まれたという。
「あ、あれが私たちが行くっていうダンジョンですよね!?」
「……ここから見えるのか」
星乃が指差す方を見ると、確かに山から建築物のようなものが生えているのが見えた。俺たちの視力はいい方ではあるが、それでもこんな上空からダンジョンの形が見えるなんて普通はありえない。
話には聞いていたが、かなり巨大なダンジョンみたいだ。
ダンジョンが大きければ大きいほど、資源やお宝が眠っている確率は高い。
ギルドが初探索を希望するのも頷けるというものだ。
「どんなとこなんでしょうか。ドキドキしますね」
「そうだな……」
そしてダンジョンが大きければ大きいほど、その危険度も上がる。
俺はなにも起きないことを祈りながら到着の時を待つのだった。
◇ ◇ ◇
新千歳空港に降り立ち、そこから迎えの車に乗って揺られること二時間。
俺たちは目的地であるニセコに降り立った。
まず足立に手配してもらったホテルに向かう……前に、俺たちはアタック予定のダンジョンを見に行った。
他ギルドとの合同探索は明日。今日はその下見って感じだ。
それと仕事もひとつ、こなさなくちゃいけない。
「星乃、準備はいいか?」
「はい! いつでも大丈夫です!」
やる気満々の星乃の了解を得た俺は、スマホを操作してドローンの配信機能をオンにする。
するとDチューブにて配信が始まり、全世界に俺たちの様子が生中継される。
"ん? なんか始まった"
"今日予定あったっけ?"
"突発ライブだ!"
"タイトルは『ニセコ火山ダンジョンに明日から参加します』だって! マジ!?"
"わっふるわっふる"
"生きがい"
「みなさんこんにちは田中誠です。それと――」
「ゆいちゃんねるの星乃唯です! よろしくお願いしまーす!」
"キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!"
"お前の配信を待ってたんだよ!"
"ゆいちゃんもいるやんけ!!"
"なんかゆいちゃん出るたびにかわいくなってない?"
"俺もこんなかわいいお嫁さんがほしい人生だった"
星乃がいるからかいつもよりコメントも活発だ。
いるだけで場が明るくなるし、絵にも華が出るからな。こんなかわいくていい子が俺に好意を持ってくれているとか、正直今でも信じられないな。
「既にニュースにもなっているので知っていると思いますが、ここニセコに大型のダンジョンが出現しました。複数のギルドが合同でここの初探索をすることになっていますが、私の所属する白狼ギルドも参加させていただくことになりました」
「私もバイトとして参加します! 田中さんの足を引っ張らないよう、頑張ります!」
"マジか! 楽しみだ"
"面白くなってきました"
"また脳筋夫婦の活躍が見れるのか"
"魔対省がやらなくて大丈夫かと思ってたけどシャチケンがいるなら平気そうだなw"
"モンスターが可哀想なくらいだ……w"
"他のギルドいる?w"
「今日は軽い下見で終わらせますが、明日の10時からダンジョンに潜り、その様子を配信いたします。よろしければ通知を入れて見ていただけますと幸いです」
"はーい!"
"楽しみすぎる"
"100000回通知ボタン押した"
"それ解除されてね?"
"初探索ってわくわくするよね"
"シャチケンの配信あるなら20日ぶりに休むか"
"もっと休んで"
"現役社畜戦士も見とる"
"社会の闇はまだ深い"
「よし、挨拶も終わったし、もう少し近くで観察してみるか」
「はい。行きま……あれ?」
星乃はなにかに気づき、視線をそちらに向ける。
俺も星乃の見ている方に視線を動かすと、こちらに近づいてくる人影があった。ここら辺に俺ら以外に人はいない。どうやらその人物は俺たちに用があるみたいだ。
その人物は身長2メートル近くある、大柄の人物であった。
筋骨隆々で強者のオーラが漂っていて、眼光は鋭く、そして……女性物の服を着ていた。
「久しぶりね田中ちゃん。元気にやっているようで安心したわ」
「ゆ、雪さん!? なんでここに!?」
俺はその人物を知っていた。いや、それどころか一緒にダンジョンに潜ったことがある。
本名毒島雪之進。あだ名はユキさん。
女性物の服を着ていてバッチリメイクを決めてはいるが、れっきとした男性だ。
そしてこの人はベテランの探索者でもある。
なにを隠そうこの人は俺や堂島さんと一緒に皇居直下ダンジョンに潜り、生還した七人の内の一人なのだ。
「なんでここに……って決まっているじゃない。私はギルド『麗しの薔薇』の社長よ? 明日の探索、私も行くからよろしくね♪」
そう言ってユキさんはバチン☆と妙に迫力のあるウィンクをするのだった。




