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社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜  作者: 熊乃げん骨
第十二章 田中、喧嘩するってよ

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第7話 田中、刺すってよ

「そう、そのままにしてください」


 仮面の男は俺を牽制しながら須田に近づく。

 得体の知れない相手だけど、感じる魔素はそれほど多くない。人質さえいなければすぐにでも倒せると思うんだが……。


「誰だあんたは。須田とはどんな関係なんだ?」

「そうですね、ビジネスパートナーといったところでしょうか。彼には多額の融資を受けまして、今はそのお返しをしているところです」


 仮面の男は俺の問いに答える。

 なるほど、こいつが須田の脱走の手助けをしたというわけか。モンスターを生み出す謎のキューブもこいつが渡したと見ていいだろう。


 しかし多額の融資って……会社ギルドの金をこんな怪しい奴に渡していたのか? 俺たちが稼いだ金使ってなにやってんだこいつは。


「さあ須田さん、帰りましょう。それとも復讐を果たしてからの方がよいでしょうか。であれば私が代わりにやりましょうか?」

「お前が俺の代わりに? ははっ、傑作だな。そりゃあいい」


 須田はそう言って笑うと、仮面の男に近づく。


「では少々お待ちください。今からや……なっ!?」


 仮面の男の言葉が突然止まる。

 それもそのはず、なにを考えているのか突然須田が仮面の男の首を右手でつかんでめたからだ。


 そして空いている方の手で拘束されていた足立を解放してくれた。


「げほっ! 須田、お前……」

「邪魔だ、お前はすっこんでろ」


 解放された足立は、須田の言葉に従い距離を取る。

 それを見届けた須田は、首を掴んでいる仮面の男に目を向ける。


「俺の復讐をお前がするだって? 馬鹿言うんじゃねえ、これは俺の『喧嘩』だ。部外者のてめえが割り込んでくるんじゃねえ」

「愚かな真似を……私に手を出すなど重大な契約違反ですよ……?」


「はっ、誰に言ってやがる。俺は犯罪者・・・だぜ? 知らなかったら教えてやる、約束なんざ破るためにあるんだよ!」


 須田はそう言うと、仮面の男を持ち上げ首を更に強く絞める。すると、


「……残念ですよ。せっかく機会を差し上げたというのに」


 仮面の男はどこからともなく注射器を取り出し、それを須田の腕に突き刺し中の青い液体を注入する。

 すると須田は苦悶の表情を浮かべ苦しみだす。あの液体、毒か? いったいなにを注射されたんだ?


「が、あ……ッ!?」

「裏切り者には死を。苦しんで死んでください」


 須田の手が緩み、仮面の男は解放される。

 須田はなんとか踏ん張ろうとするが、耐えきれずその場に倒れる。


「やれやれ、飼い犬に手を噛まれるとはこのことですね。仕方ありません、今日のところは帰るとしましょう」

「……それを許すと思っているのか?」


 俺は仮面の男に近づく。

 これだけ好きにやられて俺がなんとも思ってないと思ってるのだろうか? もう人質はいない、こいつを生きて帰す気はない。


「ふむ、私としては今あなたと事を構える気はないのですが……どうやら見逃してくれる気はないみたいですね」

「当然だ」

「そうですか……しかし私も忙しい身。申し訳ありませんが相手はできません」


 仮面の男は懐から魔道具のようなものを取り出すと、それを発動する。

 すると男の体がぼんやりと透け始める。


「転移魔道具を起動しました。転移が始まった時点で私の肉体は別位相に移動します。この状態になったら物理的接触は不可能です」


 確かに目の前の半透明な男から魔素を感じ取れなくなっている。

 姿は見えているけど、その実体はこの次元とは別の次元に移っているんだろう。同じようなことをしてくるモンスターは知っているので、どんな状態かはだいたい分かる。


「そうか」

「はい。ですので私になにをしようと意味はありません。またお会いできるのを楽しみにしていますよ」

「いや、その必要はない」

「それはどういう……」


 仮面の男が言い終わるより早く、俺は剣を振るう。

 その高速の一閃は奴の虚像を通り抜け……そのにいる本体を袈裟斬りにする。


「な……っ!?」


 仮面の男は驚きの声を上げながらその場に倒れる。すると半透明だった体が徐々に実体を取り戻し、こちらの世界に戻ってくる。どうやらダメージを負ったことで転移が失敗したみたいだ。


「な、なぜ……」

「我流剣術、次元斬。別次元に行ったくらいで逃げ切れると思わない方がいい」

「魔道具の補助もなしに裏の位相を探知し、斬撃で繋げたというのですか……!? まさか、これほどとは……!」


 仮面の男は何度か立ち上がろうと試みるが、傷は深くその場に倒れ込む。これならしばらくは動けなさそうだ。俺は今の内に須田に駆け寄る。


 須田はまだ意識があり、なんとか立ち上がろうとしている。しかし顔色は悪く意識も朦朧としている。


「おい須田、大丈夫か!?」

「あ、当たり前だ。それより田中、続きをやるぞ……」

「なに馬鹿なこと言ってんだ。少しじっとしてろ」


 須田の顔色はどんどん悪くなっていく。

 体からは体温と魔素が急速に減っていっている。このままでは助からないだろう。


「おいてめえ! さっき須田になにしやがった!」


 足立が倒れている仮面の男につかみかかり問いただす。

 そうだ。仮面の男は須田になにかを注射器で打ち込んでいた。それの正体が分かれば須田も助かるかも知れない。


「……私が打ったのは『モンスター化を促進する薬剤』です。幾度も実験テストをしましたが、モンスター化した人間の死亡率は100%。もう須田そのひとは助かりませんよ」

「てめえ……!」


 なるほど、そういうことだったのか。

 須田が死にかけているのは体のモンスター化が進んでしまったからで、毒を打たれたわけではないみたいだ。だったら、


「モンスター化が止まれば、須田は助かるんだな?」

「……ええ。しかしそのようなことは我々でも不可能でした。医者でもないあなたにそれができるとは思いませんが」

「確かに俺は医者ではないが……人を斬ることなら医者よりも慣れているつもりだ」


 俺は剣を抜き、須田を観察する。

 そして表層だけじゃなく、その更に奥、体内に集中する。透視ができるわけじゃないが、細胞の動きを観察すれば体内がどうなっているかはだいたい想像がつく。

 体がモンスター化していることもあってなかなかに難しいが……できない話じゃない。


「田中……お前なにをするつもりだ」

「須田、全てを投げ出して死ぬなんて俺は許さないぞ。お前は生きて罪を償うんだ」

「へっ……させられるもんなら、やってみやがれ」


 上等だ、やってやろうじゃないか。

 俺は更に深く集中し、須田のモンスター化の根源・・を探し当てる。


 そこは心臓の中心部であった。心臓の中にある『なにか』が須田のモンスター化を促している。その部分を切除すれば須田は人間に戻るはずだ。


 しかしその部分は心臓の中心部というもっともデリケートな場所にある。普通に切開したら須田は出血で死んでしまうだろう。傷を残さず、そして出血させずにそこを切らなくてはいけない。


「田中、やれそうか……?」


 足立が心配そうに尋ねてくる。

 須田は足立にとっても友人だ。こんな形でこいつに友人を失わせるわけにもいかない。


「ああ、任せろ」 


 短く言い、剣先を須田に向ける。

 勝負は一瞬。早く、速く、そしてなにより正確に行わなくてはいけない。

 目に神経を集中させ、俺は須田の肉体の全てを掌握する。そして細胞と細胞の隙間、もっとも刃が入りやすくそしてダメージの少ない箇所を狙い、剣を突き刺す。


「橘流剣術、心刺こころざし」


 僅かな音も立てず、刃が須田の胸に吸い込まれる。

 刃は細胞の隙間を縫うように侵入し、筋肉と胸骨に守られている心臓に向かう。少しでも手元が狂えば刃は須田の体内を引き裂く、失敗は許されない。


「――――ここ(・・)


 見つけたただ一つの道筋。

 そこを正確になぞり刃が突き進む。刃は心臓に達し、そこをすり抜け更にその奥、須田の心臓内に巣食うモンスター化の原因である『核』を先端で捉え……そして切り裂く。


「……よし、上手くいった」

「馬鹿な……」


 仮面の男が驚愕する声を聞きながら、俺は剣を引き抜く。

 細胞の隙間を通し、血管も全て避けたので出血はゼロ。傷跡も残っていない。ダメージはほとんどないと言ってもいいだろう。


 そして核を壊したことにより、須田の体はだんだんもとの体に戻っていく。核が壊れたショックで意識を失いはしたけど、呼吸も安定しているし大丈夫そうだ。


「足立、須田を見ててくれるか」

「ああ、もちろんだ。それと……ありがとな。さすが俺のヒーローだ。頼りになるぜ」


 足立から恥ずかしい賛辞をもらった俺は、仮面の男のもとに行く。こいつとは今のうちに色々と話しておきたい。


「……素晴らしい。ただ強いだけでは興味の対象にはならないと思っていましたが、強さも度を超えると神秘へと変わる。その力の行く末がどのようになるのか……楽しみにしていますよ」

「それはどういう……ん?」


 突然仮面の男の体が崩れだす。

 そして数秒の内にその体は完全に消え去ってしまい、そこには仮面と着ていた服のみが残る。その他にはちりひとつ残っていない。


「……はあ。まったく、訳のわからないことばかりだ」


 仮面の男と謎の組織。そしてモンスターを操る謎の技術。今日だけで知らないものを見すぎた。

 社畜一人が抱える問題にしてはデカすぎる。独立して間もないけどまとまった休みがほしい。


「おい田中! 須田が目を覚ましたぞ!」


 後ろから聞こえる足立の声。

 訳のわからないことばかりで疲れたけど……まあ、なにも取りこぼすことなく戦いを終えることができた。


 それだけで十分、上出来だ。俺はそう思いながら二人の友人のもとに向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
田中に出来ない事、とても少ない(^_^;)
前に普通に別次元にいるアサシンタイプのモンスター斬ってたもんな でも目に見えない体内の核斬るとかそれはもう魔眼の領域なんよ
別の次元に逃げようとしていても斬られるってヤバすぎる
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