第6話 須田、本心を話すってよ
配信が止まったのを確認した足立は、再度須田と向かい合う。
「――――ガキの頃、須田は俺たちの中心的存在だった。見た目も厳つくて喧嘩も強い、上級生だって須田には手を出してこなかった。でも……その力関係は俺たちが覚醒者になった時に変わった」
世界にダンジョンが現れたその日、俺たちは三人とも覚醒者になった。
遊び場は公園からダンジョンになり、俺たち三人は凄腕の探索者になることが夢になった。
「覚醒者になってからの田中は凄かった。メキメキと強くなって、すぐに大人の探索者を超える強さになった。なんせあの橘さんが弟子に取るくらいだ。俺たちみてえな凡人とは比べ物にもならない」
「…………」
足立の言葉に須田は押し黙る。
まさかそんな風に思われていたなんて思わなかった。あの時はただ強くなることに必死で、それ以外のことに頭が回らなかった。
「俺だってあの時は田中の強さに嫉妬していた。だからよく分かるんだよ、お前が悔しかったのはな。今まで自分が上だったのに、ある日その相手は圧倒的に格上になっちまった。そりゃ焦るし、妬みもする。お前の気持ちは痛いほどよく分かる、分かるけどよ……やっちゃあいけねえことがあるだろうがよ!」
足立は大きな声で言い放つ。
顔を覗き見ると、その目には涙が浮かんでいた。足立のことだ、友人を止められなかったことを悔やんでいるんだろう。
しかし須田が俺に嫉妬していたなんて……簡単には信じられない。
殺意が消えた今なら話ができると踏んだ俺は、須田に尋ねる。
「須田、足立の言っていた話は本当なのか……?」
須田はしばらく沈黙した後、「ああ」とぶっきらぼうに言う。
「そうだ、俺はてめえが羨ましかった。俺は日本一の探索者になりたかったのに、お前のせいでそれが不可能だと思い知らされた! 今まで俺の後ろをついて来ていた奴に周回遅れで抜かされる惨めさったらねえぜ! 毎日悔しくて、俺は気が狂いそうだった!」
初めて須田の本心を聞き、俺は驚く。まさか本当にそんな風に考えていたなんて。
「気づけばお前の周りにはたくさんの人がいた。憧れていた橘さんの他にも天月や魔対省の教え子。堂島大臣や他の有名探索者……たくさんの人に囲まれ、仲良くしているお前が妬ましかった! なんで俺があそこにいないんだと何度思ったか!」
「須田……」
「そうさ。なんのこっちゃない。俺は……お前になりたかったんだ。でもそんなことはできやしない。だから俺はお前を憎むことしかできなかった」
須田のやったことは許されることではない。
だがこいつにはこいつなりの苦しみがあった。もし俺がそれに気づいていればと、もしものことを考えてしまう。
「はは、お前が皇居直下ダンジョンに挑むと知った時は嬉しかったぜ。ようやくこれで死んでくれると思った。そうすりゃ俺はこれ以上苦しまずに済む。……だがお前は生還した。俺は絶望したぜ、このまま一生惨めな思いをするのかってな」
「須田……」
「だけどそうはならなかった。俺は親のギルドを継ぎ、そこに親と師匠を失って傷ついた状態のお前が入ってきた。俺は思ったぜ、これは神がくれた復讐のチャンスだってな! 社長という立場を利用すれば、お前を潰すことができる! だからお前をこき使ってやったんだ!」
須田は今まで溜め込んでいたものを吐き出すように喋る。
なるほど、だから俺だけ他の社員よりこき使われていたわけだ。あれはこいつなりの『復讐』だったわけだ。
「お前がそこまで追い込まれていたなんて知らなかった。気づかなくてごめん」
「やめろ! 謝るな! 俺をこれ以上惨めにすんじゃねえっ!」
須田は耳をふさぎ苦しむように言う。
こいつ自身、自分が異常なことをしていたことは気づいていたんだろう。しかしそれを認めてしまうと、自分が壊れてしまう。だから自分の行いを無理やり正当化している。
この状態では俺がいくら言っても聞いてくれないだろう。俺は足立に後を託す。
「もうやめにしよう、須田。田中と殴り合って少しはさっぱりしただろう? まだ遅くない、俺も一緒に出頭してやるからよ」
「足立、俺は……」
須田は膝をついたまま、腕をだらんと下げる。
もうその顔から怒りや敵意は感じない。これ以上暴れる気はないみたいだ。
「田中、お前にも一緒に来てもらうぞ。いいな?」
「ああ、分かってるよ」
俺は足立とともに須田のもとに行こうとする。すると、
「申し訳ありませんが、須田は連れ帰らせていただきます」
突然第三者の声が響き、一人の人物が足立の背後に姿を表す。
それは仮面で顔を隠した、スーツ姿の男性だった。右手にはナイフを持ち、それを足立の首元に当てている。
こいつどこから現れた? まったく気配がしなかったぞ。
「少しでも動けば足立の命はありません。その場を動かないでいただきたい」
「す、すまん田中……」
足立は覚醒者だが、首を斬られれば命はないだろう。ここは大人しく従っておいた方がよさそうだ。




