第4話 田中、拾う
「りりっ!」
ヴェノムサーペントを倒し、得意げに胸(?)を張るリリ。
俺はすかさず持参したちゅーるを取り出し、リリに食べさせる。
「よくやった。偉いぞ」
「りり~♡」
嬉しそうに声を出すリリ。
実はこっそり家でリリに芸を仕込んでいた。
最初はお手とか待てとか犬がやるようなことだけだったけど、俺を喜ばせたかったのかリリはそれ以上のことを自ら披露し始めた。
その一つが今行った『酸弾』だ。
前に倒したショゴスは、全身に特殊な酸をまとっていた。それは武器が触れると一瞬で溶かしてしまうほど強力なものだった。
リリはそれによく似た酸を体内で作り、発射することができるのだ。特訓のおかげで速度も狙いも上々。ダンジョンのモンスターにも通用する武器となっている。
「さて、まだ入り口だ残りをとっとと倒すとするか」
「りりっ!」
『シュルル……』
"ヴェノムサーペントくん、たじたじで草"
"そりゃ仲間がドロドロに溶かされたらビビりもするw"
"相手が悪かったよ……"
"自慢の毒よりリリたんの酸の方がやばいからね"
"どうすんだよシャチケンに遠距離攻撃まで加わったらもうどう攻略していいか分からんぞw"
"もともと斬撃飛ばせるからあんま変わらんくね?w"
"どっちにしろクソボスだからな"
"出会ったモンスターがかわいそう"
"弱体化はよ"
「よっ、ほっ」
攻めるのをためらっている隙を突き、更に俺は数匹ヴェノムサーペントを倒す。
残り一匹、さくっと倒して下に降りようと思っていると、その個体は大きく口を開いて鋭い牙の先から紫色の液体を大量に噴射する。
その液体はまっすぐこちらに飛んできて、俺の体に命中する。
"え!?"
"あの毒って飛ばせたの!?"
"オイオイ死んだわ田中"
"シャチケン!?"
"おお田中、死んでしまうとは情けない"
"さすがに死んだろ"
"いや絶対死んでないゾ"
"わざと食らったまである"
俺の体を覆った毒が、重力に従い足元に落ちる。
皮膚からでも体内に侵入し、大型生物をも簡単に仕留めるその毒だが……俺には効かなかった。少し口に入ったけど、特に問題はない。ヴェノムサーペントは何回か食っているので耐性はできている。
この程度の毒ならリリも平気だと思うけど、念のためリリに当たらないように手で守っておいた。
「ぺっ、ちょっと苦いな」
"苦いなは草"
"やっぱり食らってないやんけ!"
"知ってた"
"まあショゴス食ってたしね……"
"ヴェノムサーペントくんドン引きしてて草なんだ"
"絶対勝ったと思っただろうなw"
"運が悪かったね……"
"あ、斬られた"
"あっさり終わったなあw"
"最後の一撃は、せつない"
"これで全員倒したかな?"
最後の一匹を倒したので、俺は戦利品を拾う。
いくつかは穴の下に落下してしまったが、根の上に残っている物もある。
ヴェノムサーペントの牙に鱗、そして肉。自分のギルドを作ったのでダンジョンの物を売ることもできるようになる。今までは武器や回復薬の素材になる物以外は放っておいたけど、これからはこまめに拾っておかないとな。
「お、いい部位の肉も落ちてるな。リリも食うか?」
「りっ!」
ヴェノムサーペントの肉を一切れ与えると、リリは「んまんま」と美味しそうに食べる。
肉にも微量ながら毒はあるけど、特に問題はなさそうだ。どうやらリリも毒への強い耐性があるみたいだ。
「よーし、じゃあそろそろ行くか……ん?」
根から飛び降りようとした時、視界の端に黒い物が見えた。
ダンジョンの根に埋まっている長方形の物体。大きさは30センチほどで、黒くて半透明、中には機械のような物が透けて見える。
HDDに似ているといえば分かりやすいだろうか。
「迷宮情報端末がこんな浅いところに……回収しておくか」
俺はそれをスーツのポケットに入れ、回収する。
"ん? なにこれ"
"機械?"
"迷宮情報端末やん。なんでこんなところにあるんや"
"これはダンジョンの情報が保存されている謎物体だぞ。モンスターの名前とかランクは全て迷宮情報端末のものを参考にしてるんだよ"
"え? 誰かが命名してるわけじゃないの?"
"せやで、ネームドモンスターとかは政府が名前つけてるけど、種族の名前は全部迷宮情報端末から取られてる"
"確か魔法の使い方とかも迷宮情報端末に記録されていたんだよな。これがなかったらダンジョン探索ももっと遅れていたよな"
コメントでも言われているけど、この迷宮情報端末には様々な情報が保存されている。その中身はまだ地球人が知っていないものがほとんど。怪しさマックスだけど中の情報は正しいものだと証明されているので、人類はこれに頼っているのが現状だ。
なのでまだ人類が出会っていないモンスターも、記録上は保存されている。初めて見るモンスターも名前、強さ、そしてどんな特徴を持っているか分かるのだ。
しかし一般的なモンスターのデータは誰でもアクセスできるが、危険なモンスターやまだ確認されていないモンスターの情報などはアクセス制限がかかっていて誰でも見れるわけではない。
もちろん天月や凛は政府関係者なので日本が管理している全ての情報にアクセスできる。
というわけで迷宮情報端末の価値はとても高い。
基本的に入手したそれは政府に渡す決まりになっているけど、裏で高額取引されることも多いみたいだ。情報を独占するのはいつの時代もメリットが大きいからな。
一応世界の主要国は迷宮情報端末の情報を共有する条約を結んではいるみたいだけど、まあ全ての情報を共有してはいないだろう。どこの国も命がけで手に入れた情報を簡単に共有したくないだろうからな。
ちなみに迷宮情報端末に入っている情報はランダムで、価値の高いものから既に一般的に知られていてあまり価値のないものまで様々ある。
「いい情報が入っているといいけど、まあ帰ってのお楽しみだな」
俺は呟きながら根の端っこに立つ。
下を見るとかなり奥底まで穴が続いている。奥は暗くてどこまで続いているのか分からない。
根を伝って降りていけば安全なんだろうけど、そうしていたらいつまでも奥にはいけないだろう。いつもどおりあれでいくか。
"まさか"
"待ってた"
"なにが起きるんですか!?"
"酔い止めタイム"
"酔止薬キメろ!"
俺はぴょん、と根から飛び降りると、ダンジョンの奥めがけて落下し始めるのだった。




