第2話 田中、世界樹に入る
「お待ちしておりました、田中様。どうぞこちらへ」
「はい、よろしくお願いします」
代々木世界樹ダンジョンの入り口についた俺は、制服を着た人に案内されダンジョンを封鎖している隔壁の中に入る。
この人は『迷宮管理局』の職員だ。出現した迷宮は全て迷宮管理局が管理している。
「……急にお呼び立てして申し訳ありません。今手が空いている政府の者の実力では調査すらままなりませんでした。田中様だけが頼りなのです」
職員さんはドローンに聞こえないくらいの小さな声で、そう言ってくる。
実は今回のダンジョンアタックは、昨日急に決まったことなのだ。本当ならもっと入念に準備してから入るはずだった。
「いえ、構いませんよ。どうせ暇ですので」
それなのになぜ今日行くことになったのか?
それはこのダンジョンが活性化していると報告があったからだ。
なんでも報告によるとこのダンジョンの魔素濃度が急激にあがり、中のモンスターも活発化しているらしい。このような現象が起きるダンジョンは、特異型ダンジョンに変貌する可能性もある。だから俺の探索は前倒しになったのだ。
今回は既にダンジョンの『破壊許可』が下りている。このダンジョンが特異型だったり危険なものだと判明したら壊していいと堂島さんに言われている。
特異型ダンジョンは世界に数十個存在するが、破壊例は一例のみ。つまり俺がショゴスを倒したあのケースのみなのだ。だから堂島さんは俺に破壊まで頼んだんだろう。
「……ここから底へ行くことができます」
「なるほど、これはなかなか……」
案内された場所には、地下につながる大きな穴が空いていた。
ぽっかりと空いたその穴には、世界樹の根がたくさん生えている。これをつたっていけば奥まで歩いていけそうだ。
根以外に足場となるものは見つからないのでかなり難度の高いダンジョンと言えるが、俺が気になったのはそこではなかった。
「上層でこの魔素濃度。ここまで濃いのは『皇居直下ダンジョン』以来か……?」
一番浅い層でこれほど濃い魔素を感じるなんて、あのダンジョン以来だ。
歴の浅い探索者であれば、ここに入っただけで魔素中毒を起こすかもしれない。上層でこの魔素濃度であれば、深層はどれだけ強いモンスターが出るのか。少し憂鬱になるな。
「……どうされますか? 夕方になれば天月課長も手が空くと報告がありました。それを待ってからの調査でも大丈夫です」
「いえ……大丈夫です。今は少しでも時間が惜しいので」
天月が来てくれればかなり頼もしいけど、このダンジョンは今も成長を続けている。なるべく早く潜ったほうがいいだろう。それに仲間がいるといざという時、逃げにくい。
調査だけで済む可能性も考えると、ソロがもっともやりやすい。
その方が慣れてるしな。
「この太い根を下っていくのが安全だと思われます。しかし調査班では中層までたどり着くことすらできませんでした。それと……え?」
俺は手を上げて管理局の人の喋りを制する。
「そろそろ戻られた方がいいかもしれません。どうやらもう捕捉されているみたいですよ」
「え……!?」
しゅるしゅるというなにかが擦れる音が聞こえる。
それは大きな長い生き物が木の根の表面を動く音であった。それらは長い舌をチロチロと出しながら、俺たち二人を囲むように出現する。
それは紫色の鱗を持った巨大なヘビだった。目算だけど体長は十メートル以上ありそうだ。
数にしておよそ三十体ほど。木の根に巻き付いたそれらの牙からは、紫色の液体が滴り落ちている。
「あれはヴェノムサーペント!? Aランクのモンスターがこんなに……!」
「ここはすでに奴らの縄張りみたいですね」
「しかしここはまだ安全だったはずです、それなのにこんな!」
「それだけ活性化しているということでしょう。早めに来て正解でした」
俺は剣を抜き、構える。
さて、
「――――これより業務を開始する」
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