1ー②
だが、そうか。生徒会の二郎はお預けだな。まさかにも鉢あうわけにはいかないからな。
――と、不意に背後から妙な声が割り込んできた。
「み、み、みみmmそこないました! う、う、浮気野郎はてんちゅー! あいうぉんちゅー!」
あ、雨宮?!
さらに横からは、別の声まで飛んでくる。
「ガッカリですよ。清楚系よりもギャル派だったなんて。会長とは今後、仲良くできる気がしません。よ、よりにもよって、ぎゃ、ぎゃぎゃるの彼女がい、いるなんて!!!!」
和泉?!
どうしたチーム生徒会?! いったいなにを言っている?
あの女と僕ができていると思っていたのか……。それよりも人格否定してないか?!
ギャルが好きだからなんだというのだ?
人の趣味嗜好に口を出すほど、愚かなことはないぞ?!
混乱を他所に、シェダルがふっと笑って口を開く。
「なーんかルイ君大変そうだし、友達との時間、邪魔しちゃうのも悪いしぃ。このへんでバイバイしよっかなぁ。生ルイ君を一目みれただけで、充電完了しちゃったし~」
ほほう、小娘。引き際も見事なものだ。
離脱のタイミングを逃さない洞察眼は、まさしく守護者の資質。
ならば、この離脱を最大限に援護しよう。
よもや僕が二度も援護に回るとはな。
「充電完了したのは君だけじゃないよ。来てくれてありがとう。生徒会の仕事が落ち着いたら必ず時間を作るからね。そのときは五球瑠偉を独占させてあげよう。待てができる、いい子のまみちゃんにはご褒美をあげないとね」
だがしかし!
主導権は渡さないぞ、小娘!
ともあれ君の制服は目に焼き付けた。芸能人顔負けのビジュアル。校内でも一目置かれる存在であることに間違いはない。
SNSの海をひと泳ぎすれば容易に辿り着ける。
シェダル。これから先は二人三脚だ。
なんて、油断した刹那――。
気づけば肩に両手を添えられ、背伸びするように唇が耳元へ――。
「(君はさ、翔太くんのなに?)」
……ッ、み、耳が痺れる。ぞくぞくぞくっと背筋を走る――ッ。
冷たい。なんて冷徹な声……!
シェダル、君の底が見えない……!
しかし、僕だって負けてはいられない!
見せてやるよ、僕の力を――。
「好きだよ。だが、この想いは秘匿すべき真実。僕と君だけの封印だ」
そう囁き、人差し指を唇に当てて。魂心のウィンク!
さぁ、僕の深淵についてこれるかな?
するとシェダルは、僕が向けていた人差し指を取り、そのまま僕の唇に当て返し……た?!?!
まるで主導権を奪い返すかのように、
上目遣いで小悪魔みたいに微笑みながら――。
「もぉ! ルイ君ったらすーぐ周りが見えなくなっちゃう! お外で二人だけの世界に入るの禁止! って、いつも言ってるよね? ひょっとしてルイ君は~悪い子なのかな~?」
こ、小娘ぇぇええええええ!!!!
落ち着け。……シェダルとカフが張り合ったって、意味がないんだよ
…………いやはや、恐れ入った。
主導権はどうやってもこちらには戻ってこないのか。これではまるで、首輪を着けられたワンコではないか……。
頭の回転も速く、ずば抜けた洞察力で僕の一歩先を行く。
そしてこれだけ愛想よく振舞っておきながら、この僕を異性として見る気配は一切ない。
食えない女だ。
もし敵に回していたらと思うと、恐ろしくなるな。
「は、はれんちですぅ……! 絶賛、見損ない度、急加速中ですぅ!」
「こ、これだからギャルはハシタナイ……。だ、だあっあだだあから、きききらいなんですよ、ぎゃ、ぎゃるあh!!!」
……やれやれ、また騒がしいのが始まったか。
さきほどからまさかとは思っていたが、雨宮から向けられる視線は、雌そのものだな。……これはもはや、五球瑠偉ラブワールドに入ってしまっているのか……。
そして、和泉。お前は……ギャルが好きな思春期中学生かなにかか。しっかりしろ!
ともあれ翔太くんは去った。
もはや皆の記憶に残るのは、通りすがりのギャルに絡まれたオタク君。記憶の中の君は限りなくクリーンに書き換えられた。
では、仕上げといこうか、
僕はひざをつき、恭しく手を差し出す。
「まみちゃん。駅まで送るよ?」
すると彼女は手を取り、笑顔で――。
「いつもありがとう王子様っ!」
って、ちょ、ちょちょちょまて、まて、そ、それはあかんて……ちょちょちょちょ、……うっ……あああああああ。
「行こっか、王子様?」
この手の密着感はなんだ……。
こ、小娘……お前は、この五球瑠偉すらも掌握しようと言うのか……。
舐めるなぁ!!!!
「イエス、マイロード」
……いや、これは違うな。
でも、そうか。僕は初めてをふたつも奪われてしまったのか……。
恋人繋ぎと間接キッス。
別に誰かのために取っておいたわけじゃない。……なのに、なんだ。この喪失感。
事故や偶然の産物ではなかった。……奪われたんだ。
……シェダル。君はもしかして、悪魔なのか……?
そんな――。問いかけを残したまま、情況は容赦なく押し寄せる。
「待つでござる。待つでござる、待つでござる!!」
……うん。引っかかったね。
このままシェダルと駅へ向かうのは避けたいところだった。
一目につくのは、少ないに越したことはないからね。
それにイエスマイロードはまずい。
主従の契約ではないか……。僕らの間には上も下もあってはならない。
初めてを二つも奪われ、気が動転していたとしか言いようがない。
……考えるな。気持ちを切り替えろ。
たとえなにを失おうとも、僕は君のために五球瑠偉の本分を果たすのみ――!
「おのれ五球ぁぁ! 御方という最高のパートナーを持ちながら、まみちゃんとは如何なことかぁあ~! 弥彦丸、抜刀を許可する!」
「へいへい。……弥彦丸、抜刀ぉ」
「白牙の銀次、抜刀ぉぉぉおおおお! 我、御方親衛隊三番隊隊長、誰よりも御方を愛する者――。いざ、参る――」
なにが抜刀だ。厨二病疾患者共め。
……とはいえ、絶好の機会だな。
中二病疾患者に心より、感謝を――。
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