2話
老人→シィメ(エナトの祖父役)
猫→クレイ
ホーク→ノワール
門を出るとホークが肩に降りて来た。
「ノワール。」
(無事に終えられたようですね。手応えとしてはいかがでしたか?)
「(うん、何とかなったかな。少し緊張したけど、落ち着いて出来たと思う。)」
(それは上々。)
「(他の2人は?)」
(シィメさんは宿におられます。あの猫は知人に会うと言って行きましたので、もしかすると今日は遅くなるかもしれません。)
「(そうなの。じゃあ早く戻ってご飯にしようっ。お腹空いちゃった。)」
(えぇ、そうしましょう。)
<所変わって宿屋>
「そうですか。7日から10日ですと少し間が開きますな。一度あちらに戻りますかな?」
「んん~。 せっかく来たから観光しちゃダメ?」
「よろしいですぞ。今後のために土地勘を覚えた方が良いでしょうからな。」
「やったっ。」
そして翌朝。
「クレイはいつ帰ってきたの?」
「あれは深夜・・、いやもう夜明け前と言ったほうがよいかもしれませんな。」
その視線の先にはグレーの猫。ぐでんと寝ていて起きる気配ゼロ。
(まったく、久しぶりで羽目を外したのでしょう。放っておきましょう。)
呆れたように言う。 その内起きるだろうと2人と一羽で出掛けた。
「今日は主要な所を回ってみましょうか。何か要望はありますかな?」
「んん~っとねぇ、お店が沢山ある所とか、ギルドは押さえておきたいね。あと安くて美味しい物もチェックしたいし。」
「でしたらまず朝市を覗いてみますか。その後ギルド巡りをしながらお店をみましょう。それだけでも日が暮れるでしょうな。」
「そんなにあるの?」
「ここは王都ですからの。」
(私たちから離れないように気をつけてください。今までの街とは違いますから。)
「もしはぐれたら、中央広場の噴水で待ち合わせましょう。よいですな?」
「うん、分かった。」
まずは朝市に。
「賑やかだねぇ。」
あちこちで新鮮な野菜や果物が売られ、屋台では朝食やお昼のお弁当になる物が売られている。端々から聴こえる会話はご近所さんや常連客と思われる。仕事前の人が利用したり、主婦が買い出しに来ている様子。
そんな市をゆったり見て回った後に、ギルドの一つに着いた。
「ここは何て言うギルドなの?」
「ここは”常緑の大樹”。シンボルで分かるようになってますな。」
名にある通りに大樹のマークが掲げられている。建物には緑がひしめくようにある。 その後も、”深淵の泉”・”遊戯のしっぽ”・”烈火の剣”、”夕闇の輝き”、”木漏れ日の地平”と回って行く。
「そしてここが総本山と言われる”天香の園”ですな。」
「大きいね。」
「他の4倍はありますかな。」
「凄いですねぇ。」
ただただ見上げるばかり。シンボルはリーフのサークルに7つの花びら。
「名前や絵柄はきっと何か意味があるんでしょうね。」
「そうですな。興味がおありでしたら一度調べてみると良いでしょう。」
「うん。」
よい時間になったので、宿へ帰った。
「ただいまクレイ、ずっとここに居たの?」
その当猫は、窓際ですねながらしょんぼりしていた。尻尾を下にパシパシ叩くように揺らし、耳は伏せている。
「クレイ、気分が悪いの?」
(気を遣う必要はありません。起きた時に置いていかれたことを知って不貞腐れているんでしょう。)
「え?そうなの? ごめんね。起こしたんだけど、そのまま寝させてあげようってなってね。」
(あんなに遅く帰って来るからです。構うことありません。)
すると耳をピコピコ立てて動かしたあと、ピョンっとエナトに飛びかかった。
「わっ?」
(ひどい ひどいっ、ズルい ズルいっ。オレのことなんて忘れてただろぅーっ。)
と額を押し付けたりスリスリしてくる。
「えぇ?そんなことないって。」
(ウソだぁー。誰も一度も様子を見に来なかったじゃないか~。おかげでお腹空いて、宿の主人に恵んでもらうはめになったんだぞ~。)
すっかりいじけモードだ。
「えー?・・・っと?」
(何を甘えたことを。お金はあるんですから、普通に食べに行けば良かったでしょう。)
(健気に待ってたオレの心はどうなるっ。信じてたのにっ。大体猫なんですから持ち運べるサイズだしっ。)
(どうせ昼まで寝てるでしょう。己の責めをやつ当たるとは器が小さいですよ。)
(なんだとぅ?)
(なんですか?)
猫とホークが睨み合う。
「やめんか2人とも。近所迷惑じゃ。」
「えっと、ごめんね。明日は一緒に行こうね。おススメのおいしいお店があったら教えてほしいな?」
(・・・本当ですか?)
「うん。」
(約束ですからね?)
「うんうん。」
治まったようだ。
次の日。ゆっくり朝食をとってから出掛けた。
(昨日守衛団ギルドに行ったなら、今日は一般の方に行きましょう。あとは観光所をチェックですねっ。)
昨晩のご機嫌斜めはどこへやら、本日は張り切って前を行く。
(ここが総合ギルドですよ。入って見ますか?)
「そうだね。お世話になると思うし。」
大きい看板が付いた建物には入口が3つ。
「左が依頼窓口、真ん中が仕事を受ける窓口、そして右は買い取り窓口ですな。」
建物は繋がっているので職員は行き来出来るようだが、左はお客さんだけになるように仕切られている。真ん中と右の間には飲食スペースがあり、談話ができるようになっている。行き来は出来るが視界として区切られている。
守衛団ギルドは兄弟の関係で、平団員だと移籍もあるし仕事のシェアもある。護衛や魔物の討伐をメインに請け負う戦闘員だ。一般ギルドと呼ばれる総合ギルドは、その地域で働く人が利用している。お使いやお手伝い系から採取、討伐も。その地に住まう人から旅人まで、登録している人は多い。直接依頼する場合を除き、大抵はまず総合ギルドに来て、適材適所で分けられる。
「(王都はお高めなんだね。)」
他の街で同じ内容で比べても、1.5倍から2倍は高い。掲示板をサラッと見るだけにして出た。
その後はお城を眺めたり、公共の施設を見て回った。そしてここも重要な場所であるのだが。。
「ねぇ。 ここ入るの?」
気持ちが乗らない感じ言うエナトの前には、立派な神殿が建っている。
「せっかくですからの。一度は覗いてみた方が良いですぞ。」
「う~~。」
(私たちは外でお待ちしております。)
(ゆっくり待ってるからな。)
さぁさぁと押されて中へ。入るとすぐエントランスがあり、奥に礼拝ホールがある。静かではあるが、人の出入りはそれなりにある。
神殿の役割は、人の心の安寧を支えること。福祉活動にある。病や怪我で急にお金が払えない者に治療を施したり、身寄りのない人のより所となったり、育て親のいない子供を引き取ったりしている。コミュニティとしてバザーをしたり、お祭りでお店を出したりもしている。そんな良い所なのだが、何故気が進まないのかと言うと。。
「(神殿なんだから、神様だけ拝めばいいのに・・・。)」
神々しい絵や像が飾ってあるのだ。神様の、ではなく天にいる王、天王様の。神の代理人、御使い、そんなポジションだ。
「(確かにそういう役目もあるけどね。代替わりしてるから似てないのはそのままでいいよ。でも皆は誰に祈ってるの?神様だよね?そうであってっ!)」
エナト少年の心の叫びは果たして祈りになったのか・・。
「明日はどうされますかな?」
「んん~、そうだなぁー。」
(食べ放題だってっ。屋台を全制覇っ。)
「えぇ?流石にそれは大変だよ。」
(パン屋にお菓子だってまだ食べてない物が沢山ありますっ。是非把握しなくてはならない。これは使命でしょう。)
(あなた、どれだけ食い意地があるんですか?)
それが叶ったのかはわからないが、翌日からは色んなお店を回った。もちろん飲食店も。
「王都ってすごいね。沢山の人が働いているんだなって実感する。3日目なのにまだ全部回れないなんて。」
「そうですな。実際は貴族街など一般に入れない所もありますから、それだけ広いと言えますの。」
(そうそう。それに脇道や裏道は迷子になりやすいですから、絶対に一人で行ったら駄目ですからね。)
「はーい。」
その後の日もエナトたちは王都観光を楽しんだ。
猫なのにお金が使えるのかって?だって・・・ーーーーだから。