1話
ここからが本編かな。
=======================================
「落ちたらごめんね。」
そう言うのはまだあどけない年頃の少年。
「大丈夫です。自信を持ってくだされ。」
隣には祖父と思しき老人がいる。さらに・・。
(そうですよ。落ちるなど絶対にありませんから。)
(むしろやり過ぎない程度にと思ってラクになっ。)
声は周りに聞こえないが頭の中に話しかけられる。その出所は老人の肩にとまる一羽のホークと、少年の足元にいる一匹の猫だ。
彼らは少年の学園入学試験の為、王都エナルミアへ来た。そして今その学園の門の前にいる。
「じゃあ行ってきます。」
少年は門の所で試験票を見せて中へ入って行った。それを見送った者達は。
「お前たちはどうする?一緒に待つか?」
(いや、ちょっと根回しで知り合いに挨拶してくるよっ。)
(私は周囲を見回って来ます。)
「ならまた後での。」
そう言って彼らもそれぞれ別れた。
少年の名はエナト・マルナ。12歳。緊張の面持ちで受付をし、案内に従って一つの部屋に入る。
中にはすでに人がいて、エナトと同じ受験生のようだ。空いている所に座って待つ。静かな時間の中、その後も人が入って来ては同じように座っていく。そのうちに時間が来たのか大人の人が用紙を配り、筆記試験が始まった。カリカリと書く音だけが部屋に聴こえる。
「(・・次の問題はー・・、 マナとマナエーテルの違いを述べよ? ん~と・・・、マナは空気中にある要素で、、マナエーテルはそれに力を加えたもの、でいいかな?)」
2時間ほど経った。部屋にいるのは数えるほどしかいない。終わって次へと行ったようだ。エナトは見直しをしてから用紙を渡し、案内札に従い上の階へ。そこには筆記を終えた人達がそれぞれの部屋の前で座って待っている状態だった。エナトも誘導案内の人に言われてその一つに座る。
次の試験は面接だ。
「(練習はしたけど、上手く答えられるかなぁ・・?)」
少し不安に思いながら順番を待つ。
「次の方、どうぞ。」
エナトの番が来て中へ入る。椅子が一脚あり、促されて一礼して座った。前には齢も性別も異なる3人の大人がテーブルを挟み座っている。自ずと背筋が伸びる。
「では自己紹介からどうぞ?」
「はい。 エナト・マルナ、12歳、ハルサトから来ました。よろしくお願いします。」
笑顔で挨拶。
「本学園への動機は何ですか?」
「はい。もっと多くのことを学びたいと思ったからです。今しか学べない事を。」
「何か将来やりたい事があるかね?」
「はい。えっと、ギルドで働くのも良いかとは思っているのですが、祖父と暮らしているので一緒に働ける仕事が良いかなと考えています。もし素養があれば、マナ具を作ってみたいです。マナエーテル術にも興味はありますし、薬学も学んでみたいです。」
12歳にもなれば自分の将来は考えている。まだ決まっていなくとも、親の跡目を継ぐためや夢を叶えるために。
「うむ。いろいろ興味があるのは良いことだね。」
その後もいくつか質疑応答をして面接は終わった。部屋から退室すると一息つく。
次は実技だ。技館と呼ばれる所に行く。
「ここかな。」
一歩入ると中はドーム状の広い空間になっているのが分かる。それを仕切って会場としているようだ。
「試験票を提示して下さい。こちらでお預かりします。」
近くに来て声をかけてくれたのはまだ10代の女性。おそらく制服と思われる服を着ているのでここの生徒なのだろう。
「あ、はい。お願いします。」
彼女は受け取ると板のクリップに挟んだ。
「エナト・マルナ君、ですね。私は6学年武術科のエリナ・マージンです。ここ技館での試験の間は私が案内するのでよろしくお願いしますね。」
にっこり笑っているがキリッとした雰囲気だ。
「あ、どうも、よろしくお願いします。」
「では先ずはこちらへ。最初にする事は力判定です。やった事は?」
「あー・・いえ。ちゃんとやった事はないです。」
「あぁ、簡易的ならあるのね。やり方は同じだから大丈夫よ。ここで調べるのは量・質・術系統の3つ。直ぐに終わるわ。」
簡易なものはどの系統が使えるかしかわからない。後は成長と頑張りで変わるからだ。
先輩になるかもしれない女生徒について行くと、大きな天幕がある所に案内された。
「ここで並んで待って下さい。私は出口で待ってますね。」
「はい。」
列は結構並んでいるが進みは早いようだ。さほど待った感じもなく番が来た。中は仕切って別れていて、エナトもその一つへ行く。
「はいはーい。次の子こっちこっち。肩の力を抜いて深呼吸ー。 よし。ではこれに手を乗せてね。」
「はい。」
丸いガラス玉、その上に手をのっけた。するとガラス玉が光り渦を描き始める。
「ふむ。 ふむふむ。 なるほど。なかなかだね。」
眼鏡を押し上げながらつぶやいている。
「えっと・・?」
「あぁ、もう離していいよ。結果はここに書いておくからね。案内の子に渡せばいいよ。」
「はい、分かりました。」
「ん~~っと・・ はいっこれね。このまま向こう側に出るんだよ。」
「ありがとうございました。」
結果が書かれた紙をもらい、天幕の外へ出る。案内の女生徒は直ぐに来た。
「紙をもらいますね。どうでしたか?」
「えーっと、 なかなか?って言われました。」
「あら、結構良かったの?」
「さぁ・・?」
首をかしげる。
「え?見てないの?今見る?」
「え、見て良かったんですか?」
「当たり前じゃない。良いも何も君自身の情報よ。はい。」
と一度渡した紙を渡されたので見てみる。
量 5600
質 A
術系統 水・風・光
「うん。平民としては十分良かったみたいです。どうぞ。」
と再び渡した。
「それは良かったわね。じゃあ次に行きましょう。」
次はすぐ目の前だった。
「次はマナエーテルの力を確認する試験よ。自分の得意技があればいいけれど、なくてもこれくらい力が使えますって見せればいいわ。」
力の実技も場所は何箇所にもあって、どこでも良いと言うので近い所で待った。
「次の者、準備は良いか?」
「はい。」
順番が来て、さぁやるぞ、と始めようとした時。2つ隣でドカ~ンッ!!! と大きい音が。
「っ!!?」
何事っ?と周りも含めそっちを見ると、どうも受験者が派手にぶっ放した模様。本人は後ろにひっくり返ってアハハハ・・。と苦笑っている。
「毎年誰かがやるが、今年も例に漏れなんだな。」
慣れた感じにやれやれと頭をふる。
「あの、、大丈夫なんでしょうか?」
「ん?あぁ気にせずとも良い。意気込み過ぎたのじゃろう。防壁もあるし、怪我人もおらんようじゃから問題ない。 さぁ、こっちはこっちで始めよう。」
「はい・・。」
気が何だかそがれたが、心を落ち着かせ集中する。
「ほう。 綺麗じゃの。上手く調整出来ておる。」
見せたのは水の塊。まん丸で、更に中で回転させている。
「ふむ。その齢で器用じゃのぉ。攻撃の方はどうじゃな?」
「はい、風でやってみます。」
「ならあそこの的を狙ってみなされ。」
20m先に木枠に布を張った的がある。エナトはそれに向かって意識を高め、手に風を生み出す。そして・・。
「”スライスウィンド”ッ」
飛ばした風は見事に命中。
「ほう。見事。今でこれなら先が楽しみじゃな。よろしい、そこまで。」
同じように紙をもらい、礼をして戻る。
「良いコントロールだったわ。」
「どうも。」
「体は疲れてない?休むことは出来るわよ。」
「いえ、大丈夫です。次で最後ですか?」
「えぇ、最後は武術ね。得物はある程度選べれるわ。何も持ったことがない人は棒を選ぶわね。」
「そうですか。」
「君は何か身に付けているの?」
「僕は確かに棒レベルですが、一応弓には覚えがあります。」
「弓かぁ。あると思うけどどこかしら。ちょっと探しながら移動しましょう。」
広いとその場所を探すのも時間がかかる。
弓は端っこに場所が取られていた。待ちもなかったため直ぐに受けれた。手頃な弓を持ち、矢は尖ってない物だ。 先ずは固定された的。次に動く的。速さも変わったり、的の大きさも異なる。最後はこちらに向かって飛んで来た。なかなかの難易度だった。
「お疲れ様。手応えはどうだった?」
「始めは良かったんですけど、最後の方はちょっと乱れてしまいました。」
「そう?私はやった事ないからわからないけれど、それでもいい線いってると思ったわ。」
「だといいんだけど。」
とは言え褒めてもらえるのは嬉しい。
「ともあれ、これで全試験は終了です。最後に受付があるので、そこで報告と説明を受けて下さい。」
彼女とはそこまでのようだ。出口付近にある受付まで案内をしてもらった。
「私の案内はここまでです。受付の人にこれは渡して下さい。説明が終わったら後は案内板に従って門まで行って下さいね。」
「はい、ありがとうございました。」
「合格するといいわね。じゃあ。」
彼女はまた次の案内をしに行くのだろう。後ろ姿を見送って受付に並んだ。
「お疲れ様です。体調が悪いなどはありませんか?」
受付の職員がたずねる。
「大丈夫です。」
奥には救護テントがあって、まあまあお世話になっている人がいる。
「では試験票と結果の紙はこちらで回収いたします。 はい、全部ありますね。ではこちらをお持ち下さい。」
と渡されたのは手のひらサイズのカード。
「こちらは仮の通行証になります。試験の結果は7日後から3日間、朝の9刻から夕3刻、学園内の闘技場前にて発表されます。ですので門を通る際にはこの通行証を提示して下さい。もし都合が悪い場合は事務所までお問い合わせください。代理の方が来る場合も同様です。通行証をもし紛失された場合、責任は負いかねます。万が一入学までに見つからなければ、合否関わらずなかった事になりますのでくれぐれもご注意ください。 尚、エナト・マルナ様は12歳ですので、受からなかった場合でもまた来年受けることが出来ます。」
「え?そうなんですか?」
知らなかった。
「はい、当学園は幅広く受け入れており、毎年多くの方が受けられます。そのため倍率も高く落ちる方は珍しくありません。ですので14歳までは猶予として受けられます。」
「そうですか。」
「また、合格された場合ですが、そのまま事務所で受付がございます。入学までの手続きや説明書などをお渡しいたしますので案内に従って足をお運び下さい。その後は制服の採寸もございますので、時間には余裕を持ってお越しください。」
「分かりました。」
「何かご質問はありますか?」
「んん~~、、いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
「いえ、ではお出口はそちらになります。お気を付けてお帰り下さい。」
礼をして立つと、技館を出た。
甘酸っぱい青春?それはありません。ですが次もどうか読んであげて下さい。