俺と美少女のキューピッドはフワフワでモフモフの子猫だった
俺が彼女と出逢ったのは雨が降る日の橋の下だった。
その日、俺は傘を忘れて濡れながら学校から帰っていた。
丁度、雨宿りができる橋の下を見つけ走る。
そこには先客がいた。
それが彼女だ。
彼女は座り込んで背中を見せていたから俺に気付いていない。
俺は彼女に近づいた時に彼女が何故、座り込んでいたのか知った。
彼女は子猫と遊んでいた。
「君の猫?」
「えっ」
彼女は俺に驚き振り向く。
「この子はここに捨てられていたんです」
「そうなんだ。世話してるの?」
「はい。この子を飼ってあげたいんですけど家はアパートなので」
「そうなんだ。俺もこの子を触ってもいい?」
「はい。この子は触られるのが好きなんです」
「うわ~。フワフワでモフモフだね」
「そうでしょう? この子の毛を触ると癒されますよね」
「名前は?」
「あっ、リルです」
「リル。よろしくな」
俺は猫のリルに挨拶をして喉を撫でた。
するとリルは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
それが彼女と猫のリルとの出逢い。
俺はその日から毎日のようにリルに会いにいった。
彼女に会いたくて。
俺はいつの間にか彼女を好きになっていた。
「リル。今日も元気か?」
「ミャ~」
リルは俺の言葉に返すように鳴いた。
「リルはあなたのことを本当に好きなんですね」
「どうして?」
「私と遊ぶよりあなたと遊ぶ方が楽しそうです」
「それは俺達が男だからだよ」
「えっ」
「リルは男の子だよ」
「そうなんですか?」
「同じ性別だから気が合うのかもしれないよ」
「そうですね。リル。君は男の子だったんだね」
彼女はリルを撫でる。
俺はリルに嫉妬をしそうだ。
羨ましい。
俺も彼女に触れて欲しい。
そして俺も彼女に触れたい。
彼女とリルに会いに行く毎日を過ごしていたある日。
「あなたに話さなくてはいけないことがあるんです」
「何?」
「今度、引っ越すことになったんです」
「えっ」
「リルのお世話ができなくなるんです。あなたにリルを任せてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「良かったです。リルのことが心配だったんです」
「いつ引っ越すの?」
「明日です」
「えっ。早いね」
「言おうと思って言えなかったんです」
「じゃあ今日が最後なんだね」
「はい。すごく寂しいです」
「リルに会えなくなるからね」
「リルもですがあなたにも会えなくなります」
「えっ」
「あなたとリルと私。二人と一匹で過ごす毎日は楽しかったです」
「俺も楽しかったよ」
「ミャ~」
「リルも楽しかったって言ってるよ」
「リル。私のことを忘れないでね」
彼女はリルを抱き締めた。
リルは彼女にスリスリと顔をつけていた。
彼女とは今日で最後なんだ。
それなら彼女に好きと言いたかったけど彼女を困らせるようで言えなかった。
「リル。彼女がいないとこんなに暇だったんだな?」
彼女がいなくなって一週間が経とうとしている。
俺は彼女がいなくなったことを実感していた。
彼女がここに来ないのなら俺もここに来る必要はない。
それならここに来ることをやめよう。
俺はリルを家へ連れて帰った。
リルは俺の家の猫になった。
毎日、俺に遊んでとじゃれてくるリル。
可愛いから俺は遊んであげる。
リルはもう、俺達の家族になった。
何処に行くのも一緒だ。
しかし、ある日リルは家を逃げ出した。
近くを探してもリルはいない。
俺は必死にリルを探した。
彼女にリルの世話を任されたのに。
彼女?
俺はリルが行きそうな場所を思い出した。
俺は橋の下へ着いた。
そこには一年前に見た光景があった。
女の子が座り込んでいる。
俺は近づいて、彼女が座り込んでいる理由を知った。
「君の猫?」
「えっ」
彼女は驚き振り向く。
「この子はもう、首輪をつけて人の家の子になってるみたいですね」
「うん。俺の家族になったよ」
「良かったね。リル」
「会いたかったよ」
「えっ」
「リルはそう思ってるよ」
「嬉しい」
彼女はリルの喉を撫でる。
俺にも触れて欲しい。
俺も彼女に触れたい。
そして俺は彼女に手を伸ばした。
そして彼女の頭を撫でる。
「どうしたんですか?」
「ずっとこうしたかったんだ」
「私の頭を撫でたかったんですか?」
「そう。君に触れたくて仕方なかったんだ」
「私が猫ちゃんみたいな言い方ですね」
「君は猫みたいだよ」
「何処がですか?」
「リルと同じで自分が好きな時に俺の前から消えて自分が好きな時に俺の前に現れる、気まぐれの猫だよ」
「私がいなくなったことを怒ってるんですか?」
「違うよ。あの時、言えなかった俺に腹が立ってるんだ」
「言えなかったことですか?」
「俺は君が好きだったんだ」
「えっ」
「リルに会いに来るのは口実で本当は君に会いに来てたんだ」
「嘘ですよね?」
「嘘なんかじゃないんだ。俺は今、君を見てもやっぱり君が好きだったって思ってるよ」
「私もあなたが好きですよ」
「えっ」
「私もあの日あなたに好きって言いたかったんです。でもあなたの迷惑になったらダメだと思って言わなかったんです。言ってたら何か変わってたんですかね?」
「今から変わるんだよ」
「え?」
「今から俺達は恋人になるんだよ」
「でも、あなたは私のことが好きなのは過去の話ですよね?」
「俺は今、君を見てもあの日の気持ちと何も変わらないよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
彼女は嬉しそうに笑った。
そんな彼女の足もとでリルが彼女の足にスリスリと顔をつけていた。
「あなたに謝らないといけないことがあるんです」
「ん? 何?」
「この子の名前はリルじゃなかったんです」
「えっ、でも君はリルって言ったよね?」
「はい。私の名前を聞かれたと思って私の名前を言っちゃったんです」
「何で訂正しなかったの?」
「あなたはリルを呼び捨てで呼んだんです。私を呼び捨てで呼んでるように聞こえて嬉しかったんです」
「嬉しい?」
「私はあなたを最初に見た時、一目惚れをしました」
「俺に?」
「あなたは私に声をかけたときすごく優しい目をしていたんです。私はあなたの目に惹かれました。あなたを知るとあなたの全てに惹かれていました」
「最初から俺のことが好きだなんて全然、気付かなかったよ」
「あなたにはバレないように隠してました」
「だから君は気まぐれだったんだね」
「気まぐれ?」
「甘えてたと思ったら次の日は何もなかったように俺に話してくるからね」
「そんなことありました?」
「あったよ。君が友達と喧嘩をした時は泣いて俺に甘えていたのに次の日には友達と仲直りしたって笑って俺にじゃなくてリルにずっと仲直りした報告してたでしょう?」
「あれは、泣き顔を見られたから恥ずかしくて」
「君は気まぐれの猫なんだよ」
「猫でいいです。だから私をもっと撫でて下さい」
「ワガママな猫だね」
俺は彼女の頭を撫でた。
「リル」
「えっ」
「好きだよ。リル」
「私も大好きです」
そして俺達はキスをした。
俺達の足もとでは猫のリルが俺達の足にスリスリと顔をつけていた。
猫のリルは俺達の恋のキューピッドなのかもしれない。
いつか俺とリルと猫のリルが一緒に過ごせる日が来るといいな。
二人と一匹の生活は楽しくて幸せなんだろうな。
読んで頂きありがとうございます。
動物の可愛いさは誰にでも癒しを与えてくれますよね?
また明日の六時頃に新しいお話を投稿します。
明日の主人公は妹が兄離れをして寂しい思いをしているお兄ちゃんです。
気になる方はまた明日、読みに来て下さい。