#手錠
#手錠
「しまった……。もうこんな時間か……」
俺は、真夜中に目覚めると、横でルーシーがスヤスヤ寝ていた。
そこで起こさない様にベッドから出ようとする。
ガチャガチャガチャ。
「え?」
だが、俺の右手には、なぜか手錠がかけられていた。
それがベッドと繋がれていて、俺は、ベッドから離れられなかったのだ。
きっと、ルーシーが俺の寝ている間にかけたのだろうが、俺は、そんなに焦ってはいない。
向こうのテーブルの上にそれらしき鍵が置いてあったからだ。
所詮、こどものいたずらである。
俺は、ルーシーをまたいで向こう側を目指そうとした。
「ふにゃ!?」
でも、その瞬間、俺は、思わず声が出そうになる。
なぜならルーシーが俺の体に抱き着いてきたからだ。
ルーシーの華奢な体が、手が、足が、俺の体にまとわりついてくる。
それは何とも言えない感覚だったが、俺は、ゆっくりルーシーの顔を伺う。
「パパ……」
……どうやらルーシーは寝ぼけているだけの様だ。
ルーシーの手を優しく取り外したが、その力はこどものそれだった。
「ふぎゃ!?」
だが、一安心したのも束の間、再び、抱き着かれる。
それは厄介な事に三、四回続いた。
仕方なくルーシーを起こそうと思ったが、その瞬間、俺の腕に冷たいものが伝う。
「パ……パ……どうし……」
ルーシーの目から一筋の涙がこぼれたのだ。
それを目の当たりにした俺は、ルーシーを起こすことが出来なかった。
「パ……パ……」
そう言えば、俺も、親父が大好きだった……。
親父は、多分、そこまで稼ぎはなかったが、酒もタバコもギャンブルもしない人だった。
いつも誕生日に、俺の知らないヒーローもののおもちゃを買ってきた。
俺は、いつも文句を言っていたが、いつも親父は笑って誤魔化していた。
そんな俺は、親父が亡くなった日、涙が出なかったのだ。
きっと頭で分かっていても、心が理解しなかったのだ。
心が理解したのは、二週間後だった。
俺が夜中に目を覚ますと、隣で母さんが声を殺して、涙を流していたのだ。
最初は、何で俺たちを裏切ったんだと怒りが湧いてきたが、親父の少ない保険金が下りた時、そんな気持ちも霧の様に消えていた。
やっぱ俺の親父は、俺の親父だったのだ。
またいつかふと、俺の知らないヒーローもののおもちゃを買ってきて、また笑って誤魔化すんじゃないかと思う時がたまにあるが、そんな訳ないだろう。
それにしてもリースの父親はどうしたのだろう?
こんなに家を空けているが、生きているのだろうか?
それは分からないが、とりあえず俺は、明日の朝になったら、この手錠をルーシーに外してもらおうと、目をつぶる事にした。




