#希望
少し修正しました
#希望
「いい? 落ち着いて聞いて? あんたがアタシと別の異世界から来た事は、分かってるわ」
するとアリサは続けた。
「アタシがいた世界は、マテリアルっていう物質で回っている世界だった」
「マテリアル?」
「そう。でも、地中から手に入るマテリアルには、限度があったの。それでアタシの世界は、マテリアルを求めて、世界を二つに分ける大戦争が起きた。そんな中、弱小国であるアタシの国は、真っ先に滅ぼされたわ。その戦争で家族を失ったアタシに当然、生きる術なんてなかった。死を覚悟した瞬間、声が呼んだと思ったら、アタシはこの世界にいたのよ」
「……」
「初めの頃は、それが何を意味してるか分からなかったわ。毎日知り合いを探す日々だったが、この世界で知っている人に出逢う事なんてなかった。そんな中、マザーに拾われたの。マザーはアタシに優しかったわ。勉強も生きる術も教えてくれた。だけどアタシには理解できなかった。なぜマザーがアタシに優しくしてくれるのか? それである日、教えてもらったのよ。その理由を……」
「理由?」
「全ては新約神書に書かれていたの……」
「新約神書?」
そこでアリサが一冊の本を見せてくれる。
「そこにはアタシたちに起きた全ての出来事が書いてあるわ。マザーはそれに従っていただけ……」
そこには俺の日常が、まるでそばで見ていたかの様に事細かく書いてあった。
母さんが死んだことを知った事や、気が付いたらこの異世界にいた事、勇志と決闘したことなど……。
「なんでこんな物が!?」
「やはりあんたも読める様ね?」
俺は、目を疑ったが、途中でページをめくる手を止める。
なぜならそこには、今俺がこの本を読んでいる事が書かれていたからだ。
「ははっ! そうか、分かったぞ! これも全てお前の仕業なんだな! も、目的は何だ!」
きっと、これもこの異世界の魔法か何かなんだろう。
「……私の目的は、この本を作った奴を見つけて、この本を書き換えさせる事よ」
そうじゃないのか……?
「アタシのハローワールドは、条件が揃った対象者が望めば、私が行った事がある場所にテレポートさせる事が出来るスキル。ついでに対象者の居場所も特定できるけど、それはおまけだわ。なぜ今回、あんたにハローワールドが答えたか、アタシにも分からないけど、その本が読めるという事は、アタシたちには過去を変えれる権利があるって事なの」
「権利……? そんな話どう信じろと……?」
「信じなくていいわ。でも、あんたはアタシと契約したの」
「え?」
「それはつまり、あんたはアタシをアタシはあんたを騙せないって事」
よく分からない契約をさせられた様だが、どうしたらいいのだろう?
「解除する方法は?」
「それは私も知らないわ。でも、もう一度アタシとキスすれば、何か分かるかもね……」
アリサが笑みをこぼすが、俺は、からかわれてるだけの気がして、確かめる勇気はなかった。
「……」
「きっとアタシたちはその誰かに試されてるの」
「何を?」
「さぁ? でも、きっと、この世界に神がいるなら……いや、それはいいわ」
それはもしかして死んだ母さんを救えるって事だろうか?
いや、こんな話、にわかには信じられない。
でも、そんな事言ったらこの異世界だって到底受け入れられないが、俺は、こうして当たり前の様に息をしている……。
「俺は、どうすればいいんだ?」
「それは、あんたが決める事よ。まだ時間はある。もしこの世界に希望を抱くなら……きっと、答えはその先にあるわ」
「希望……?」
それは本当に希望だろうか?
それは分からないが、そんな物俺の人生にある訳がない。
人は、誰にでも希望はあると簡単に言うが、現実は、恵まれている人間にしか与えられていないのだ。
いや、恵まれている人間の方が限りなく多いと言った方が正確だろうか?
「それじゃあ、アタシはもう寝るよ? あんたもその事について、よく考える事ね?」
そう言うと、アリサはその部屋を出て行ったが、俺は、とても眠れそうになかった。




