#5.ボールペン
#5.ボールペン
冷たい霊安室の母は寝ている様だった。
「俊彦君……おじさんは一旦家に戻るけどどうする?」
「……」
「うーん……。とりあえず何かあったらここに連絡ちょうだい? すぐ駆け付けるから……」
俺にかける言葉が見つからない店長は、スマホの連絡先を書いた紙と二千円を置いて霊安室をとぼとぼと後にする。
「……」
霊安室は薄暗く、とても静かだった。
「母さん! 何で俺を一人にするんだよ! 俺にはもう母さんしかいなかったのに!」
俺は悔しくて泣いていた。
悲しくて泣いていた。
なんでこの世界はこんなに俺たちに残酷なんだろう?
何度拭っても涙が止まらない。
本当はいつか俺が大人になったら、母さんを楽させるつもりだった。
暖かい部屋で、おいしい物をたらふく食べ、好きなテレビを見る……。
そんな当たり前の日常を思い描いていた。
俺は母さんを守りたかったのだ。
なのにもう……。
母さんは軽く乗用車に吹き飛ばされ、頭の打ちどころが悪く死んでしまったのだ。
学校で馬鹿にされ、お金もなく、食べる物もない。
それなのに、こんな境遇なのに、なぜ生き続けたのだろう?
それは母さんがいたからだ……。
「母さん……? やっとゆっくり休めるね……? もうお金の心配なんてしなくていいんだよ……? うぅぅ……」
俺は、店長が連絡先を書くのに使ったボールペンを思いっきり強く握りしめる。
そして、勢いよく自分の喉を突き刺した。
ペンキの様な真っ赤な血が噴水の如く噴き出し、ピチャピチャと床に垂れる。
痛い……。
痛いよ……母さん……。
とても苦しい……。
でも……。
段々意識も遠くなっていく……。
「か、かみさ……ま……。今度生まれ変わったら、母さんと父さんとお金持ちに……」
俺はその場に崩れる様に倒れ込んだのだ。