#40.真の冒険者
#40.真の冒険者
「まさかお前たちは、試しの洞窟でキマイラに遭遇したというのか?」
「そうや! そのせいで洞窟に閉じ込められて間に合わなかったんや!」
急に国王の様子がおかしくなるが、一体どうしたのだろう?
「そんな訳あるはずがない……。なぜならこっちの世界に今、キマイラがいるはずないからな……。だが、しかし……」
国王は続ける。
「それでそのキマイラはどうした?」
「死におった」
「倒したのか?」
「まぁ、そういう事になるんやろうな?」
「……それを証明できるか?」
「今、洞窟に行けば、キマイラの死骸が転がっとるわ?」
「……にわかには信じられないが……どう思う? アルベール?」
「……言い伝えによれば、試しの洞窟は真の冒険者を試すとあります。それがキマイラであるかどうかは、私にはわかりかねますが、日没にぎりぎり間に合わなかったとはいえ、勇者の証を手に入れたという事は、それなりの資格はあるかと……」
「ふむ、そうじゃの……。よろしい……。お前たちにも勇者の称号を与えよう!」
リースが眩しいくらい満面の笑みになる。
勿論、ヒューストもだ。
だが、その場にそれに納得がいかない者が一人いた。
「はぁ? 納得できねーな? 俺は時間を守ったのに、コイツらは時間を守らなくてもいいって言うのか?」
一番に勇者の証を持ってきた勇志だ。
「口を慎め! 勇志殿! 国王の決定だぞ!」
だが、それをアルベールがなだめ様とする。
「いや、言わせてもらうね? それならこの後にも他の候補者が来たらどうするんだ?」
「ふむ。確かに勇志殿の言い分にも一理あるな……。だがグライズ王国は今、有能な冒険者が一人でも欲しいのじゃ」
「なら俺様は他国に行って他国の勇者になるぜ? それでもいいのか、な?」
勇志は自信に満ちたイントネーションで、不敵な笑みを作るが、勇志ほどの使い手が他国に取られたら一大事である。
勇志は三百年に一人の逸材だ。
それに比べリースとヒューストはせいぜい百人に一人の逸材である。
それを勇志は、十二分に理解しているのだ。
「国王? どうします?」
「ふむ。それは困るの……。では、どうすれば勇志殿は納得するんじゃ?」
「ゴミ拾い! 俺と戦え!」
「エ……?」
「ゴミ拾いが決闘で俺に勝ったら、お前たちが勇者になる事を認めてやるよ?」
きっと勇志は俺に負けるなんて微塵も思っていないだろう?
勿論、俺も勝てるなんて思ってない。
でも俺は、せっかく満面の笑みになったリースの事を思うと、わずかでも可能性のあるその申し出を、本当は怖いからって、そんなに簡単に無下には出来なかった。




