#31.悪くない……
#31.悪くない……
「避けてー!」
だがリースは、必死に届かない手を勇志に差し伸べていた。
それが俺の視界に入った刹那、俺はまだ誤魔化していたかった自分のあまりにも醜い本性にハッとする。
(ザワザワザワ――)
それは、俺が今まで必死に正当化してきたものをあっさり笑った。
勇志に斧が当たる!?
そう思った次の瞬間、ミノタウロスはやはり急所に当たっていたのか、そのまま崩れる様に倒れたのだ。
「この女? 何言ってるんだ?」
その様子に勇志は後ろを振り向くが、そこにはもう立ち上がっていたミノタウロスはいない。
なのに俺は異常なくらい震えていた。
「何震えてるんだ? ゴミ拾い? さっさとそこをどけよ?」
「悪くない……」
「何だコイツ?」
勇志が俺を冷めた目で見る。
「勇志様? そろそろ行きましょう?」
シェリーは俺の存在を完全に無視していた。
「そうだな? あんまり遊んでいると間に合わなくなるかもしれないからな? じゃ、ゴミ拾い? カスがいくら集まったってカスだと思うがせいぜい頑張ってくれ? アハハハハ!」
高笑いしながら勇志とシェリーは俺たちが来た道を戻って行った。
「よかったー」
そんな中、リースが安堵するが、俺はまだ震えを止められないでいた。
「どうしたの? 俊彦?」
「何お前が震えてんねん? それより先を急がんと間におうなるかもしれんぞ?」
「俺は……悪くない……」
勇志が派手に暴れたため、俺たちは魔物に遭遇する事なくさらに奥に進めた。




