#30.奥底
#30.奥底
「まさかグランドセイバーのスキルを使いこなす奴がおるとはな……」
俺の横でヒューストがぼそりと呟く。
「グランドセイバー?」
それを俺は聞き逃さなかった。
「火、水、風の魔法が同時にかかった魔法剣や? その威力は、オリハルコンさえゼリーの様にぶった切るっていう話や?」
「……」
「その上噂だと、アイツはもう一つスキルを持っているって話やないかい? 怪物やな?」
俺は執事見習い。
それに対して勇志は三百年に一人の存在。
一体この違いは何なんだ?
誰が決めたというのか?
たまたまか?
たまたまでこんな悔しい思いをしてるのか?
俺は、爪が手の平に食い込むほど強く拳を握りしめる。
俺は俺として生まれただけで、すでに大抵の人に敗北しているのだ。
(勝ちたい……)
それがどんなに情けない想いか分かっていても、そう何かにすがらないと生きているのが辛いのだ。
「ゴミ拾い? もうこの近くに勇者の証はないみたいだぞ? こんなに要らないだろうが、俺はもう四つも手に入れたぜ? 一個やろうか? ……なんてな? ハハハハハハ!」
カタン。
その時、勇志の後ろで、急所を免れたミノタウロスが静かに立ち上がる。
勇志は気づかず笑っていた。
まるで学校で俺の気持ちに気づかず笑っていた時の様に。
そのままミノタウロスは勇志に向かって重そうな大きな斧を振り下ろす。
その瞬間、俺の心の奥底に一生懸命誰にも悟られない様に隠していた本性が、はっきり顔をのぞかせる。
(ザワザワザワ――)




