#3.風
#3.風
チクタク、チクタク、チクタク……。
寝室にある古びた時計は、以前、ゴミ捨て場に捨てられていた物を俺が拝借してきたものだが、もう夜中の十二時を指すというのに母はまだ帰って来ていなかった。
外は家の中まで音が聞こえる程風が強く、そのせいか俺は中々寝付けないでいる。
(え……?)
するとどこからか声が聞こえた気がした。
『……て』
だが今、この家には俺以外いないはず?
幽霊なんて信じていないが、もしいるなら俺の親父の幽霊がとっくに親父の知り合いに復讐しているだろう。
風の音だろうか?
『……けて』
しかし、耳を澄まさないと聞こえないくらい小さいが、確かにどこからか俺を呼ぶ声がするのだ。
俺は仕方なくムクリと起き上がり、枕元の懐中電灯に手をやる。
そして、ライトをつけ、隣の台所に向かった。
「……」
だが、やはり誰もいない。
ガラガラガラッー!
その時突然、台所からよく見える建付けの悪い玄関のドアが勢いよく開く。
「俊彦君! 俊彦君はいるか!」
それは母のスーパーのパート先の店長だったが、店長は母の事情を知り、唯一母に親切な人である。
でも、何でこんな時間に?
それも店長はかなり取り乱している。
「さっき! うちの店に電話があったんだが! 君のお母さんがパートの帰りに事故に遭ったみたいなんだ!」
(エ……!?)
それはこれ以上ないと思っていたどん底の俺を、さらにどん底に突き落とす出来事だった。