#29.差
#29.差
大鳥は馬の様に速かった。
それに乗って試しの洞窟まで来たのだが、それでももう夜が明ける。
地平線の向こうの朝日が顔を出し、徐々に洞窟の入り口をあらわにしていく。
当然中は薄暗かったが、リースの魔法で足元を照らし、俺たちは勇気を出して足を踏み入れた。
壁も地面もゴツゴツしていて、恐る恐る思ったより広い洞窟を進んでいると、説明の時見かけた威勢の良かった候補者が何人も途中で倒れていたが、一体ここで何があったのだろう?
もうかなり進んだというのになぜかまだ魔物の姿はない。
「食らえ! グランドセイバー!」
するとさらに奥に進んだところで俺の知っている声がした。
「他の候補者はこんなのに手こずってるのか? 大した事ないな?」
それはやはり勇志だったが、勇志はゴブリンよりかなり強力なミノタウロスを紙の様にぶった切っていた。
俺たちが駆け寄る。
「遅かったじゃねぇ―か? ゴミ拾い?」
勇志はまだ余裕があるのか、俺に声を掛けながら、ミノタウロスの胸に剣を突き立て、止めを刺す。
周りにはミノタウロスの死骸がちらほらしているが、どうやら全て勇志が倒した様だ。
先ほどの候補者たちはきっとそのミノタウロスにやられたのだろう。
だが、勇志は怖くないのだろうか?
俺は盗賊に襲われた時も、ゴブリンに襲われた時も、体が石になった様に動けなかった。
今まで命のやり取りなんて経験がなかったからだが、それは当然勇志も同じだろう?
なのに勇志は慣れた様にミノタウロスをコテンパンにしている。
同じ人間なのになんでここまで差があるのだろう?
これが生まれ持った能力の差なのだろうか?
「勇志様? これが勇者の証みたいですね?」
歩み寄るシェリーの手には、大きめのルビーの様な石が輝いていた。




