#27.リースの気持ち
#27.リースの気持ち
「それならヒューストのサポーターを紹介してくれよ?」
「……ワイは一人や」
「一人?」
「ああ。ワイにサポーターはおらん」
「いないの?」
「そうや。ワイは一人でも強いからな? ガハハハハ!」
道理で……。
一人じゃどんなに強くても、色々大変だろうからな。
試験は丸二日もあるが、それだとおちおち眠れもしない。
でももう断れない。
それに他の名前も知らない冒険者に比べれば、ヒューストの方が辛うじてましだ。
途中で裏切られたとしても、二対一なら逃げる事も可能だ。
「じゃあ、行こうや!」
俺たちは、食事を終えた後、荷物を馬車に載せ、試しの洞窟に向かう事にした。
馬車の中は思ったより暇だった。
まだ二時間も経っていないが、危険のきの字もない。
「何かあったら起こしてくれ」
そんな中、ヒューストが慣れているのか、器用な事に座った状態で目を閉じる。
(よくこの状態で眠れるな……)
いや、それより自分だけ寝る気か……?
「俊彦?」
すると隣で静かにしていたリースがこちらを振り向く。
「何?」
「何か思い出せた?」
「え?」
「いや、出逢った頃、自分の事がよく分からないって言ってたじゃない? どうなったのかなーって?」
「……」
「言いたくないならいいの……」
「……俺、多分、母さんを追ってここまできたんだ」
「お母さん?」
「うん。でも、この国にはいないかもしれない。だからいつかはリースの家を出て行かないといけないと思ってるよ……」
「……そうなんだ」
嘘を付くのは簡単だった。
だが真実の中に嘘を混ぜた方が効果的だし、なんかリースの澄んだ目を見ると、ついついおしゃべりになってしまうのだ。
リースがふと月が欠けた様な悲しい顔をする。
「俊彦は優しいね……?」
「優しい?」
「だって、全く関係ないのに私に協力してくれるんだもん?」
「それは違うよ……」
「何が違うの?」
「俺はそんな人間じゃない」
「そうかな……?」
そうだ。
俺はそんな人間じゃない。
本当は、他人を信じきれないほど臆病で、他人の価値観を認められないほど、卑怯者だ。
もしピンチになったらリースやヒューストの事も置いて逃げるだろう。
「私さー、男の人って、父かじぃとしかまともに話したことないんだよね? だから俊彦が現れた時、私を守ってくれた時、何とも言えない気持ちになったんだ? だから俊彦が新鮮なのかな?」
それはどういう意味だろう?
「……もっと笑ってよ?」
「何で?」
「だって、俊彦、めったに笑わないんだもん? 私、俊彦の笑った顔が一番――」
「……何いちゃついてんねん?」
「起きてたのか?」
「少し寝ようと思ったがこんなんじゃ寝れんわ!」
「ごめん……」
「いや、そっちじゃない! 囲まれてるって事や!」
「囲まれてる?」
俺が慌てて小窓から外を見ると、そこには小学生くらいの体格のゴブリンの軍団が、ダチョウみたいな大きな鳥に乗って、俺たちの馬車の周りを追走していた。
その数八体!
「何かあったら起こせって言っただろ!」
全く気付かなかった。
話をしていたのもあるが、よく耳を澄ませないと、大鳥が微かに砂を蹴る足音は聞き取れない。
それにすぐ気が付くなんて――。
「どうするんだ?」
俺が即座にヒューストに聞くと、ゴブリンの一体は小さな火の矢をこちらに飛ばそうとしていた。




