#20.選ばれし者
#20.選ばれし者
王都に向かう途中で、近くの村に休憩するために寄ると、その村では勇者の試験の話で持ちきりだった。
「ついにこの国にも現れたらしいぞ!」
「何が?」
「何がって、神に選ばれし者だよ!」
「へぇー、あの伝説は本当だったんだな?」
「ああ、それでその者は、まだ十五歳じゃないというのにすでに二つのスキルを持っているらしい!」
「へぇー、じゃあ、当然そいつも今日の試験に参加するんだろうな?」
「勿論! 勇者の試験では勇者が何人か選ばれるらしいが、王都では、その者が選ばれるのは確実だって噂だ!」
「へぇー、これでこの国もちっとは良くなるのかね?」
「さぁ? だが勇者の強さは、その国の強さを表すというから、もしその者が本当に勇者になったら、今まで下位だったこの国も少しはましになるかもな!」
「それは凄い話だな?」
「だろ?」
俺がゆっくりトイレを済ませると、その村には今日の試験を受けるのか、冒険者がちらほらいたが、その一人、金髪長身の若い男が突然俺に話しかけてきた。
「あんさんも勇者の試験受けるのか?」
「あんた誰?」
「いや、これは失礼。ワイの名前はヒューストや。今日の試験で勇者になる男やで? 覚えておいて損はないわー。ワハハハハ!」
ヒューストという男は、とても馴れ馴れしかったが、勇者の試験の情報を持っているかもしれないし、無視するのもどうかと思ったので、俺はとりあえず適当に話をする。
「俺は俊彦。俺は勇者候補じゃないよ。サポーターだ」
「そーかい。あんさんサポーターかいな。ならあんさんと話しても意味ないか? でも、あんさんいい人そうだから特別にワイのスキルを教えたるわー」
(いや、聞いてないって……)
「ワイのスキルはな、アクセルって言うんや?」
「へぇー……」
「その顔はピンと来てない顔やな。そんなら詳しく教えちゃる。アクセルは十五秒間、スピードを二倍にするスキルや。凄いやろ? つまり、ワイに狙われたら逃げられないって事や。せいぜい、あんさんの勇者候補もワイに追われん事を祈るんやな?」
そう言い放つと、ヒューストは豪快に笑いながら、その場を後にする。
それにしてもこの中から何人勇者が選ばれるのだろう?
そんな事気にしてもしょうがないのだが、俺は足早に馬車に戻った。




