#兄
#兄
グー。
「腹減ったな……」
俺は、腹が減ってなかなか寝付けなかった。
空を見上げると、星たちが賑やかにしている。
「食べる?」
その二階のベランダにアリサもやって来る。
手には、夕食の時出てきたパンを持っていた。
「ああ」
どうやらアリサはこうなる事が分かっていたようで、パンを隠し持っていた様だ。
きっとこれも新約神書の結果だろう。
「記憶の方はどう?」
アリサは懐からもう一つパンを取り出す。
「特に変わった所はないかな?」
俺は、パンを頬張りながら正直に答える。
「そう……。でも、きっとそのうち変化はあるわ……」
アリサは、意味深な表情をするが、それは事実だからだろう。
でも、もし再びドラゴンにならなくてはいけない時が来たら、俺は……。
まぁ、そん時はそん時だ。
「アリサは、何で自分の記憶が無くなっている事に気が付いたんだ?」
「最初は友達の名前だった」
「え?」
「次に家族の名前。そして、最後は自分の名前を思い出せなくなったの」
「じゃあ、アリサって名前は?」
「マザーが付けてくれた名前なの。だからアタシはもう自分の世界の人間の顔を誰も思い出せないわ。ただ、それでもアタシは誓ったはずなの。必ず創造主を見つけて、兄を生き返らせるって……」
なんでそれは覚えているのだろう?
「何でお兄さんなの?」
「好きだったの。この世で一番ね」
「へぇー」
それは兄としてだろうか?
それとも……。
「そう言えば、アリサはフェアリーになれるんだな?」
「ええ」
「どんな力があるんだ?」
きっと俺とは違う能力だ。
「人の治癒力を何倍にもするわ」
「ふーん」
「でも、滅多に使えないけどね」
それは記憶を失うからだろうか?
「ありがとな」
「はぁ?」
「それでも俺を助けてくれただろ?」
「当たり前じゃない! あんたは選ばれた人間なんだから! 言ったでしょ。あんたはアタシを、アタシはあんたを騙せないって」
そう言えば、俺は、魔王の攻撃を受け、意識を失っている間に夢を見ていた気がするが、どんな夢だったのだろうか?
「ユ……グドラシル?」
すると俺の口から思わず、そんな単語が飛び出す。
「何か言った?」
それに俺は戸惑ったが、アリサには聞こえなかった様だ。
「いや、何でもない」
一体何の単語なんだろう?
明日は、リベは、午後から町に用事がある様で、早朝から魔物ごっこをする事になっていた。




