#正々堂々と
#正々堂々と
「こんな所で何するんですか?」
昼食の後、俺が言われるままにリベについていくと、そこは青々とした山の中だった。
「魔物ごっこさ」
「魔物ごっこ?」
「知らないのかい? 簡単に言うと相手の背中を十回タッチした方が勝ちさ」
「はぁ」
つまり、鬼ごっこみたいなものか?
「時間は、日没まで」
「分かりました」
「あ、一つ言い忘れたけど、私に負けたら夕食は無しだよ?」
「え?」
「じゃあ、スタート」
いきなり始まると、リベは、大きな木の太い枝を鉄棒の様にして、遠くへ逃げていく。
「ま、待って!」
その敏捷さには驚いたが、そんな間もなく俺は、リベを見失う。
山の中は、木の根や、石がごろごろしていて、上手く走れないが、リベは、まるでパルクールの様だ。
このままじゃ勝負にならないのは明らかだった。
そんな俺が勝つには、気づかれずに背後から近づいて、タッチするしかないだろう。
つまり、こっちが先にリベを見つけないと話にならない。
だが、こんな山の中じゃ、それは困難である。
音を立てずに近づくのは俺には、不可能なのだ。
「一回目!」
「うわぁ!」
そして、俺が彷徨っている間にあっさりリベに一本取られる。
一回目は、木の上からの不意打ちだった。
「二回目!」
「あわわわわ」
二回目は、川の中から手が伸びてきた。
「三回目!」
「クソ!」
三回目は、ひったくりの様に。
「四回目!」
「嘘ぉー」
四回目は、土の中から。
それからも次々にタッチされていく。
「さすがた……」
リベは、リベレラルに挑戦しようとしてるだけあって、かなりの使い手だった。
こんな険しい山の中を風の様に駆けて行く。
スピードじゃまず勝てないし、隠れても、まるでジーピーエスでも付けられてる様に見つけられる。
どうしたらいい……?
このままだと俺は、一度もタッチできずに終わるだろう?
でも、それも当然かもしれない。
なぜなら俺は、根っからの負け組なのだから……。
鼻から勝つ事なんて考えていない。
どう切り抜けるか?
どう誤魔化すか?
そんな事ばかり考えてきた人生だ。
正々堂々戦って勝とうなんてもう大分以前から考えていなかった気がする。
「八回目!」
「……」
これでいいんだ。
結局俺に魔王なんて倒せる訳ないのだ。
「九回目! あと一回で終わりだよ!」
そして、一瞬現れたと思ったリベは、一瞬で姿をくらます。
そんな中、日は徐々に沈もうとしていた。
もうじき日没だ。
バキバキバキ!
「え?」
すると俺は、その大きな音に目を疑う。
なぜならそこには俺の三倍以上あるグリズリーがいたからだ。




