#時の花
#時の花
「私と旦那はおよそ二十年前に出逢ったの。その頃、私はバーミリオンでは少しは名の売れた冒険者の仲間だった。それで調子に乗っていたのね。稼ぐために何でもやったわ。そんな時、一つのクエストを受けたの。それがグライズ王国とバーミリオンの境界にあると言われている時の花を手に入れる事だった」
「時の花?」
「ええ。それは、何でも、過去の事を思い出させる花だそうよ? でも、私と仲間はそれを探す事に夢中で、気が付いたらグライズ王国の国境を越えていたの」
「二十年前は国交断絶していたんですよね? どうなったんですか?」
「勿論、すぐにバーミリオンに引き返そうとしたわ。当時、バーミリオンの人間がグライズ王国の領土に入った事がバレたら縛り首になるかもしれない。それで動揺していたのね。私は、途中の山道の雨でぬかるんだ土に足を滑らせて、山の中を転がり落ちたの。当然、仲間は、私を引き上げようとしたわ。でも、助けられなかった。なぜなら運が悪い事に、ちょうどグライズ王国の兵士が近くまで来ていたから。それで私たちは、ちりぢりになったの」
ミトさんは、水を一口飲んで続けた。
「私は、その時、足を負傷してね。だからその場で動けなかったわ。そしたら血の匂いにつられたのか、魔物がやって来て……さすがの私も死を覚悟したわ。でもその時、グライズ王国の兵士だった旦那が助けてくれたのよ」
「へぇー」
「旦那は魔物を追い払うと、私をおぶって、この小屋まで運んでくれたわ。治療もしてくれた。でも、私の事は何も聞かなかった。きっと、全て分かっていたんだと思うの。私がバーミリオンの人間だという事を。そんな不器用な旦那に私が惚れたのよ。それからすぐにグライズ王国とバーミリオンの国交断絶が解かれたわ」
「そ、それで旦那さんとはどうしたんですか?」
リースが食い気味に尋ねる。
「それをきっかけに私は、この見張り塔を担当していた旦那に猛アタックしたの。勿論、すぐには上手くいかなかったわ。でも、それもあって、今でも、グライズ王国の兵士と仲良くしてるわけ」
「おぉぉぉぉ」
きっと何も分かっていないフニャールとムロがうなる。
「でも、もうじきここも取り壊すみたいなんだ」
「なぜ?」
「あんた達みたいに勝手にたまり場にする連中がいるからさ」
「す、すみません」
なんだか申し訳ない気がして、俺たちは謝る。
「はは、冗談だよ。それより行くんだろ?」
「どこに?」
「バーミリオンさ。そうじゃなきゃこんな所にいる訳ないからね? 私も連れてってくれよ? そろそろ戻ろうと思っていたんだ」
「……」
どうしよう?
でも、さすがに断れない。
「構いませんよ」
それをリースがあっさり承諾する。
「なら決まりだね? じゃあ、出発しようか?」
「はい」
まぁいいか……。
もしかしたらミトさんと一緒の方が疑われないかもしれない。
早速、俺たちは、馬車に乗り込んだ。




