#バルコニー
#バルコニー
「……」
俺はバルコニーの枠にもたれ、ジュース片手に華やかな会場を見つめていた。
「俊彦? 調子はどう?」
そこにさっきまで他の勇者と話をしていたリースがやって来る。
「まぁ、楽しんでるよ」
俺は、楽しくない訳ではなかった。
ただこういう時、いつも俺は、みんなの輪に溶け込むのが苦手だったのだ。
それでもこの雰囲気をぶち壊す勇気は、俺には無い。
「ならもっと笑ったら……?」
勿論、勇志とヒューストは、慣れた様にその輪の中心にいる。
「……」
俺は、何も言えなかったが、リースは続けた。
「もうドラゴンにならないでね……」
「え?」
「だって、私怖いの。いつか俊彦がそのままどこかに行ってしまうじゃないかって……」
それならいい。
それより俺は、前回の様に、また誰かを傷つけるのが怖い。
「大丈夫だよ……。もう変身しない……」
でも、どうしようもなくなると、なぜかドラゴンになってしまうのだ。
それが俺の望んだ事なのだろうか?
「本当に?」
「ああ」
「それならいいけど……」
だが、リースはそんなんで騙されない様子だったが、話が変わる。
「……俊彦は、小さい頃どんなだったの?」
「俺?」
「うん。何が好きで、何が嫌いで、何になりたかったの?」
「俺は、昆虫が好きで、雷が嫌いで、友達の友達に嫉妬している子供だったな……」
「友達の友達?」
「ああ……。なぜなら俺の友達は、俺の周りではなく、いつも俺の友達の周りにいたんだ」
それは俺が俺でなくなるという事だが、それほどその友達が眩しく見えたのだ。
「ふーん……」
「リースは……?」
「私? 私は……お姉ちゃんみたくなりたかったな……」
リースはワインの入ったグラスに口を付ける。
この世界では、未成年でもお酒が飲めるようだ。
「だってお姉ちゃんは、私より、優秀で、綺麗で、何でもできるんだもん……」
「へぇー……。でも、俺からするとリースだって、かなり可愛いと思うけどね?」
「ほ、本当?」
するとリースの目がキラキラする。
「う、うん」
それに俺は、一瞬たじたじになったが、リースはその隙を見逃さなかった。
「なら……何でこの前、キスしてくれなかったの……?」
「はぁ?」
よく見るとリースの目がトロンっとしている。
どうやら少し酔っている様だ。
「それは……」
「どうして……?」
俺はその場をどうにか切り抜けたかったが、このバルコニーに逃げ場はない。
そして、どんどんリースの潤んだ瞳が迫ってくる。
俺は、観念して瞼を閉じようとした瞬間、それを誰かの声が止めたのだ。
「お邪魔かな?」
気が付くとそこには、英雄パトリオットがいた。
「い、いつから、そそ、そこに!」
突然の事に、リースの声が裏返る。
「最初から……」
どうやら俺たちが気づかなかっただけで、パトリオットは、初めから近くにいた様だ。
「あ、あら? おお、お酒が切れたみたい? つつ、注いで来るわね?」
そのままリースは、逃げる様にその場を後にする。
「それじゃあ、俊彦君。私も今後の事で国王と話をしてくるよ」
「あのー!」
どうしてパトリオットは俺の名前を知ってるんだろう?
誰かから聞いたのだろうか?
「まだ何かあるかい?」
それは分からないが、俺は、自分とは正反対な英雄と呼ばれているパトリオットに聞いてみたいことがあったのだ。
「一つ聞いてもいいですか……?」
それは、まだパーティーが始まったばかりだという事を意味していた。




