#大事な物
#大事な物
親父が言っていた言葉がある。
「今を生きろ!」
今を生きれば、それで十分なんだという言葉だ。
そんな親父はもういない。
母さんも。
「俊彦! もういいの!」
それは、リースだった。
リースが必死に俺の攻撃を阻止しているのだ。
「ウァァァァァァァァ……! ナンデ……!」
だが、俺の暴走は止まらない。
「もういいのよ!」
必死にリースが取り押さえようとする中、俺は、涙をこぼしていた。
「ダッテ……オレハ……」
「何泣いてるんだよ! 俊彦! アタイが慰めてやろうか!」
「まぁ、これ以上は、アタシも賛同いたしかねます!」
フニャールやアリサも駆け付ける。
「オレハタダ……ユウジニカチタカッタ……」
「俊彦!」
向こうでムロも叫んでいた。
「ナラ……ドウスレバヨカッタンダ……」
――そうだ。俺は勇志に勝ちたかった。いつも俺より幸せそうに見えた勇志に。勝つことで証明したかったのだ。俺の人生もクソじゃない事を……。
「ご、ゴミ拾い! おお、俺が悪かった! た、頼む! ゆ、許してくれ!」
それでも俺の暴走は止まらない。
「それは違うよ! 俊彦!」
「……」
なんで今が大事なのだろう?
なんで生きる事が大事なのだろう?
それは、きっと、生きるという事は、そういう事だからだ。
でも、それは誰かに勝つという事じゃない。
人生に勝ち負け何てないのだ。
人生は、今の連続。
なのに決して同じ今が存在しないのは、それはつまり……。
俺の中で、昔の母さんの言葉がよみがえる。
『俊彦? 母さんはどんな事があっても負けないよ? だって、母さんには、大事な物があるもの? だから……』
「カアサ……ン?」
そこでリースの声が聞こえた気がした。
『あなたはあなたでいいのよ?』
気が付くと俺の体は、元の姿に戻っていた。
「勝者、雨空勇志!」
なぜか勝負は勇志の勝ちだった。
俺は、参ったとは言ってないが、意識を失っていたって事で、その時点で負けた事になってたらしい。
周りの観客はそれどころじゃなかったみたいだが、まぁ、勇志が用意した審判だから何だか疑わしい結果だ。
「いや、今回も俺様の負けだ……」
しかし、今回の勇志は、偉く素直だった。
なぜかムロを解放してくれたのだ。
「どうして……?」
「ふん……! 解放したんだからどうでもいいだろ……!」
「いや……」
それどころかボロボロになった銅の鎧も弁償してくれた。




