第3話 お花見
「いやー絶景だね。いい場所取りだよ。ありがとう裕真君」
俺、二時間前に来た。勿論場所取り。寒かった。
人いっぱい。賑やか。
強い風が吹く。桜が舞う。
皆が褒めてくれた。心ぽかぽか。頑張って良かった。
「初めに日文研の部長として、お花見について軽く説明したいと思います」
三谷さん気合い入る。私服かわいい。
「お花見は、主に桜の花を観賞し、ハルの訪れを寿ぐ、日本古来の習わしです。奈良時代の貴族が始めたといわれていて、当時は桜ではなく梅を観賞していました。平安時代から桜の鑑賞に移り変わったんだって。有名な桜は『ソメイヨシノ』ね」
へえ、最初は梅かあ。知らなかった。
「それではお花見弁当をいただきましょう」
詩織弁当を取り出す。料理できるんだ。さすが。
「うわー、詩織ちゃんの手作り弁当だ!」
「待ってました。相変わらず色とりどり。おいしそう」
「手が込んでる! これ全部一人でつくったの?」
今日三人じゃない。生徒会のメンバーいる。男子三人、女子五人。
三年生、三人。二年生、三人。一年生、二人。
上田透がいた。おちょくってくる奴。生徒会にいたのか。
「「かんぱ~~い!」」
詩織の弁当おいしい。花見しながら食べる。最高。
「裕真君、あーん」
透のちょっかいだ。
「からかってるの?」
「いやだなー、僕はただ裕真君とお花見を楽しみたいだけなんだよ」
本当だろうか。こいつの心読めない。
「ではいただく」
パクッ。唐揚げうまい。
「きゃー。裕真君間接キスー!」
透はしゃぐ。ムカつく。女っぽい声。余計ムカつく。
「お前、本当に男なの?」
「なに、意識してるの? 嬉しいなー。裕真君イケメンだから」
いちいち癪に障る。でもかわいい。憎めない。
「えーここで改めて、新しい生徒会メンバーを紹介します。まずは一年、小林寬奈ちゃん。よろしくお願いします」
自己紹介か。今年は一年から二人。
寬奈が立つ。
「一年の小林寬奈です。生徒会として学校を支えていきます。よろしくお願いします」
模範的な子。おとなしそう。
「次、一年、時充君」
男子。容姿いい。かなりイケメン。スポーツ系かな。
「同じく、一年の時充です。充と気軽に呼んでください。ある先生に勧められて生徒会に入りました。精一杯頑張ります」
拍手が舞う。
「最後に、三年の遠山裕真君。よろしく」
視線、俺に集まる。え、俺もやるの?
とりあえず、
「遠山裕真。よろしく」
三谷さん驚愕。
「遠山君、自己紹介それだけ?」
「そうだよ、そっけないな」
透も不満げ。
しょうがないだろ。10文字自己紹介。これしか言えない。
「三谷さん、お願い」
手を合わせお願い。三谷さん困惑。
「裕真君。口数は少ないと思ってたけど、それはないよ」
ぼそっと言われた。雰囲気悪い。三谷さんに嫌われた。
「......わかった。裕真君はね、三年だけどこの度生徒会に加わってくれました。といっても私が『日本文化研究会』に誘ったついでに、なんだけどね」
フォローしてくれた。
「それって会長が遠山君をはめたってことだよね」
「加奈ちゃんの色仕掛けにはまっただけじゃん」
「裕真君、かわいそうー」
みんな笑った。雰囲気良くなった。ありがとう。
それからのお花見。楽しかった。
ゲームした。かるた久しぶり。三時間あっという間。
「ちょっと休憩にしようか」
三谷さんが提案。
すると詩織が言った。
「では日文研らしく、短歌を詠み合いませんか?」
風流だな。
「いいね、やろう!」
三谷さんも乗り気。
でも小林寬奈は、
「えー、難しそうです。そういうのは日文研メンバーだけでやってください」
「そんな堅く考えないで、寬奈ちゃん。それに生徒会メンバーは全員、日文研に所属してるんだから」
「でも......」
「まあいいじゃないか、小林さん。俺は面白そうだと思う」
「充くんがそういうなら......でも歌なんて作れないし」
「それなら寬奈ちゃんが好きだと思う昔の歌をいえばいいよ」
「会長がそういうなら」
三谷さんと充の説得。上手くいった模様。
「でははじめましょう。まず研究会部長の私から」
三谷さん少し考えて、
『満開の 桜の傘に 佇んで 散る雫は 儚くも美し』
綺麗な歌だ。
「次は私の番です。ええと」
詩織はどんな歌かな。
『花びらが ひらりと浮かび 落ちてゆく 行方を知らぬ 我が心かな』
どうゆうこと?
「詩織先輩、それってどういう意味ですか?」
小林が尋ねる。
しかし三谷さん言う。
「あのね、寬奈ちゃん。そうやってすぐ意味を訊こうとするのはダメ。そういうときはまず声に出す。そして歌を吟味するの。じゃないと短歌を詠む意味がなくなっちゃうでしょ」
「そうですか」
「物事をはっきり言わずに、遠回しに表現する。これが日本語、そして短歌の醍醐味なの」
「わかりました。詩織先輩、じっくり考えてみます」
「皆も短歌のリズムや音、言葉をしっかり楽しんでね」
ハイ! 楽しみます。短歌が好きになった。
「じゃあ次は僕だね」
「変な歌詠むなよ」
「どういう意味だよ、裕真君?」
「そのまんま」
絶対何かやらかす。そう俺は確信する。
透は笑顔で言った。
『桜吹雪 君の目を 奪うけど 僕の瞳は 君に釘付け』
思った通り。
「きゃー、誰々!? 透君の相手は?」
「キザだねー」
「そんな目で私たちを見てるんですか?!」
女子が騒ぐ。
やってくれたよ。
透が俺をみてくる。こいつゲイなのか?
小林の番。携帯で調べて、
「私、この歌が気に入りました」
深呼吸。感情込めて詠む。
『ひさかたの 光のどけき 春の日に しず心なく 花の散るらむ』
紀友則の歌だ。
三谷さんも絶賛。
「いいよねーその歌。情景が目に浮かぶ。繊細で華やか、でも哀愁的」
短歌は盛り上がった。
皆気持ちよく歌詠む。
しかし俺困ってる。詠めない。31文字詠めない。
頭に浮かんでこない。
「どうしたの、裕真君の番だよ」
わかってる。
「最後だからきっといい歌考えているんだろうね」
「楽しみ~」
せかさないで。
頭が真っ白。詠みたいのに。
言葉がでてこない。
いい歌聴いたのに。皆楽しそうなのに。
歌、期待してるのに。
「裕真君?」
......日本語の良さ。
やっとわかったのに。
「裕真君? 大丈夫?」
ばかにして悪かった。
後悔してる。
お願いします。助けてください。詠ましてください。
短歌を詠みたいんだ。お願いし......。
『はあ。仕方がない。今回は特別だぞ』
声がした。
俺の口が動く。
『古より 継がれる言の葉 かみしめて 君と眺める 桜の舞を』
詠めた?
短歌詠めた!
31文字言えた!!
「裕真君、ちゃんと喋れるじゃない」
「継がれる言の葉って日本語ですよね」
「いいね。愛が感じられるよ」
皆も喜んだ。俺も嬉しい。
三谷さんも嬉しそう。
「一番短歌に大切なのは表現方法とか言葉選びじゃなくて、想いなの。短歌に優劣をつけるのはコンテストだけで十分。私たちは短歌に込める『愛』を語るべきだよ」
出来は普通。でもなんでだろう。とても清々《すがすが》しい気分。
ありがとう。