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「ここはね、乙女ゲームの世界なの」
双子の姉であるウィレミナが私にそう言ったのは、母の葬儀から一週間が経った時であった。
言われた時は、何を言われているのかも分からなかった。
それでも、ウィレミナの泣きはらしたような真っ赤な瞳と必死な形相から、嘘を言っているようにも思えない。
ただ、その時の私には、母が。
今まで私と姉を愛し守ってくれていた唯一の人がいなくなってしまった事への悲しみから、ウィレミナの話をまともに聞いてあげられる心情ではなかったのだ。
あれから七年、私たちは十五歳になった。
「ミア、準備は出来た?」
「えぇ、レミ。あなたは?」
「もちろん。完璧よ! 今日から私たちの戦いが始まるもの」
部屋をノックする音に応えると、扉から現れたのは双子の姉であるウィレミナ、通称レミ。
私と同じ背中の中央まであるミルクティー色の髪を、同じようにハーフアップにしている。ただ、私のウェーブした髪と違い、レミの髪の毛はサラサラとしたストレートで、風になびく様子は、ハッとする程美しい。それに、私の赤みがかったぼやけたピンクの瞳と違い、黄金色の瞳は、トパーズを思わせる。
何といっても、レミは私とは違い、勉強も出来るし手先も器用だ。それに、魔力だって比べ物にならないぐらい強い。
顔の作りはそっくりなのに、私とは似ても似つかない。
それが、私の姉のウィレミナ。
対する私は、勉強はそこそこ。刺繍の腕もそこそこ。魔力は平均よりも若干下。
特別優れた能力を持っていない。いつだって、ウィレミナの付属と言われ続けた私、ユーフェミア。
「あら、ミア。リボンが曲がっているわ。ちょっとこっちを向いて」
レミに言われ、姿見鏡の方を向くと、確かにリボンが僅かに傾いていた。レミは私の前へと立つと、リボンを一度解いて、丁寧に結びなおした。
「ありがとう」
「いいえ。今日は大切な入学式ですもの。気を引き締めなくてはね」
「そうね。私たちの目的の為には、悪役令嬢に気に入られる必要があるものね」
「えぇ、そうよ。さぁ、学園に行く前にもう一度、今日の流れをおさらいしましょう」
レミはそう言うと、一冊の手帳を取り出す。
そこには、彼女の前世の記憶と私たちが幸せを掴むためのヒントが書かれているのだ。
そう、前世。
信じられない事ではあるが、レミには前世の記憶というものがあるそうだ。
初めて聞いた頃はとても信じられなかったし、理解することも出来なかった。
だが、私たちの間には不思議とお互いが嘘をついているのかどうかが、自然と分かるのだ。
双子故なのかは不明であるが。
その為、長い月日をかけて、私は徐々に理解していく事が出来たのだ。
この世界が、レミの前世の世界において作られた創作の世界にそっくりであるという事を。
そして、私たちが今後辿るであろう未来が、希望も何も無い、閉ざされたものであることを。




