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#06 殺気が取り持つなんとやら!

浅川さんの唐突なスカウトから数週間、私は被撃墜マークをさらに4つ増やした。サングラスと抗不安薬で善戦はしたものの、この時期にまだ募集している企業の倍率はハンパなものではなかった。


くう。なんか負けた気がするが……これも御縁と考えよう。


「御社にお世話になろうかと思います。まだ大丈夫でしょうか」


浅川さんの返事は大歓迎の三文字だった。翌日には書類が届き、入社前のアルバイトやインターンのお誘いもされた。間に合った。


私の未来をお祈りしてくれた409人の採用担当者さんたち、ありがとう。私、今、幸せです!


実家に報告したら家族もそりゃあ喜んだ。「上場企業に三顧の礼で迎えられただと? さすが我が娘だ」と舞い上がってしまい、こちらも泣けてきた。紗栄子も喜んでくれた。「あの動画は私じゃないから絶対!」と何度も念を押されたのが面白かったけれど。何も聞いていないのに。


それからの私は結構忙しかった。JFHセキュリティの偉い人たちに何度も合わされたり、会議に呼ばれたりした。私の殺気について信じられないという顔をしていた人たちが、私と顔を合わせるとあっという間に納得してくれる。喜んでいいのか悲しんでいいのか、まいっか。


偉い人が持っていた資料の中に、紗栄子が描いたSKDのグラフが何枚もあったのにはちょっとびっくりしたけどね。


◇◆◇


「え? あんたに彼氏が?」


「うん……」


「うそ……人間なの……?」


「うん……ってなんでそこ疑うのよ」


11月のある日、彼氏ができたことを紗栄子に報告すると、まず自分の耳を疑い、次に私を疑い、両方とも正常だと判断すると質問攻めが始まった。


「いい加減吐けコラ! どこの馬の骨よ、私の皐月を掠め取っていったのは!」


「わかった言うから、もう。JFHでバイトの指導についてくれてる人だよ。個別指導してたらドキドキして目が離せなくなったって言ってくれたんだ」


「新人食いか……吊り橋効果じゃないの?」


「何よそれ! 五味さんそんな人じゃないもん! ちゃんと好きって言ってくれたもん!」


「にわかには信じがたいけど……皐月、だったらその奇特な男、絶対離すんじゃないよ? 吊り橋効果はきっかけにはなるけど、その時の感情は文化祭の時と同じ! 修学旅行の時と同じ! 錯覚なんだよ! 錯覚をうまく恋愛感情に定着させるまで気を抜くんじゃないよ!」


奇特な男とはなんて言い草だ。人の彼氏のことを何だと思っているんだ。やっかみか?


……いや、それはない。どう考えても紗栄子のほうが美人でスタイルもいい。今では東京の空気をまとって田舎に帰ると「生態系を乱すから帰ってくるな」とまで言われるほどの彼女が、見ぬ相手の話を聞いただけでやっかむわけがない。


「ちょっと酷いよ、紗栄子。もう少しこう、言い方ってもんがあるんじゃない?」


それからしばらく、紗栄子はトーンダウンしつつも私が騙されていないか、財布代わりに使われていないかなどを事細かにチェックしてきた。心配してくれているのだろう。私はいい友達を持った。


「ホント気をつけてね。あんたが変な男に騙されて田舎に帰っちゃったら、あたしどこに住めばいいのよ」


言ってはならないことを言ってしまった紗栄子は慌てて口に手を当てた。もう遅い。多分その時の私は2.5SKDくらいの殺気を出していた。紗栄子でさえ思わず後ずさっていたほどだから。


「ってあんた、私の彼氏よりあんたが私を便利に使ってるんじゃないの?」


その日、久しぶりに喧嘩をした。わかってる、紗栄子だって安い家賃が目当てで私の面倒を見てくれていたわけじゃない。ずっと前から友達なのだから。でも始まったものは止まらない。


「何よ! あんたなんか!」


「うるさいわ! たまたま彼氏ができたからって!」


つかみ合いの戦いはそのうちじゃれ合いになり、30分ほどで終わった。


「で、その五味って男、写真くらい撮ってるんでしょ。見せなさいよ」


「しょうがないなあ……ほら」


スマートフォンの写真フォルダから、五味さんの写真を見せた。おどけた明るい顔。決して二枚目ではないが、誠実そうで、一緒にいると楽しそう。


「……いい男ね。少なくとも外見は」


いやほんと、照れるけどいい男なんだよ。つか一言余計。


「てか、すごく写真が上手じゃない?」


「うん。インスタ投稿が趣味なんだって。1日にすごい数の写真を撮るって言ってたよ」


「ふーん……あんた、おかしな写真撮られて全世界に痴態を晒すようなことだけはやめてよ?」


「だから、五味さんはそんな人じゃないってば!」


人にのろけ話をするのは生まれて初めてだ。内定も出た。バイトも順調で、彼氏もできた。のろけを聞いてくれる友達までいる。


最強! 私、今、最強!


「皐月、あんた今すごい殺気が出てるよ。ほら、お薬飲んどきな」


うう、打ち下ろしたい。この拳を再び紗栄子の頭に——っ!

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