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#03 殺気の単位はSKD!

「とりあえず、サングラスには一定の効果があることが判った。まだ検証段階だけどね。回数を重ねるごとに鳩が殺気に慣れてた分の算出ができてないのがもどかしいわ。次は1回目からサングラスをして計測しないとね」


よく眠れた翌朝、紗栄子のノートパソコンに表示されたグラフを私は覗き込んでいた。昨日の効果測定の結果だ。縦軸の単位はSKD。サングラスのあるなし、香水のあるなしで値がどれだけ変化するかが、折れ線グラフで整然と描かれている。


「サングラス、ちゃんと効いてる! すごい!」


自分でも声が裏返った。グラフを見る限りサングラスによる減衰は相当なもので、24.5 SKDも下がっている。どうして今まで気付かなかったのかと、1年前の自分を正座させて小一時間説教したい気分だった。


「うん。これで可能性が見えてきたよね。面接官が多少鈍ければって話だけど」


「可能性が全く無いのと、少しでもあるのとじゃ大違いだから!」


紗栄子は自説の証明に鼻高々。私は開きつつある自分の未来に目がうるうるしてきた。


チキショー。まだまだ捨てたもんじゃないな、人生ってのも。


「でさ、匂いの方はどうしようかなと思ってるんだけど……木場にドッグランがあるんだよね。興味ある?」


「え……ドッグラン?」


紗栄子が何を考えているかは見当がつく。効果測定の匂いバージョンを、より嗅覚の鋭い動物相手にやってみようということだろう。でも、


「やめとこうよ。昨日動物園であんなこともあったんだし、体臭の影響は予測値でも5 SKDくらいなんでしょ。最後の詰めで十分だよ」


そうなのだ。上野公園に行ったついでに観光気分で動物園に寄ったら、結構酷いパニックが起きてしまった。私がパニックになったのではない。動物たちがパニックになったのだ。


そこで私たちは知ってしまった。ただ怯える動物ばかりではない、ということを。スマトラトラが。ニシゴリラが。殺気を感じ取り、戦闘態勢に入った。怯んでいては生き残れない、敵意を持って近寄るものは観察して弱ければ殺す。そういう覚悟で生きている動物たちに、私は迂闊に近寄ってはいけない。


ドッグランで軍用にもなる大型犬が一斉に私に向かってきたら、どうなる? 考えただけでも恐ろしい。


「お。SKD単位系に慣れてきたね。じゃあ次なんだけど、今度は所作というか、体の動きで作る雰囲気について考えてきたんだ」


単位系ってなんだ単位系って。


「う……うん」


「嫌なら止めるけど?」


「いや、是非お願いします」


乗りかかった船なうえ、たった2日で十分な成果が出ている。ここで降りる手はない。心理的負担はあるものの、これだけのプラスがあるなら十分我慢できる。


神様、仏様、紗栄子様。拾った神なんて言ってごめんなさい。ただちょっと、何を言い出すか分からなすぎて怖いだけなの。

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