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殺気の同志、全国に!

その翌週の夜、久保田課長に呼ばれて小会議室に入ると、課長はノートパソコンの画面を私に向けた。ニュースサイトの記事だった。


「これ、見た?」


見出しにはこうあった。


『産院で相次ぐ異変——「殺気を放つ赤ちゃん」報告が全国で急増』


「……読んでいいですか」


「どうぞ」


記事によると、ここ数ヶ月で全国の産院から生まれた直後から異様な威圧感を放つ乳児の報告が相次いでいるらしい。その乳児の泣き声を聞いた他の赤ちゃんが恐怖で泣き止まなくなり、産院全体が混乱に陥るケースが複数確認されているとのことだった。


さらに記事は続く。


保育所や幼稚園でも突然殺気を放つ園児が各地で報告されており、園児はおろか、担当保育士までが揃ってメンタルクリニックに駆け込む事態が起きているという。専門家のコメントとして「原因不明の体質であり、今後も増加する可能性がある」と締めくくられていた。


私は画面から目を離し、久保田課長の顔を見た。


「これって……」


「そうね。あなたと同じ体質の子たちが生まれてきているということね」


しばらく沈黙が落ちた。


「なんで急に……?」


久保田課長は椅子の背もたれに身を預け、少し遠くを見るような目をした。


「物騒な世の中を生き抜くための、ある種の進化じゃないかと私は思っているけど」


「進化……」


「人類の歴史を振り返ると、環境が激変するたびに何かが変わってきたでしょう。治安が悪化して、理不尽なことが増えて、そういう時代に生き延びるために人は少しずつ変わっていく。あなたはそのちょっと早い版だったのかもしれないわね」


なるほど、と思う。思うけれど、同時に何か大切なものが足元からするりと抜けていくような感覚もある。


「そうすると困ったな」


久保田課長はそう言ってかすかに笑った。


「君はもう、そんなに特別な存在でもなくなるというわけだ」


その言葉が胸に落ちた瞬間、私の頭の中で走馬灯が回った。403通のお祈りメール。上野公園で吹き飛んだ143羽の鳩。錦糸町のクリニックで飲んだ白い錠剤。総武線で隣に座ってくれた初老の男性。SKDという単位を発明した紗栄子の得意顔。それから、サングラス、ボツリヌス菌、竹炭石鹸——私がこれだけの手間と費用と時間をかけて、やっとここまで来たというのに。


「そんなぁ……私の就職先ぃ!」


小会議室に私の声が響く。久保田課長は声を出して笑った。そういえば課長が声を出して笑うのを、私は初めて見た気がする。


「大丈夫よ。あなたには今後も、殺気を持つ子供たちの先輩としてやることがいくらでもあるわ」


「……それって要するに、私がお手本になれってことですか」


「そういうことね」


私は深く息を吐いた。窓の外には夜の東京が広がっていて無数の光が瞬いている。そのどこかで今夜も、産院の廊下が赤ちゃんたちの泣き声で満ちているのかもしれない。


殺気を持って生まれてきた子たちよ。大丈夫、先輩がいるから。


……就職活動は、頑張れ。本当に。

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