偽りと真実。その間で……(1)
探索を続ける私達はその後、意外に早くダンジョンの最奥に到達してしまった。
大部屋で悪魔の眷属に怯えながら計測し終えると、奥にある壁の前でオウルさんがオーブをかざして、扉を開けてくれたんだ。
で、入ってすぐ、まっすぐに伸びる回廊をずっーと歩いて……半月型の小部屋にたどり着いた。
その小部屋の更に奥にはさらに直角三角形の小部屋? 通路? のようなものが続いていたんだけど、その先はいくら調べても隠し通路もなく、完全な行き止まりになっていたんだよね。
それで、もう一度半円型の部屋に戻って辺りを調べてみると……なんと! 部屋の中央に、前に印章を差し込んだのと全く同じ台座があり、柱頭の中心には今回も仕掛けが施されていた。オーブを置くのにピッタリのくぼみがね!
で、オウルさんがそのくぼみに慎重にオーブを置いた。
オーブは一度青白く光り、何が起きるか!? って皆で身構えたんだけど、ただそれだけで通路が開くわけでもなく。私達は完璧行き詰まってしまったんだ。はぁ。
あ! それと! ラーテルさんの様子だけど、やっぱり、おかしいままだ。
もちろん何度か訳を聞いた。でも理由については頑なに教えてくれなかった……。タイミングが来たら言う。けれどそれまでは「私が二人を守ります」って。それだけすごく真剣な表情で言われ、以降口をつぐんでしまった。それ以上無理に聞くのも違う気がして……。だから私は彼女の言う、タイミングを待つことにしたんだよね。
なのでダンジョンも、様子のおかしいラーテルさんも、解決の手口なく行き詰まってしまったというわけだ。
「はあ〜行き止まりかぁ。ここで研修が終わりってことはないですよね?」
私は思わずふかーいため息をつき、台座の前に座り込む。
「行き詰まったときは、もう一度ノートを見てごらん。必ずやヒントが隠されているはずだ。それと……」
言いつつオウルさんも壁際に片膝を立て、その場に腰を下ろす。
「休憩も必要だね。身体と頭を休ませればいいアイディアも出てくるものだよ。少し、休もうか」
そういえばダンジョンに入って数時間、休憩なしでずっと探索を続けていた私たち。「休む」と言う単語が出てきて初めて、自分の足が棒になってて、何よりお腹がぺこぺこなことに気づいた。ひ、ひもじい。
「ボクもう、動けない〜! ここで休もうよぉ〜!」
レトの声が部屋中に響き渡る。いつもなら「またレトは〜」ってたしなめるところだけど、今は100パーセント同意。
「レトの言うとおりですわね。少し休みましょう」
ラーテルさんも同意見みたいだ。てなわけで、私達はここで一度エルクさんのお弁当タイムにすることになったんだ。
オウルさんの隣に並んで座り、それぞれリュックからお弁当箱を取り出す。もちろん、オウルさんの分も。冷えてしまったけど香ばしい香りは相変わらず。嗅いだだけでキューっとお腹が鳴ってしまう。
カンテラを横に置き、とりあえず。いただきまーすっと! 白いご飯に山盛りに乗ったお肉。エルクさんお手製の焼き肉弁当を食べながら、私はノートを開いて自分の膝の上に置いた。レトとラーテルさんもお弁当食べながら、真ん中に座る私のノートを覗き込む。
「うーん。アイディアかあ。アイディア出てきた人〜?」
私がフォークを片手に頭をひねると、ラーテルさんも口をもぐもぐ動かしたまま、お手上げとでもいうかのように肩をすくめる。
「今まで回ってきたぁ〜、モグモグ。場所を〜、ゴクリ。振り返ってみるっていうのは〜? むぐもぐ、げふ」
レトってばお弁当かきこみテキトー言ってるのがミエミエだけれど、それは一理ある。というか思い返せば、みんなに大部屋からここまでの部屋の寸法について、まだ知らせてなかったよね! ごめん、ごめん。
それじゃあ、大部屋から隣の行き止まりまでの部屋の寸法を早速教えつつ、一緒に振り返ってみよう!
まずは悪魔の眷属がいた大部屋。あそこはとっても特殊な形をしてることがわかった。
部屋の奥行きは20m。右辺は同じく直線。そこから直角に左に向けて30m直線の壁がつながっている。30mの直線の先からミミズが出た長方形の部屋の左角に向けて、弧を描くような曲線を帯びた壁がつながっている。
全部繋げてみると、横長のいびつなおうぎ型になると思う。変な形だよね。
この大部屋で特筆するところは二点。
一つ目はもちろん、あの5〜6体いた動かない悪魔の眷属たちがいること。
二つ目はやはり、北側にあった次の部屋に続く扉について、だ。
部屋の北側、右角辺りに、他の部屋と同じように幅2m、高さ3mの白壁があった。特に絵や文字が描かれていたりはしなかったけれど、押しても引いてもビクともしない。でも、なぜか例のオーブが淡く青白く光ったのにオウルさんが気づいて、試しにオーブを掲げてみるとあら不思議。他の部屋と同じように左側にドアがスライドして開いたんだ。
オウルさんが言うには、経験上よくある仕掛けらしいのだけれど、初めてみる私たちはものすごく驚いた。ダンジョンを作る魔法が発動するところを、一度見てみたいもんだ。
……とまあ、その話は置いておいて。
で、そのドアの奥には部屋はなく1.5mの幅、長さ10mの通路がまっすぐに続いているだけだった。
で、通路の突き当たりには直径8m の半円の部屋。つまり、いま私たちが休憩を取っているこの小部屋がある。もちろん直線の部分は右側。孤の部分は左側。下弦の月のような形をしている。この部屋の特筆する点は一点。オーブが置かれた中心にある台座だよね。
この部屋のさらに奥には上。つまり北側が尖った直角三角形型の小部屋? 通路? があるだけ。これも右辺が8mと長く底辺が3mほどと短い。この三角形の部屋、そして今私たちがいる半円の部屋とも、天井や壁から天然の石や岩がゴツゴツ飛び出し、隠し通路が隠されている様子はない。つまりは行き止まり。ダンジョンはここで終わりのようだった。
あ! ちなみに大部屋から、奥の三角形の部屋に至るまで全部、他の部屋同様、右寄せでつながっている。この右寄せ……なんか意味でもあるのだろうか……。
と、まあ、これが、私たちがここまで計測してきた結果になる。みんなは何かわかった? ちなみに私は……全然だわ。がっくし。
「マップ全体を眺めることも大切だ。よく図面を見比べてごらん」
オウルさんは何かに気づいているみたい。メガネを直しつつ余裕を感じさせる表情をしている。
うーん。全体? 全体って部屋の全体だよね? 部屋の情報はノートの見開きを1ページ使い記述してある。私はお弁当を膝に置き、ページをペラペラとめくってみた。前から後ろへ、後ろから前へ。ん? こうやって図面のページだけをパラパラ漫画のようにめくっていると、何かの形が現れるような?
「アーミー! そういえばこのダンジョンの全体図を描いていません。新しいページに書いてみませんか?」
隣にいたラーテルさんも同じことに気づいたみたい。私も全力で首を縦に振り、とりあえず残りのお弁当を全部かきこむと、リュックにしまう。そして。新しいページを開いて、今までのダンジョン の部屋を並べて書いてみることにした。
まずは、南側から。ダンジョンの入口入ってすぐの台形の部屋。ミミズが出てきた長方形の部屋。そして歪んだ大きいおうぎ形。お次は細長ーい通路。そして半円。その先は尖った……。あれ? あれれれ? これってあの生き物の形そっくりじゃない!? 羽があって、クチバシのある……。
「鳥!」「鳥ですわ!」「これって〜空を飛んでる鳥さんの絵だあー!」
私たち3人の大声が小さな部屋にこだましめいっぱい響き渡った。まさか、ダンジョン自体が一つの絵になっていたなんて……!
台形の部分が鳥の尻尾に。ゆがんだおうぎの部分が羽に。長く細い通路は首に、半円状のこの部屋は頭部に、鋭く尖った三角の小部屋はクチバシ……。ノートを縦にしたままだと分かりづらいけど、ノートを横に倒すとレトが言う通りだ。そこには、
|空を飛ぶ鳥を横から見た形が、ハッキリと描かれている。
「お空を飛ぶ鳥さんだね〜! しかも、鳥さんを横から見たところ〜」
レトが私からペンを奪い、まさにオーブが置かれたこの部屋の中心にぐるぐるっと黒い目を書き入れた。こうやると、ますます鳥そのものだ。……でもお。
「なんか不自然じゃない? 横に飛んでいる絵が描きたかったらさ。最初から東→西にダンジョン作ればいいのに。なんで縦向き、南→北に作ったんだろうね?」
私はノートを立てたり寝かせたりしつつ、レトから返されたペンのおしりで、あごをトントン叩いた。
「地面が固くてぇ〜、南から北しか作れなかったんじゃないのぉ? もしくは間違えちゃったとかぁ!」
「ええ?? そんな理由なのかなあ」
こんなきれいな鳥の形を作る人が地面が固いとか、レトじゃあるまいし間違えたからなんて理由で、こんな形にするだろうか。私はレトがグルグルと書き入れた鳥の目のマークを見つめた。目……目。リョウメ……両目!! わ、わわわ! 私、ひらめいちゃったかも!?
「そうだ! 目だよ、目!」
私が叫ぶと、二人がビックリして顔を上げこちらを見る。
「ほら! ミミズの部屋の壁に書いてあった言葉! マナコヲエグリテ フウセシ モノ フタタビ リョウノメニ ウツスベカラズってやつ! つまり目は二つあるってこと。っていうことは実はこのダンジョンはこんな形だったりして!」
私はノートを縦に起こし、その鳥の横に、直線に対してシンメトリーになるように鳥の右半身を書き足した。こうすると〜!
「|空を飛ぶ鳥さんを上から見た絵になったあ!」
そう! まだ仮定だけれどこう考えるなら、あの不自然な右寄せの意味も分かるじゃない!?
「こう考えるならダンジョンはまだ続きがある……あのリョウメの言葉の意味もわかりますわね」
ラーテルさんが、頬に片手を当てて感心したように私を見た。レトもキラキラした目で「すごいすごい!」と褒めてくれる。えへへ。そんなに褒められたら木にも登れちゃいそうだ! ま、まあ今はダンジョンにいるわけで木なんてないけど。
「正解だ……! よく気づいたね、素晴らしい」
それまで何も言わず横で私たちの話を聞いていたオウルさんが、目を細め笑顔で口を開いた。
「しばらく放置されていたからね。自然崩壊でダンジョンの形が変わってしまったようだ……ダンジョンに入って驚いたのだけど、まあいい機会だと思ってね。勉強になるかと黙っていたんだ」
なるほど〜! オウルさん実はわかっていたのかあ〜。そんな雰囲気最初の方は全く感じさせなかったけど。
「もう片側のダンジョンのくちばしの場所まで辿り着いたら、研修は成功になる。ただ……分断されているからね。抜け道を探さねば」
なるほど。どこか崩れやすくなっている壁がないか。あったらそこから隣の部屋に行けないか調べる必要があるってことか!
「もう一回、右側の壁を全部〜調べてみたほうがいいかなあ!」
今まさに私が考えていた内容をレトが口走る。
「うん、そうだね! もう一度ダンジョンの入口の方へ戻りながら、調べてみよう!」
私は立ち上がりリュックを背負った。レトもコメ粒を口につけたまま、急いで立ち上がる。ラーテルさんも、ゆっくりと立ち上がり、私と……オウルさんの間に歩み寄り……。
「そうですね。戻りましょう」
そう言ったと同時だった。
レトの口元のごはんを取ってあげようと腰をかがめた私の腰のサヤから、ナイフがすばやく引き抜かれるたのが感触でわかった。え?? ラーテルさん? 何を?
私がそう尋ねるよりも早く、彼女が逆手で抜いた私のナイフの切っ先をこともあろうか。
ーー立ち上がったオウルさんの喉元突きつけた。
カンテラの光を受け、彼女が構えるナイフの刃と彼女のアメジスト色の瞳が鋭く光る。オウルさんの見開かれた目をただまっすぐ見つめながら、ラーテルさんが低くかすれた声を出した。
「問答無用。私達は速やかにこのダンジョンから退出させてもらいます。……ここは研修用ダンジョンではない。新人の我々が、攻略前の危険なダンジョンにつきあわされる謂れは、何一つとしてありませんから……」
私はラーテルさんと、彼女をじっと見下すオウルさんを、呆然と見やった。
い、いまラーテルさん、ここが本物のダンジョンって、言ったよね? え、えええ!? そ、それって。ど、どういうことなのーー??




