転生
目を瞑ってすぐに開いたら、白い空間だった。
今さっきまで痛めた肩を治すために整体に来ていたはずなのに、この不可思議な現象に俺は思考が止まり呆けてしまった。
音も匂いも感触も、熱も、目を瞑る前に感じていた肩の痛みも何も感じないその空間でパニックになり、自分の存在というものが分からなくなった。
自分は存在していなかったのか、世界が元々無かったのか。
じゃあ今のこの意識はなんだ?ぐるぐると思考が回る。
『あ~!!君が迷い込んだ魂か!!
あちゃ……、大分損耗しちゃってるね……。
とりあえずこっちに来てね』
温もりに包まれた気がした次の瞬間、景色が変わり、緑豊かで様々な花が咲いた幻想的な場所になった。
近くには場違いに思える立派な椅子が一つあって、そこに柔らかい表情の青年が座っている。
「よし、先ずは魂の修復をしないと」
ついさっき聞こえた声がその椅子に座る人物から発せられた。
その瞬間、何故忘れていたんだろうと記憶が次々に思い出される。
そうだ……、ファンタジー小説が好きなフリーターで……、なにかに縛られるのが嫌でアルバイトで食いつなぎながら自作の小説を書くのが趣味なモテない男で……。
あれ?自分の容姿と名前と年齢が思い出せない。
「あ~、最初に失ったのはその情報か……。
まあ転生してもらうのに必要ないからいっか。
よし、修復完了!
じゃあ説明始めるからそのまま聞いててね」
「あ、あの!
ここは何処ですか?
何で俺こんな所に……」
疑問をぶつけると目の前にいる青年は若干面倒くさそうに眉を顰めた。
「あ~、え~と。
君は脳の血管が破裂して死にました。
ここは君たちで言う神界って所かな。
それで、話を聞いて欲しいんだけど、今から君が今まで生まれ育った地球とは別の世界に行ってもらいます。
その世界は魔法や魔物が存在する世界です。
ファンタジー好きでしょ?
そういうものだと思ってくれて構わない。
エルフとかドワーフとか獣人とか魔族とか定番だよね」
マジか!!
夢にまで見た転生!!
エルフの美人おにゃの子や獣人のケモミミ美少女とか居るんか!?
チートもらって魔王倒してハーレム系主人公目指すか生産スキルでスローライフ無双するか……迷うなぁ~!!
スキルを選べるならやっぱりド定番の時空間魔法なんて取得してチヤホヤされちゃったりして……うわ~!滅茶苦茶楽しみだ!
遂に俺の時代来ちゃう感じか!!
後はかっこいい闇魔法とか重力魔法を習得したりして……夢が広がるなぁ!!
自分が死んてしまったことなど既に思考から抜け落ち、俺は目の前に居る男が得意顔で説明しているのを聞かずに自分欲望の世界という妄想に浸っていた。
「という訳で転生してもらいます。
うん、その顔を見る限り不満なさそうだからもう送っちゃうね。
まだ送らなきゃいけない魂があるからね。
それじゃ、君の新たな人生が幸福であることを願って!」
ニヤケ顔で色んな種族の娘達に囲まれる想像をしていたら意識が暗転した。