この世界でも
(まさか本当にくるなんて)
目の前で、鶏肉の炒めものを食べている女の子を見ながら思った。
それは、3日前のことだった。
紅葉山にある館の一室。
「もぉ~、師匠~。飲み過ぎですぅぅ」
酒瓶を両手に持ったエイルが項垂れる。
テーブルの反対側では、【未来眼の契約士】スレイ・アルキアノが今夜5本目になる瓶を明けていた。
「わるいな、エイル。言ってるんだけどな、、、。聞く耳を持たねぇ」
暖炉の前でくるまってるスレイの契約龍ウィレアが頭を挙げてため息をついた。
そのあとは、6本目に手を伸ばしたスレイを必死に止めて、寝室まで連れて行った。
「そうだ、エイル。ウック。2日後から3日後にメルセデスの町に異世界から来た人が現れる。ウック。空から降ってくる、行ってくれ。ウック。」
酒によるゲップを何度か挟みつつ、スレイはそんなことを言った。
未来眼の契約士という名前のとおりスレイは少しだけ未来を見ることが出来る。
嘘を言っているとは思えず行ってみたところ、本当に空から降ってきたにだ。
そして、今レストランで話をしている。
首の中程まである黒髪同色の瞳で服装は見たことないような服を着ている。
「つまり、まとめるとエイルさんの師匠は未来が見えて僕が来ることを予言した。そして、僕に来てほしいってことだよね?」
すると、その問題の異世界人薫が口を開いた。
「急なお願いなのはわかってる。でも、私と一緒に来てほしい」
「わかった、行くよ」
その言葉を聞いて、エイルは驚いた。
こんな簡単に了承を得るとは思わなかったのだ。
しかし、薫からすれば異世界に来てどうすればいいか分からないところに助け船が来たような感じだ。
悪い人でも、なさそうなのでついて行くことにした。
(おい、ほんとに付いていくのか?)
(いやなの?)
(い、いや、別にそういうわけじゃねー)
なぜか、ウィルザは嫌そうだったが、気にしないことにした。
それからしばらくして食べ終わった薫にエイルがそろそろ行こうと声をかけた。
「ちょっとその前に、トイレに行きたいな」
そう言った後に、トイレでこの世界に通じるか心配になったが、幸い通じたらしくエイルは「あっちよ」と言って店の奥の方を指差した。
トイレの扉は二つあり、日本と同じく男と女に別れている。
男のトイレの扉に手をかけた時
「ちょっとまって!そっちは男子トイレよ!」
エイルが叫んだ。
薫はこの世界でもかとため息をついて答えた。
「僕、男です」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
(そうだったのか!?)
(知らなかったの!?)
(気にしてなかった)
エイルの悲鳴が店に響いた。