誕生2
『城塞都市トール』
聖王国アイシェルから南に800km程度進んだところにその都市はある。
城塞都市トール。領主ライオット侯爵アレクシル・レェ・ライオットにより統治され、中央の領主の館及び貴族の居住区間までに3つの強固な城壁が張り巡らされ、屈強な戦士が多数存在している。たとえ何10万人の侵略者が攻めてこようとも落とされることはないと言われており、総人口30万人が暮らす大都市である。
戦力としては、聖騎士10人を含む職業軍人(騎士、戦士)が2万7千人、魔術師が3千人おり、戦争の際は更に領民から約7万人徴収することにより総勢10万人の兵士が戦場に送りだされる。
そんな難攻不落の都市に、スケルトン、グール、ゴブリン、ホブゴブリン、オーガの魔族・亜人約5万体が攻めていた。
「魔法部隊火炎魔法の詠唱開始しろ!」
「弓部隊は撃てー!当たらなくてもいい!牽制しろ!」
「歩兵は後衛部隊に攻撃させるな!盾を全面に掲げろ!2列目、3列目は盾の隙間から槍でつけ!」
聖騎士バルバートは攻め寄せてくる魔族に対して的確に指示を出し、侵略者をどんどん沈める。
「魔法部隊攻撃開始!」
「「「ファイアーストーム」」」
魔法師達が一斉に第7級火炎魔法を放つ。
魔法は第1級から第10級とそれ以外の特異魔法がある。今回放ったファイアーストームは第7級で中級魔法に相当する魔法である。第1級は神の領域といわれるくらいの魔法であり、使用できる者はいないと言われている。
吹き荒れる業火が攻め寄せてくるスケルトン及びグールを次々と燃え上がらせる。
スケルトン及びグールのアンデットは火属性が弱点のため、この火炎魔法の掃射で7割近くが灰となった。
敵の残り亜人が約1万体、アンデットが約3千体。対してトール陣営は数百名程度の犠牲ですんでいる。
「魔法部隊は魔力を温存」
「弓部隊は鈍足なオーガに狙いを定めろ」
「前衛部隊はゴブリン、ホブゴブリンを駆逐しろ」
「騎士シルフィ部隊は5000人連れて残りのアンデットを討伐するのだ」
バルバートは騎士シルフィに指示を出す。
「は!」
大きくはないが凛とした声で応答する。
騎士シルフィはバルバートの右腕とも呼ばれる存在であり、『シルフィあるところに負けはない』と言われるくらいの凄腕の騎士である。それは、自信の剣の腕だけでなく、民兵からの支持も厚く、急造部隊であっても命令に忠実に行動するため、精鋭部隊並みの精強さを発揮するためである。
シルフィは、きらきらと輝く金髪をたなびかせながら愛馬ウィズダムに向かう。
愛馬ウィズダムにはシルフィの従者であり片腕のエルフのリリィと猫族のモフモフが気をつけの姿勢で待機していた。
リリィはエルフにしては背が低く160cm程度しかないため、いつも子供のように思われるが、魔術師としての腕は卓越しており、魔術師3千人の中でもトップレベルの魔術師である。実際、第5級魔法まで使うことができるのはリリィ以外でも片手で数えるくらいしかいない。シルフィと同じ金髪碧眼なのが密かな自慢でもある。
モフモフは亜人の猫族ということもあり、リリィよりも更に背が低い。130cm程度で人族の子供と変わらない身長である。頭からピョコっとでている猫耳はフサフサしているが、体つきとしては人族とあまり変わりはなく、体中が毛深いっていうことはない。目もクリっとして大きく愛嬌があるためシルフィのお気に入りで寝るときは抱き枕にされている。猫族は全種族随一の機敏さを誇り、モフモフも目で追うのが困難なほどのスピードを誇る。そして、そのスピードを武器に戦場では両手に短刀を装備して縦横無尽に敵を屠るを得意としている。
「リリィ、モフモフ出陣です」
「畏まりました。お姉さま」
「はぁーい!」
シルフィの命に対して、リリィとモフモフはいつもの調子で応える。
「2人とも、戦場ではちゃんとするんですよ」
「わかっていますわ」
「にゃ!」
2人とも軽いノリをしてはいるが、いざ実践になると公私の区別をしっかりつけるため、これ以上お小言をいうことはしない。
従者という立場であるがシルフィからしたら同じ家に住む大切な家族でもある。だからこそ、2人を失わないために戦場の状況を漏れのないよう把握し、策を巡らせる。
バルバートの命の元、兵士5千人がシルフィの元に集まった。
「みんな、勝利は目前だ。だが、油断することないよう気を引き締めろ」
「戦争は何が起きるかわからない。奥の手があるかもしれない」
「今から討伐するのはアンデッドだ。だからといって舐めてかかると命を落とすぞ」
勝利ムードに気が緩んでる兵士なども今の言葉で気を引き締め直す。
「勇気ある諸君。出陣だ!」
「おおおおーー!」
「シルフィ様に勝利を!」
「生きてかえるぞー!」
「おーーー!」
シルフィの出陣の号令とともに5千人の兵士が一斉に走り出す。