誕生
かつて世界は、終末的災厄と呼ばれる存在『魔神』の支配下に晒されていた。人族をはじめ亜人、妖精族が幾度も戦いを挑むも魔神の圧倒的な力に次々と息絶え、アンデッドをはじめ様々な種類の魔族が世界を跋扈していた。人々は終わりなき混沌を嘆き、絶望し、神々を呪い、泥を啜りながら必死に生にしがみついていた。しかし、永遠に続くと思われた混沌の時代も3人の勇者により唐突に終わりを迎えた。
3人の勇者は剣と盾と指輪に魔人の力を封印し、未来永劫その武具を封印することを誓いあい何人も近付くことが叶わぬよう辺境の地に厳重に封印を行った。3人の勇者は災厄の武具を封印後、各々の地に戻り跋扈していた魔族を駆逐した。人々は魔人の終焉を祝福し、紀元を聖王歴と定めた。
魔神が封印されて幾星霜、数百年生きると言われる長命種と呼ばれる妖精族(妖精族とはエルフ、ダークエルフ、精霊などである)達ですら魔神の存在を忘れるくらいの年月が経過した。
【聖王歴3827年】
聖王国アイシェルから北に600km程にある小規模都市『中立都市リンド』に新しい生命が誕生しようとしていた。
中立都市リンドは総人口4万人程の小規模の都市である。町の雰囲気は牧歌的で信心深く、人族や亜人、妖精族など種族関係なくお互いを尊重し助け合う現在の世ではかなり珍しい町であった。
今の世は、各種族が己が利益、欲望にかられ種族間戦争のみならず種族同士ですら争う世界である。そのため、各種族が平和に暮らすこの町がいかに特異なのかがよくわかるだろう。
確かに奴隷という立場の者も人口の5%程存在はするが、他の町のようにその待遇(罵倒や暴力、長時間労働等)により発狂したり、衰弱死するまでこき使われることもなく、しっかりと働いた者に対しては奴隷であってもそれなりの給金と待遇を約束するため、奴隷と雇い主も他の町に比べて良好な関係を築いていた。これもすべてこの町を統治しているセシル子爵の政策のお蔭といえよう。
領主セシル子爵ウィリアム・フォン・セシルは、炎のような赤い髪で眼光鋭く、齢35歳という若さで世襲したにも関わらず立派に町を治めていた。初対面の人はその鋭い眼光でたじろぐこともあるが、ウィリアムは例え相手が平民であってもえらぶることもなく、真摯に接する善き執政者であった。
そのセシル子爵家に待望の子供が誕生しようというのであるから、町はお祝いムード全開であった。ウィリアムはそんな領民の気持ちを大変嬉しく思い、またこれから産まれるわが子も領民を大切にしてほしいと願った。
「「おぎゃぁぁーー!んぎゃぁーー!」」
しんしんと粉雪が舞い散る冬の夜、セシル邸宅に大きな大きな赤ん坊の泣き声が響き渡った。
「子爵様おめでとうございます。元気な男の子と女の子です」
「あぁ…あぁ……ありがとう。ありがとう」
「ルーシェ様も大変お疲れさまでした。お二方共大変元気なご子息、ご息女でございます」
「ルーシェお疲れ様。後は私に任せて今はゆっくり休んでれ」
ルーシェは疲労困憊ながらも二人の愛する子を取り上げてくれた産婆と助産師、そして、愛する旦那に優しく微笑んだ。その後、ルーシェは従者4名に身体を丁寧に拭かれ、今降っている雪のような純白で清潔なベッドに運ばれていった。
ウィリアムは産まれてきた我が子達を産婆から受け取り、寝室に運ばれたルーシェの分も込めて改めて感謝の言葉を述べた。
産まれてきたのは赤髪の男の子と銀髪の女の子の双子である。
この世界では双子が生まれることは大変珍しく、また、妻が妖精族のエルフであることで更に奇跡的なことであった。エルフは基本的に一度に一人しか子供を産まず、双子が産まれたというのはここ数百年で十数例しか確認してない。
翌日、双子の話を聞いた領民はその赤子を奇跡の子と大変喜び、仕事を放り投げて領民総出で盛大にお祝いをした。普段であれば日が暮れて数時間後には一部の夜のお店とギルド会館、宿屋くらいしかランタンの明りが灯らない町であるが、この日は中央広場にランタンを掲げた領民が集まり、一部の商店が屋台を開き、民家の2階までに届きそうな炎を囲んでは新たに誕生した子供に対するそのお祝いのお祭りは朝まで催された。
ウィリアムはその様子を窓際から覗き見、領民の気持ちに、双子を産んでくれた妻ルーシェに、そして、母子共に無事だったことに神々に感謝した。
双子の兄の名は英雄譚に出てくるリードリッヒから『リード』とし、双子の妹は同じ英雄譚に出てくるリーゼロッテから『リーゼ』と名付けた。
それから10年。双子は両親と領民の愛情によって心根の優しい、それでいて芯の強い少年・少女に育った。
季節も夏となり、澄み渡る青空の中、木剣を片手を鋭い動作で打ち込む赤髪の少年とそれを軽く防ぐ白髪の男性の姿があった。
「はぁ!」
「いやぁぁ!」
「ふっ!甘いです」
「くっ!」
少年の鋭い打ち込みを難なく白髪の男性はいなすと、少年はその勢いあまって頭から転がるように転倒した。
「ふむ。それではリード様そろそろ休憩としましょうか」
白髪の男性は懐から懐中時計を取り出すと、今しがた転倒した少年に向けて声をかけるとともに手を差し出した。
「はぁ…はぁ……。はい。ムーア師匠…」
ムーアと呼ばれる男性は、齢60歳を超え白髪が目立ち全盛期に比べると体力も大分衰えはしたが、いまだに剣技だけで言えば下級騎士には後れを取らない、むしろ上級騎士に匹敵するくらい剣の技術が卓越した男性であり、また先代セシル子爵(リードの祖父)からの剣術指南役でもある。
リードはムーアの手をとり体を起こすと、予め用意していた綿でできたふかふかなタオルで顔の汗を拭った。
両手にはマメができ、それが潰れてところどころ血がでているがそんな痛みはおくびにも出さず、包帯で一時的に止血をし、ムーアに自分の動きや考え等に対してあれこれと質問をはじめた。
ムーアは向上心あふれるその姿に笑顔で質問に答えると、リードは教えを体に沁み込ませるために素振りをし、動作を確認してもらっては素振りを繰り返す。ムーアは、結局は休憩らしい休憩をとらないリードに若干苦笑するのであった。
「それじゃ、私たちも休憩にしましょうか。」
「はい。お母様。」
リードとノーアから20m程離れた場所でも同じように休憩に入る1組があった。休憩の声を発したのはリードとリーゼの母親でありエルフのルーシェだ。
ルーシェは長命種のエルフということもあり40歳を超えた今でも10代後半から20代前半の見た目であり、透き通るような銀髪を靡なびかせるその姿は女神と見紛うほどの美貌である。実際、リーゼと並ぶと姉妹と間違われるほど若々しい女性であった。
また、魔法に精通し、そこらへんの魔術師に比べたら魔力もそれを扱う技術も一線を画していた。当然、その娘であるリーゼも魔法の才能があり、母親の指導によってめきめきと成長中である。
ただ、母親は感覚で魔法を使うため、指導内容が「そこはギューンとためて」とか「そこはガーンといって」など大雑把なため教わるほうもかなり苦労するのであった。娘だからこそ母親の考えが理解できているのであって、一般の魔術師では母親の教え方ではついてこれないのではとリーゼは思ったりもしている。ルーシェとしては自分の教え方が上手だと思ってご満悦だが…
「寂しい…私も混ざりたい……」
ウィリアムはそんな子供たちを窓際から覗き、ひとりごちた。しかし、仕事を放置して子供たちのところに行くこともできず、机上に置いてある書類に引き続き目を通すのである。
「ん…!?」
(これは…父に至急相談しなくてわ!)
パラパラと目を通している書類の中に、目を見張る内容の書類があり、ウィリアムは真っ青な顔をして執務室からでた。
それは『城塞都市トール、魔族と亜人により占拠される。』という内容であった。
初投稿です。
拙い文章で申し訳ございません!
完全自己満足です^^;
まったり投稿し、無事簡潔できたらいいな~って思っています。
皆様どうぞよろしくお願いします。