第7話〜素直になって〜前編
まだ解決してないことがあるので、今回のお話は前編と後編に分けております。
なるべくすぐに後編を出すつもりなので、待ってくれる方は待っていただけると嬉しいです。
グツグツといい匂いを漂わせながら、目の前のカレーが完成したことを告げる。
時刻は午後7時。今日は部活が無かった俺は二時間ほど前から家に帰ってきており、学校の課題やスマホゲームなどで時間をつぶした後、40分ほど前から夕食作りに取り掛かっていた。
ちなみに結愛は部活が忙しいらしく、毎日7時過ぎに帰ってくる。
「なに勝手に私のクラスに入ってきてるんだよッ、バカ兄貴ッ!」
今日の朝、1ーEのクラスで結愛に言われたことを思い出す。
明日香は照れ隠しで本当に嫌っているわけじゃないと言っていたが、嫌ってない人に向かってそんを暴言吐けるのだろうか?
「まあ、友達の妹とかは兄に向かって普通に嫌いとか言うらしいが・・・」
結愛は今まで俺に向かって「嫌い」どころかそれらしき暴言を吐いたことは一度もなかった。
逆に最近は無くなったが数年前までは「大好きっ」とか「結婚してっ」とかそんな嬉しいことを言ってくれていた。
そんな可愛い可愛い結愛は、一体どうして・・・。
・・・いや、悩んでても仕方ないっ、今日結愛が帰ってきたらきちんと聞いてみよう、あの言葉の真意について。
・・・本当に結愛が俺のことを嫌っていたらどうしよう・・・と、最悪な結末が一瞬頭をよぎったが、すぐに頭を振り、その考えを頭から追い出す俺であった。
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「た、ただいま・・・」
いつもと比べて全く元気のない声が玄関から聞こえてきた。
いつものようにパタパタ走ってきて俺に「今日のご飯なにっ!?」と元気に聞いてくる結愛の面影はなく、ドタ、ドタ、と重たしげに廊下を歩く音だけが響いていた。
その足音で、俺だけでなくきっと結愛も苦しんでいたんだろうと察した俺は、さっきまで悩んでいた心などどうでもよくなっていた。結愛も多分、俺に色々言っちゃったことに対して負目を感じているのだろう。なぜかわからないが、俺はそう感じていた。少しでも結愛を温かく出迎えてあげようと、キッチンから一旦離れ、ドアの方に移動する。
しばらくして、ギイッっと、音を立ててゆっくりとドアが開いていった。
「おかえり、結愛。部活お疲れ様、今日の晩御飯は結愛の好きなカレーだぞっ」
「えっ・・・?」
結愛は、本気でびっくりしたように、目をまん丸くしながら俺を見上げてくる。
やはり、あんなことを言って俺に嫌われたのではないかと思い、出迎えてなんてくれないだろうと思っていたらしい。だったら、少しはお兄ちゃんらしく、してあげないとな。
「ど、どうして・・・?」
「どうしてもなにも、大事な妹が帰ってきたんだから、迎えてあげるのは当たり前なことだろ?」
「っ・・・!」
もはや、それは俺にとって考える余地もなく当たり前のことだった。
それは、それだけは、たとえ結愛が俺のことを嫌っていても、しなくちゃいけない。
だって俺たちは、家族なんだから。
家に帰って「おかえり」もないなんて寂しすぎるじゃないか。
だったら、俺と同じように悩んでいる結愛を、家族として、兄としてきちんと迎えてあげなければ。
気づいたら、俺は両手を広げて、結愛を抱きしめていた。
「辛かったら、泣いてもいいからな」
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そのお兄ちゃんの言葉に、私はもう我慢なんてできなかった。
お兄ちゃんの身体をぎゅっと抱きしめ、
「ごめんなさいッ、おにいちゃんッ!んぐっ、ごめんなさいっ・・・!あんな酷いこと言っちゃってごめんなさいッ!ほんとはっ、ほんとはッ!ひぐっ、あの時お弁当持ってきてくれてっ、本当に、本っ当に嬉しかったのぉっ!でもっ、なぜかありがとうって言おうとしたらっ、なぜか言えなくなっちゃってっ、頭真っ白になっちゃってっ、なぜか自分の気持ちに素直になれなくてっ!恥ずかしさとかいっぱいが変に重なっちゃってっ、きっ、気づいたらあんな酷いこと言ってっ、あんなこと一つも思ってないのにぃっ、お兄ちゃんの作ってくれるお弁当、美味しくて本当に大好ぎなのにっ〜!」
私は泣きながら、ただただ自分の気持ちを吐き出していく。
「でもっ、気づいた時にはもう遅くってっ、ひぐっ、顔を上げたらっ、お兄ちゃんの辛そうな顔があってぇっ、もう嫌われたと思ったっ、から・・・絶対、帰ってきても迎えてくれないだろうって思ってたっ・・・でもっ・・・でもっ!」
ただただ、感謝を伝えていく。
「いまぁっ、大事な妹だからってっ、私より絶対傷ついてるはずなのにっ、こうやって抱きしめてくれてっ・・・!」
今なら言えるよ。お兄ちゃん。今になっては、遅いと思うけれど。
「遅ぐなってごめんなさいっ、お兄ちゃんっ、今日はっ・・・本当にっ、ありがとうっ・・・大好きだよっ・・・」
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結愛が本当のことを感情の全てを使って話してくれた後、俺たちは一緒に夕ご飯を食べていた。
「美味しいか?結愛」
「うんっ!お兄ちゃんの愛情がたくさん詰まってるからねっ」
と、さっきまでの悲しい顔ではなく、可愛いスマイルを俺に見せてくれる。
「そっか、それなら良かった」
俺もそのスマイルを見て安心すると、カレーに手を伸ばす。
「あっ、待って、お兄ちゃんっ」
カレーを食べようとした瞬間、急に結愛からストップが出る。
「?どうした、結愛?」
「今日さ、私、お兄ちゃんにいっぱい迷惑とかかけちゃったからさ、お詫びを兼ねてっ」
と照れながら言いつつ、結愛は自分のスプーンでカレーをすくうと、
「はいっ、あ〜んっ」
と言って俺の口にそのカレーを差し出してきた。
「えっ!?いや、それはちょっと・・・」
「んっ、なんでっ?早く食べてよっ、あ〜んってっ」
この歳にもなって、あ〜んはちょっと・・・。と、流石に恥ずかしくて顔をそらすと、急に結愛の表情が曇り始め、
「お兄ちゃんっ・・・やっぱり、私のこと、きらーー」
「んなわけないだろ!?も、もちろんいただくよっ!」
「やったっ♪」
これ以上結愛の悲しい顔を見たくない俺はそのあ〜んを受け入れるしかなかった。
「じゃあ改めて、はいっ、あ〜んっ」
幸せそうな顔で俺に向かいスプーンを差し出してくる結愛。
「あ、あ〜ん」
そのカレーを一口食べる。
・・・・うわっ、恥ずかしくて全然味わかんねっ!?
「どうだったっ?」
結愛が、期待に満ちた目でこちらを見てくる。そんな瞳を向けられた俺は、味わかんなかったと言えるはずもなく、
「お、美味しかったよ」
と言うしかなかった。
とりあえず、これで自分の食事に戻れるーーと思っていたが、結愛がさっきから期待を寄せるようにこちらを見てきているのがわかる。
もしかしてーー
「結愛も、カレーいるか?」
「っ、うんっ!」
どうやら予想通りだったようだ。
俺はさっきとは逆に自分のスプーンでカレーをすくい、結愛に差し出す。
「はい、あーん」
「あ〜んっ♪ んっ」
幸せそうにスプーンにかぶりつく結愛。
「どうだった?」
と聞くと、結愛は少し恥ずかしがりながら、
「・・・幸せすぎてっ、味わかんなかったっ♪」
可愛すぎる笑顔でそう答えたのだった。
本文を読んでいて「これってどういうこと?」と思ったことがあれば、ぜひ送ってきてください。
その次のお話の前書きで答えさせていただきます。
『感想や質問など、お待ちしております』