第12話〜彼女の気持ち〜
いつもより早い唐突な投稿。
久しぶりの連休にテンション上がってます。
あれから数分間、俺は結愛に引っ張られながら通学路を走っていた。
日頃からあまり運動をしないせいか、少しの運動でも呼吸が荒くなってくる。が結愛は、陸上部で鍛えてるだけあって全くペースを乱していなかった。
と、そこでようやく結愛がその足を止める。
「はあ、はあ、はあ・・・一体っ、どうしたんだ・・・?」
俺は荒くなった息を整えながら結愛に尋ねた。
しかし、当の本人は俺の質問には答えず俺たちが走ってきた通学路を見回している。きっと、明日香が追いかけてきていないかを確かめているのだろう。あの時は少し混乱していたが、結愛が明日香のことをよく思っていないのは、あの時の様子や言葉遣いを見ればすぐにわかる。
まずはその理由を尋ねなければ。
「おいっ、結愛?」
「・・・・・・っ」
もう一度声をかけてみるが先程と同様返事はなく、ただこちらに背中を向けるのみだった。
だがここで諦めるわけにはいかず、もう一度声をかける。
「なあ、黙ってないで何か言ってくれないか?あそこでいきなり走り出すってことは、何か理由があったんだろ?一体、どうしたんだ?」
「・・・・・・お兄ちゃん、本当にわかんないの?」
「え?」
それまでずっと静かだった結愛がいきなり口を開く。それも俺に対して疑問を投げかける形で。
「私っ、昨日言ったよね。お兄ちゃんを誰にも渡したくないって。ずっと一緒に居たいって。ずっと私のことを見ていて欲しいってっ。私はね、そんなこと言っちゃうぐらいに独占欲が強いの。・・・もちろん、それは自分でも自覚してる」
静かな声で、淡々と呟く結愛。
確かに、結愛は外限定のツンデレで人一倍独占欲とか嫉妬心が強いのは知っている。
・・・って、まさかーー。
「私はね、お兄ちゃん。好きな人が私以外の女に名前を呼ばれたり、一緒に会話したり、その相手に笑顔を見せたりするのって、我慢できないの。なんかっ、お兄ちゃんがどこか遠くに行っちゃったみたいでっ、この人は私の知らないお兄ちゃんの一面を知ってるのかもしれないって思うと途端に怖くなっちゃうの。お兄ちゃんがいつか取られちゃうんじゃないかって、思っちゃの・・・。私、昨日お兄ちゃんに変な態度とっちゃったでしょ?」
変な態度というのは、昨日の朝の暴言の数々だろうか。
「あの時はね、嬉しくて、でも人前ってゆうのが恥ずかしくて頭が真っ白になっちゃって、気づいたらあんなこと言っちゃって・・・。本当はこんなに好きなのにね。たぶん、あういうのを『ツンデレ』っていうのかな?まあ、自分で自覚してるあたり、ツンデレじゃないんだろうけど」
確かに、既存のツンデレとは似ているようで全く別のようなものなのだろう。結愛が今抱いている感情は。
「さっきもね・・・2人の会話をお兄ちゃんの後ろから見ていて・・・仲よさそうに喋るお兄ちゃんたちを見てたら、自分の感情を抑えられなくなっちゃって・・・。つい、ああゆう風に強引に話を引き裂いてた・・・。
もちろんっ、自分のワガママなのはわかってる。でもっ・・・我慢できなくて・・・楽しそうに喋るあの女の人を見て・・・嫉妬しちゃったの・・・」
そう言い終えると、気まずそうに顔を背ける結愛。
・・・最近、結愛が何を考えているかよくわからなかったが、少しわかったような気がする。
家の中では自分と兄である俺の2人きりなので、目一杯甘えられる。
しかし、人目があると自分の気持ちに素直になれない。
だが、兄が誰かに取られそうだと感じると、人目など関係なく独占欲や嫉妬心を発揮する。つまり、自分の気持ちに素直になる。
・・・また随分と面倒な性格をしてらっしゃる。まあ、人の性格なんて単純な方が少ないが。
しかし、自分の気持ちは素直に明かしてくれた以上、俺も真剣に答える必要がある。
俺は未だ下を向き気まずそうにしている結愛に向かって言葉を紡ぐ。
「・・・なあ、結愛。いまさら俺は結愛の独占欲とか、嫉妬とかに怒ったりはしない。感情なんてそう簡単に抑えられるものでもないし、そもそも抑える必要もないしな。というか、結愛の気持ちを知っていながら全く気にしてあげなかった俺の方こそ悪いと思ってる。まあ、だからと言って俺が結愛の気持ちを完全に受け入れたと言われれば、それは全く別問題なんだけど・・・」
上手くまとまらない言葉を、少しずつ伝える。
「でもな結愛、これだけは言わせてくれ」
結愛はそこで、ようやく重たい頭をあげる。
「・・・なにっ?」
「俺は、何があっても絶対結愛のそばにいるから」
「っ・・・本当?」
「ああ、大事な家族を一人ぼっちになんてさせるかって。それに、さっき『他の人が私の知らないお兄ちゃんの一面を知っているかも』とか言ってたけど、そんなことあるわけないだろ?結愛は今までずっと俺のそばにいたんだし、どう考えてもお前が一番俺のことを知ってるに決まってる。それは当事者の俺が保証する。だから余計な心配はご無用だからな」
面と向かっては恥ずかしいけれど、きちんと自分の言葉でそう伝える。
「・・・そう・・・よかった・・・私がっ、一番なんだ・・・っ」
どうやら、ストレートな言葉が効いたのか、思ったより早く納得してくれたようだ。
結愛は俺にそう言ってもらえたのがよほど嬉しかったのか、ニヤニヤが止まっていない。
俺はその様子を見て、ほっと胸をなでおろした。
どうやら、落ち着いてくれたみたいだな。
・・・が、大事なことを一つ忘れている。
「なあ結愛?まだ一つ、解決してないことがあるんだけど・・・」
「?なにっ、お兄ちゃん?」
キョトンとした顔で首をかしげる結愛。
「・・・絆創膏、返してくれない?」
「それは無理っ!」
即答だった。
「頼むっ!頼むからこれだけは隠したいんだっ、これがバレたら俺の人生色々終わっちゃうからっ!」
俺は土下座する勢いで結愛に頼み込む。
その勢いに怯んだのか、
「むっ、そ、そこまでお兄ちゃんが言うんだったら・・・。さっきもお兄ちゃんに迷惑かけちゃったし、これ以上迷惑かけるわけにもいかないか・・・」
と、渋々カバンから絆創膏を取り出し、渡してくれる。
「おおっ!ありがとうっ、結愛!」
俺は結愛の手から絆創膏を受け取るーー
「の前にっ、ちょっとこっちに来てっ!」
ーーことができず、結愛に連れられ人のいない路地裏に入る。
「お兄ちゃん、腕まくってっ?」
「?わかった」
結愛の意図が読めないまま俺は言うことに従う。
と、その時ーー
「はむっ・・・ちゅうっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぱっ!」
「なっ、何しとんじゃい!?」
いきなり結愛は俺の腕にかぶりつき、吸い付いて来たのだ!しかもそのあとを見ると、バッチリと唇マークが浮かんでいる。
「首元は目立つからバレやすいけどっ、腕なら長袖で隠せるから誰にもバレないからしちゃったっ♪これで手を打ってあげるっ」
そういうと、俺の手に絆創膏を渡し、足早に通学路に戻っていく。
「ほらっ、早く行こ、お兄ちゃん♪」
結愛は、満足したような顔でそう言った。
完全に明日香が置いてかれてますが、次回は明日香が出る・・・はずです。
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