呼びつけとか誰得ですか
体調不良で投稿遅れました。すみませんでした。
録音が終わって真冬様を玄関まで送り届ける時の事だった。
「奈輝君、すごい声かっこいいし絶対人気出るよ」
「ははは、ありがとう」
そんな事はありえない。俺の声がかっこいいと言うならゴキブリの断末魔でもかっこいいであろう。真冬様なんて最早神だ。まぁこれから上手くやっていくためのお世辞、とも考えておこう。俺にもこれから必要になってくるな。社交辞令。
「それじゃあまた明日ね」
また明日、という言葉は俺の心をすごく安心させた。また明日も会ってくれる意志があること。この一言が予想以上に俺の力になるのである。
「あぁ、また明日」
俺は少し微笑んで言った。
家に帰ると瑞希からlimeがあった。内容は「今日はお楽しみでしたか?」だ。なんというジャストタイミング。「お楽しみでした。今日なんで来なかったんだよ」と送ったら、
<真冬様と一緒に男の家とか知られたら何されるか分かんねぇだろ。怖いし行きたくねぇ。
それで俺だけを生贄に捧げてアドバンス召喚したという訳か。生贄一体だとレベル6までしか召喚出来ないぞ。生贄足りないだろ。
「まさか、バレてないよな.....?」
一気に怖くなった。どうしよう。明日学校行きたくねぇ。こんなに若くして死にたくないよ。
とりあえず紅葉から音源を受け取って動画を投稿しようかな。流石の紅葉センパイ、仕事早いっす。ええとタイトルは、「明日の空へを絶世の美女と歌ってみた、Ver.冬色どーなつ」でいいかな。真冬様にバレたら何かしら言われるだろうけど。
概要欄にツイスターのURLも一応載せておこう。真冬様のもついでに。
ちょっと今日は眠いし疲れたからお休みしようかな。とりあえず夕食だけ食べて今日は布団に入った。
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次の日俺は少し早起きして早めに学校に行く用意を済ませた。そして昨日投稿した動画を確認すると、再生回数863という文字が見えた。一日目からこの再生回数なら1000を超えるのももうすぐだろう。真冬様のファンの支持もあってか伸びるのが早いな。
そして動画の画面に点々とコメントが流れている。コメントをしてくれる人が5人程増えた。これが真冬様のおかげだとしても嬉しいよな。
少しだけいい気分になった俺はまた新人歌い手の動画を漁り始める。期待の新人と言われている「このは」っていう歌い手もう再生回数5万超えてるし。まぁそこは生まれ持っての才能なんだろうな。
「それにしても綺麗だな」
ついそう呟いてしまっていた。上手いというよりは綺麗というかかわいいというか。絶対リアルでもかわいい。なんとなく俺の直感がそう告げている。
例の如く紅葉と瑞希と登校していると、朝からまたあの超絶美少女と遭遇した。
まふゆさまが あらわれた!
コマンド
→たたかう
にげる
くどく
1番下は絶対ないな。ぶん投げられて奴隷にされて男子共の海にぶち込まれるわ。やべぇ怖くなってきた。と失礼なことを考えていると真冬様から寄ってきて話しかけてきた。今日は朝早かったので周りにあまり誰もいなかったことが幸いした。
「おはよ、奈輝君。動画見た?再生回数もうすぐ1000回行くんじゃない?」
「おはよう、真冬様。見たよ、俺だけの力じゃ絶対そんなところまで行けなかったよね」
「そんな事ないよ、ちょっと奈輝君は自分のこと下に見すぎ。ポジティブに生きなきゃ損でしょ?」
ついに真冬様にまでそこを責められてしまった。というか瑞希!先に紅葉を連れてさっさと教室に逃げやがった!どんだけ男子が怖いんだよ。
「あー、相良君達行っちゃったね。急いでるのかな?」
「あ、あはは。そうなんじゃないかな?」
この時だけ真冬様の微笑みが悪魔の笑顔に見えたのは気のせいじゃないかもしれない。
「じゃあ真冬様、クラス違うからまた帰り道で」
「あ、あの、奈輝君」
別れようとしたら真冬様に呼び止められた。なんだろうな。何か用事でもあるのか?俺は真冬様の次の句を待った。
「あ、あのね?真冬様って呼ぶの止めてくれないかな?」
あぁ、呼び方の問題か。え、何?名前で呼んじゃまずかったか?お前なんかが私の名前を気安く呼ぶんじゃねぇってか?
「え、じゃあ.....橘様?」
と聞くと真冬様は首を横に振った。やっぱり様付けは嫌なのか?えっとじゃあ、
「真冬さん?.....あっ、橘さん?」
真冬様は少し俯いてさらに大きく首を振った。まさかお前なんか私の名前を呼ぶ価値もないと、そういう事なのか?流石にそれは傷つくぞ.....
とか考えていると真冬様が小さく口を開いた。
「あ、あの、ま.....」
「ん?」
「真冬って、呼んでもらっても.....いいかな?」
「.....ふぇっ?」
つい変な声が出てしまった。流石に名前を呼びつけで呼んでほしいと言われるとは思わなかった。え、それにしてもなんで?というかっ、かわいすぎる.....っ!
その間に真冬様は頬を少し紅潮させ、待つようにこちらの方を見ていた。よ、呼ばなきゃダメなのか?
「えっと、真冬様?」
「真冬」
「ま、真冬さ「真冬」」
真冬様と呼び続けると真冬様は赤くなっている頬を膨らませた。やだ、かわいい。ファンクラブが出来るのもわかる。
「わかったよ、真冬」
とそう呼ぶと真冬様.....真冬は赤くなって下を向いてしまった。それと同時に男子共は暗くなって殺気を向けて来ていた。
「ありがと、じゃあバイバイ」
真冬が絞り出した声は少し震えていた。強がった真冬もかわいいぃぃいぃ!俺は今声を出したら変な声が出る自信があるので手を振るだけにしておいた。
この後で男子共が須藤奈輝殺害計画を立てていた事はまた別の話。殺気だけで人殺せそうだよあいつら。
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「それで、何の話だったんだ?」
瑞希の声だ。まだ教室には早めに来ている女子がポツポツといるだけで、後は俺と瑞希、紅葉しかいない。まぁ適当に誤魔化しとけばいいかな。
「えっと、真冬と世間話をしただけで別に何も無かったよ、何?羨ましいの?」
ちょっと自慢がちにドヤ顔で言ってみたら瑞希が少し顔をしかめて言ってきた。そして俺はそこで自分の犯した過ちに気付くことになる。
「羨ましいに決まってんだろまったく。でもなんだ、世間話か.......真冬?」
やばい、つい呼びつけにしたまま呼んでしまった。これじゃ全く誤魔化した意味無いじゃねえか。一転ピンチになってしまった。どう切り抜けようか。ここで俺が考えついた作戦は、
「え?何真冬様の事呼びつけにしてんだよ瑞希。うわー、言っておいてやろう、主にファンクラブの方々に」
瑞希に責任転嫁してうやむやにする作戦。うん、我ながら完璧な棒読みだと思う。
「え、ちょ、それはやめてくれ。意外とマジで暗殺されそう。あと奈輝君、そんなんじゃ誤魔化せないからな」
やっぱりか。このままやっても誤魔化せないと判断したから周りに聞こえないように瑞希に話すことにした。うまく歌い手の事だけ隠して何故か名前呼びして欲しいと言われた、と無理そうな言い訳をしておいた。
「え、何それめっちゃ好かれてんじゃん。何かしたの?」
「いや何か真冬様が悪い方向に共通点があったからさ、ちょっと元気付けてあげたらこうなった」
「奈輝完璧に真冬様狙ってんじゃん、ついに好きな人できちゃった?」
「いやいや俺なんかが真冬を落とせる訳ないし。好きな人と言うよりかは目の保養的な感じ?」
こんな会話をしていると「好きな人」という言葉に反応してか紅葉が会話に入ってきた。
「なになに?何の話してんの?私も混ぜてよー」
「おいおい紅葉、ついにこのネガティブ奈輝に好きな人が.....もごっ!ぐっ、」
瑞希が要らないことを言おうとしていたのでつい全力で口を抑えてしまった。それでも紅葉には聞こえてしまったようで、
「え、奈輝に好きな人?だれだれ?教えてよ!」
「できてねぇよ!俺なんかが好きな人作るとか図々しいし見ているだけで十分というか」
「あぁ.....奈輝ってそんな人だったよね。分かってた。うん。よかった.....」
紅葉がもごもごと話すので最後の所が聞こえなかった。おいおい、俺は難聴系主人公ならぬ難聴系モブにはなる気は無いぞ。紅葉に聞き返しても何でもないとしか言われなかったし。
俺達の話が終わる頃にはもうクラスの皆が集まって授業の用意を終えている頃であった。
チャイムがなって授業を始める前、いつもとは違う先生が入ってきた。
「今日はお前らの担任が休みだから午前中は自習な」
「自習」という言葉が聞こえた瞬間周りの人達がざわついた。自習でする科目や課題は特に定められていないため、実質おしゃべりタイムになる事が多いのだ。
「んじゃあ俺はもう行くから、しっかり自習しろよ」
先生がドアを閉めて階段を降りて行く音が聞こえた時、クラス中がざわつき始めた。俺も基本自習の時は瑞希や紅葉と話している。今は瑞希とだ。
「他に信用できる友達が欲しいな」
今の俺の率直な願望だった。素直に信用できる、というかまともに話す友達が欲しかった。
「そうか?俺は奈輝と紅葉がいるだけで別にいいんだけどな」
イケメンか。どこのイケメンだこらぁ?とかいちゃもんつけられるぞ絶対。
「まぁ新しい友達を作るのもいいかもしれねぇな、幸いこのクラスにも気が合いそうな人多いし」
と話している時だった。
「おーい、須藤奈輝君と相良瑞希君だったよね?僕もその輪の中に入れて欲しいんだけど.....」
そこに居たのは黒髪がサラサラなストレートのどちらかというとイケメンに入るような容姿をしている男だった。瑞希とは反対のかわいい系イケメンだな。えっと確か名前は.....日向 徹だったかな?
「あぁ、いいよいいよ!是非入ってよ」
「ありがとう。僕は小さい頃からずっと友達が少なくてすぐに友達が変わるんだ。いつも2人や3人だけで仲良く過ごしている君達がすごく羨ましかったんだよ」
「そっか、じゃあ日向君も今日から友達の仲間入りだな」
「徹でいいよ。ありがとう、よろしくお願いするよ」
徹はかわいい系笑顔を炸裂させる。こいつ本当に男なのかって言うくらいかわいいんだが、絶対モテるリア充だろ。
「おっけー、じゃあ徹も入ったことだし、ボーイズトークに入りましょうか」
瑞希の声だ。俺達がいう「ボーイズトーク」とは基本女子関連と事が多い。これまでは女優についてとかだったけど、最近はクラスメイトなどに標準が向けられていたりする。
「まず徹だな。やっぱり新入りの徹から自分の事を話してかなきゃダメだろ?さぁ、まずは好きな人からだよな。徹が言ったら俺達も言うからさ?」
なんだこの修学旅行の夜みたいなテンションは。いきなりこんな話題を向けられると思っていなかった徹は黙り込んでしまった。
「まぁ、やっぱりそんな早くに好きな人教えろって言われても言う気にはならないよな。じゃあ3大女王の中だったら?ちなみ俺は葵様派だ。かっこいいかわいいの二手から攻めてくる魅力には逆らえないぜ」
「それならなんとか言えるよ。僕は真冬様派かな?ふとした瞬間の綻んだ笑顔がすごくかわいいよね。というか正直に言うとす、好きな人は真冬様なんだけどね。それで、奈輝君は?」
分かる。それで何度悩殺されそうになったか分からない。全くもって美人は困るものだ。と言うかこいつさらっと自分の好きな人暴露しやがった。俺達どれだけ信用されてんだよ。まぁそこには触れずに俺の好みだけ言っておこう。
「俺は好春様派だな。まぁ誰かって言ったらの話だけど。俺は黒髪ショートが好きだからだな、まぁ1度たりとも話したことは無いんだけど」
「おぉ、見事に全員バラバラじゃないか?みんな意中の人と付き合えるといいね」
「「あぁ、そうだなー」」
無理じゃないかと言わんばかりの力無い声が二人揃って出てしまった。ため息混じりの声に徹が少しオロオロしていたのを俺は見逃さなかった。
「.....まさか徹?奈輝が真冬様と少し仲良くなったからそれを狙って俺達に取り入ろう!とかじゃないよな?」
「違う、断じて違う!まぁ少ーしだけそんな気持ちがあったかもしれないけど、2人と仲良くなりたいという気持ちの方が大きかったんだよ。だからそんなことは決してない。と信じたい」
「丸わかりじゃねえか。でも徹は嘘がつけねぇ奴なんだと今知ったわ。うん、信用できそうかも知れないな。そんな徹にいいことを教えてあげよう。奈輝は真冬様の事を呼びつけで呼ぶ事を許可されている」
「え、ちょっ、何勝手にそんなこと言ってんだよ!?おい!そんな誤解されそうなこと.....あっ.....」
表情が見るからに暗くなっていて、この世の終わりのような顔をしている徹が見えた。真冬のこと好きなんだろうな。
「いやいや、俺と真冬がどうこうなるとかないから。俺が望んでも向こうは俺なんか絶対望まないから」
「で、ですよね、よかった。今年初めての友達が真冬様とどうこうなってたりしてたらもう僕友達作れませんよ。トラウマで」
ですよねって少しひどいな。おじさん傷ついたぞ。でもこの調子だと真冬が俺の家に来たことあるとか知ったら死んでしまいそうだから言わない方が良さそうだ。そこは流石の瑞希でも空気を読んでいた。
俺達3人は1限目終わるまでずっと楽しく話していた。授業が終わる時にはついつい声が大きくなってしまった時もあって、教室がシーン.....ってなるあの気まずい状況もできた。まぁそれはともかく、いい友達ができたみたいだ。これからずっと仲良くしていきたいな。
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