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フォーシーズンズ  作者: まふみかん
5/7

一人

今回少し長めです。

今日もいつもと同じく紅葉と瑞希と登校してきた。この3人の空間が1番居心地が良いんだ。


今日は学校全体の下校時間が早い日だ。帰ってから暇だし何しようかな?新曲を歌ってもいいし、昨日みたいに瑞希に電話してもいいかな?


ちなみに今日の鞄アタックは見事に躱すことができなかった。1回転はせこいでしょ。


学校について、下駄箱までの道を歩いていると、背後からある声が聞こえた。


「奈輝君、おはよー」


少し無気力が滲み出ているが、水晶のように透き通る声。そう、振り返ると真冬様が笑顔で挨拶をしてくれていた。その瞬間だけ真冬様を中心に風が吹いたような、そんな感覚に俺は襲われた。


「...っあ、おはようございます」


「昨日から思ってたけど別に敬語使わなくていいよー、折角2人でやってくんでしょー?挨拶もおはよーとかでいいしね」


それに対して俺が「いやでも.....」と後を濁すと真冬様の顔が少し不機嫌な色に染まった。何これ、不機嫌な表情もかわいいとか反則だよね。


「タメ語ー。片桐さんや相良さんにはタメ語で話すでしょ?仲間外れは嫌だなぁ」


幼稚園児が友達に向けてお願いをする様な風に俺に頼んできた。俺の方が身長が高いので少し上目遣いに見える真冬様が直視できない。あ、ちなみに片桐さん相良さんってのは紅葉、瑞希の苗字だね。忘れてた人多いと思うけど。


「うっ.....わ、分かったよ」


「ふふっ、分かってくれた?そういうとこ好きだよ」


と言って嬉しそうに笑顔を振りまく。その不用意に振りまかれた笑顔に殺されそうになったのは言うまでもなく俺だけではない。学校の敷地内でそんなことをしたからに、苦しみ悶えている男子が後を絶たなかった。どうか僕にも好きの一言を!とか言って周りの男子にどこかに連れていかれた奴もいた。アホだろ。


「あ、それで今日帰り早いから帰ってからどう?」


「行けるよ。記念すべき1曲目だね、楽しみだよ」


さっきの表情とは打って変わって上機嫌な表情で俺に提案をしてくる。うぅ、やっぱり紅葉と瑞希以外にタメ語は慣れないな.....


「決まりだね!えっと場所はどこにする?」


「俺の家に録音機器があるから俺の家に来ていいよ」


「うん、ありがと。そうさせてもらうよー。でも奈輝君の家知らないから.....えっと、私の家ここからすごい近いから1回帰ってから来るね。放課後ちょっと待っててもらってもいい?」


「うん、いいよ。多分瑞希と紅葉も一緒に帰ることになるけどいい?」


「全然OKだよ」


ヤバい。真冬様と俺なんかがこんなに長い間話してるなんて.....!緊張で倒れてしまいそうだ。しかも周りからの刺すような視線がやばい。 また呼び出されたりするのかな。めんどくさい。


「それじゃ、放課後ね?」


「おっけーだよ」


くそっ.....不覚にもまたかわいいと思ってしまった.....今日のところは俺の負けだ。だがこれで勝ったと思ったら大間違いだぞ。真冬様以上の人なんてすぐに現れる.....!絶対。必ず。これ決定事項。


その後にまた真冬様ファンの方々に呼び出されて色々といちゃもんをつけられたのは言うまでもない。


きりのいいところ(?)で切って逃げ出してきて、さっさと忘れて瑞希と話すことにした。今頃俺を血眼になって探している事だろう。ふははははは!


「また絡まれたんだけど」


「奈輝.....俺はお前に裏切られるとは思っていなかった.....!あんなのただのカップルじゃん!?そういうとこ好きだよ.....好きだよ.....きだよ.....だよ...よ...あのセリフおかしいだろ!?」


「セルフエコーやめんか。そして地味に似ているところが腹立つ」


軽い気持ちで話しかけたらなぜかすごい剣幕で責め立てられた。あーあー、そういう事大きい声で言うからクラスの所々で俺の話題が.....真冬様パワーすげぇな。


「彼女も作れないし好きな人もいないんじゃなかったのかよ?」


昨日言ったばかりのことをジト目で問いただしてくる。ジト目って女の子がしないとなんの得にもならねぇんだよ。クーデレ幼馴染系女子バンザイ!とか1人で考えていると紅葉から視線を感じた。


「.....奈輝の変態」


「いただきましたーっ!」


つい叫んでしまい紅葉をビクつかせてしまった。でも今日1番の美少女ジト目です。今日1日分の紅葉パワー補給完了致しました。


「かわいい幼馴染がいてよかった」


「っ!?」


聞こえないように言ったはずなのに紅葉に聞こえていて、ボンッという爆発音と共に紅葉の顔が紅く染まった。紅葉だけに紅く.....って上手くないな。ってか、紅葉には昨日、あー。説明してなかったんだな。


「紅葉ごめん、昨日話してなかったな。あとかわいい幼馴染うんぬんは忘れてくれ」


「う、うん。ちゃんと説明してよ?わ、私がかわいい幼馴染.....か.....」


後半何を言っているのか分からなくなるのは紅葉のテンプレだ。そこは基本独り言だから気にしないことにしている。


「2人きりになった時に話すから待って」


「う、うん。2人きりね?」


そう小声で話すと上目遣いで返してくる紅葉に少しだけドキッとしてしまったのはまた別の話。


それから次の休み時間にぼーっとしていると瑞希が話しかけてきた。瑞希はクラスの入り口の方を指さすと、


「俺、お前のこと好きだから。付き合ってよ」


廊下から告白というにはあまりにも軽すぎる告白をしている男の姿が見えた。初対面かどうかはわからないが、真剣に話を、しかも告白を聞いてくれている人に向けて「お前」と呼ぶような人に好感は持てない。


「ほら、昨日言ってた望月さんまた告白されてるぜ。3大女王が無理ならって来る人が多いんだよな。そんな告白にもきちんと返事をする望月さんは性格いいと思うよな」


望月さんが申し訳なく断っている相手は、髪は金色、耳にはピアス。制服はボタンを第二ボタンまで開けてだらしなく着ている。つまりわかりやすく言うと「チャラ男」だ。


「ごめん、私は恋人か友達かって言われた時に友達を取ってしまうであろう人間だからあなたの気持ちに答えられないと思うから.....」


返事を聞いた後に教室を出ていった男の顔は、どこか恨めしげな気がした。


「かっこよすぎ濡れる」


「下ネタやめろ」


それ以外は特に目立ったこともなく、楽しく無事に1日を終えることが出来た。紅葉には普通に話してきたら今まで通りmixもやってくれるって言ってた。いい幼馴染を持って良かった。いいだろ、やらないぞ?


ちなみに紅葉と奈輝は今日は一緒に帰らないらしい。帰りによるところがあるんだとさ。


放課後少し待った後、


「ごめんね、少し遅くなっちゃったよ。待った?」


「いや、全然待ってないですよ」


俺は待ってましたとばかりに返す。一度言ってみたかったんだよね、このセリフ。付き合いたてのカップルみたいで凄くいいよ!誰かに見られたら殺されるけど。でも真冬様の方を見ると明らかに不機嫌そう。え、どうしたんだ?俺なんかしたか.....あっ、まさか.....


「全然待ってないよ」


「ん、合格。よくできました」


敬語、ダメだったな。こればっかりはもう全然慣れない。姫様と会話しているみたいだし。


「それじゃあ行こうか?」


真冬様に首を傾げて言われたので少し顔が熱くなるのを感じながら俺の家への案内を開始した。話し相手が真冬様ともなると紅葉や瑞希とは話し方がどうしても変わってしまう。少し話した後、俺の家に到着した。


「ここが奈輝君の家?結構広いんだね」


鞄から鍵を取り出しドアを開ける。ゴミや塵が散らばっているわけでも無く、適度に片付いている部屋が真冬様の目に入る。来るって分かっていたらもっと片付けたのに.....!


「真冬様が来るならもっと片付けたんだけどね。あまり綺麗ではないけどどうぞ上がって」


「十分片付いていると思うけど.....お邪魔します」


元父の部屋だった録音機器のある部屋に真冬様を連れていく。部屋に入った途端真冬様は感嘆の声を出す。


「うわぁ、色々な道具が揃ってる。これ全部奈輝君の物なの?」


「これは元々はお父さんのものだったんだ。今は歌い手として俺が使っているけどね」


「へぇ、お父さんも歌関連の仕事してたんだね。あ、そういえば今日家族の方は誰もいないの?」


俺は予想していた質問にも少し心を痛めながら答える。


「俺、家族いないんだ」


できるだけ心中を悟られないように微笑みながら言う。でも真冬様にはそんな見栄は見透かされているのかも知れない。


そう言ったら真冬様は少し俯き悲しそうな顔をしてこう言った。


「.....ごめんね。悪い事思い出させちゃって」


「大丈夫。小さい頃からお母さんもいなかったし、お父さんも小さい頃に亡くなったから。そこはもう割り切ってるんだ」


嘘だ。「家族」と言う心の大半を占めるであろうピースが抜けてぽっかりと空いた穴が、その虚しさが、空っぽな心が嘘をつくのを助けているだけで。だから俺の笑顔は軽く見えるのかもしれない。


でも、真冬様は空っぽな俺に真剣に目を合わせ、心の奥まで見透かすような目で俺に言った。


「家族のいない悲しみは簡単に割り切れる物じゃないと思うよ。私達は2人で一つなんだからもう嘘は吐かないで欲しい。本当の奈輝君を見せて欲しいよ」


俺は何も言えなかった。その代わりに、誰にも聞こえないくらいの小ささで呟いた。


「本当の、か.....」


その俺にしか聞こえなかった独り言を他所に、真冬様が優しく明るい声で俺を誘う。


「さっ、早く歌おうよ。私達は2人の初ソングだよ?」


「うん、そうだね。やるからには本気しかないよ」


真冬様の優しい笑顔は、俺の心を安心させてくれた。美人だからとかそういうのではなく、隣にいてくれるような感覚がして、同じ悩みを持ってくれているような気がしたから。


「明日の空へ、とかどう?結構最近の曲だしいいと思うんだけど」


「おっ、その曲いいよね?すごい分かる。それにしようか」


真冬様はマイクとヘッドホンは持って来ているらしいので音源だけ共有して使い、歌い始めた。2人の息を吸う音が重なり、隣に人がいる嬉しさを感じられた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2人の初めての歌が出来た。真冬様は歌が上手いわけではなかったが、持ち前のクリスタルボイスで、柔らかめのヘッドボイスを使い高音を歌い上げた。歌っている時の真冬様は凄く楽しそうで、学校でいつ見た時よりも笑顔だった。


俺が真冬様をの歌を褒めようとするとその前に真冬様が口を開いた。


「奈輝君、すごいよ!低音をすごく強く出せてるし、腹から響いてると思ったね。動画でもいいと思ったけど生だともっといいと思うよ!歌から感情が溢れ出るってこういう事なのかな?」


今まで俺は高音が出せなかったので低音の響きや強さ、呼吸を意識してきた。まさかそれに気づいてくれるなんて.....


と考えていて、不意に真冬様を見ると俯いて暗い顔をしていた。そして何だか今までに体験したことのあるような感覚が俺を襲った。


「やっぱり奈輝君は私なんかよりずっとかっこよくて、歌に本気で、私なんかじゃ手の届かない所まで行けるんだろうね。羨ましいな。」


「そんな事ない。俺が今までに見てきた誰よりも楽しく歌ってた。歌声からもそれが見て取れたし、何より学校では見たことないような笑顔だったから、つい俺も見とれちゃったくらいだよ」


この真冬様の様子、声、言葉に少し違和感を感じた。


さっきからの行動に合わせて、普段から自分を下げることに慣れている俺だから気づいた。真冬様は俺と同じ立場にあって、俺より更に自分を下に考えてしまうような人なんだ。いつもの軽い態度は取り繕った態度だったんだ。


暗くなっていく表情に軽く微笑みを浮かべる真冬様はこの仕草になれているのだろうか。


「真冬様、俺に言ってないことあるよね」


「え.....?」


「真冬様も家族いないんだと、俺はそう思った」


そう言うと真冬様は黙ってしまった。しかし、すぐに表情を取り繕い、言った。


「そ、そんなことな「なくない」」


「え.....?」


「俺にも家族がいないし、自分を常に下に見て考えてしまう癖があって、よく紅葉や瑞希に怒られるんだ。だから自分と同じような環境の人はすぐに分かる。」


「気、気のせいじゃ.....?」


「気のせいかなんかじゃない。学校での取り繕った笑顔も、心に空いた悲しみも全部分かってる。」


「他の人に踏み込まれるのが怖いんだろ?」


「でも他の人なら軽く聞こえる慰めも、同情にも聞こえざるを得ない言葉も、俺達なら共有し合えるんだよ」


「で、でも.....」


それでもまだ口を濁し、心を開くことのない真冬様。


「真冬様が言ったんだよ、俺達は二人で一つだから嘘は吐いちゃダメだって。本当の俺を見せて欲しいって。」


「人に頼ってもらうだけじゃいつか壊れてしまう。人っていうのは支えあわなきゃ生きていけないんだよ」


「そんな、私は何も出来なくて友達も少なくて惨めで性格も全然可愛くなくて.....」


ここまで話したところで真冬様の目には少しだけ涙が滲んでいた。俺は自然と真冬様の目から涙をすくい上げていた。


「真冬様はすごく歌声が綺麗で、歌に本気な俺のペア歌い手で皆に憧れられるような3大女王とも呼ばれるかわいい女の子なんだから、もっと自信持っていいんじゃないかって思うよ」


ちょっとまで俺。冷静になれ俺。


なんか今になって俺は何を語っているんだっていう気持ちになってきた。こんな初対面に近い男にこんなこと言われても気持ち悪いだけじゃねぇか。


かわいい3大女王が俺と同じくらい自分を卑下するのが少し腹立たしかったんだ。


と思った矢先、


「......あれっ?」


真冬様が涙で崩れた顔に精一杯の笑顔を浮かべて頬を紅く染めたまま、俺の顔を見詰めていた。今日の真冬様の中で1番ドキドキした、かわいい顔だった。


「......ありがとう」


それから少しの間隣で座ってあげてたら、真冬様が少しずつ話し始めた。


「私、寂しかったんだ」


「家族もいない、女子も私を避けるから友達もあまりできない、男子も下心丸見えのいやらしい目で見てくる人しかいない。」


「私が心から本音で、心から楽しく笑顔で話せる人がいなかったんだ。」


「だから、私と同じ境遇を話し合える仲間、君に出会えてよかった。いや、出会ったのが君でよかった」


「小さい頃から私の心の奥まで見てくれる人なんていなかったから.....」


少しだけ真冬様の頭に右手を添える。ここまできたら俺も最後まで格好付けさせてもらおう。


「これからは、俺が奥まで見る人になるから」


「ふふっ、これからよろしくね?」


「.....俺、痛かった?」


「そうかもねっ!」


涙も止まった真冬様を少し見つめて俺も安心した。また「友達」が一人増えたな。


その後、紅葉にmixを頼んでおいた。夕方頃に頼んだのに夜にはもう返ってきた。あいつ相変わらず仕事早いな。感謝するしかない。

















読んで頂きありがとうごさいます。これからもよろしくお願いします。


「私の出番が少なすぎる!」って紅葉ちゃんに怒られました。真冬様回だから勘弁して。次は恐らく望月さんが少し、新キャラが少し出てきます。


あと、Twitter始めました。みる@なろう更新で調べてみてください。Twitterフォロー、ブクマ感想などお待ちしております!

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