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フォーシーズンズ  作者: まふみかん
1/7

父への憧れ

いくつになっても耳に、心に残るあの歌声。

初めて聞いた時から今日まで何回だって俺の心を動かしたあの歌声。俺の父が遺した、あの歌声......


「俺はこの歌で一人でも多くの人の心を動かすんだ。お前もその一人になってくれると嬉しいよな。」


まだ小学校にも入っていなかった俺に笑顔で語った父の言葉をまだ鮮明に覚えている。きっとこれからも。


「今は俺の理解者はいないけど、いつか必ず見つけてみせる。俺にもう一度夢を見せてくれる人を。」


そしてその時に決意した。必ず父を超える歌い手になると。あまりにも小さかった俺に、あまりに小さく消えそうな、遅すぎた夢を受け継いで。


今にも消えそうなその決意を、消さないように......


「...いってらっしゃい.....」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

窓にかかるカーテンから差す春の日差しと鳥の鳴き声によって目を覚ます俺。ぼんやりとした記憶が昨日の事のように頭に残っていた。


おはよう、と言える家族もいないこの家で俺は寝惚け眼を擦りながら朝食の用意をする。棚の上に大事そうに飾ってある俺の小学校の頃の賞状には、「5年 2組 須藤 奈輝」と、そう書いてあった。


暑すぎず寒すぎない、日々を過ごすのに一番適した温度の今、机の上に置かれたみずみずしいサラダとこんがり焼かれたトーストに口をつける。


食事を終え、高校に行く準備を一通り終えた後、俺はある部屋に入る。


今から12年程前までは父の部屋「だった」部屋。

ベースやピアノ、古いが隅々まで手が行き届いている色々な楽器が置いてあるが、今となっては埃を被っている。俺は楽器は扱えないのだ。


その中で一つだけ埃のかぶっていないマイクと録音機器。その前に置いてある椅子に俺は座り、スマホを開き動画投稿式アプリを開いた。イヤホンを付けずに小さく流した歌声を聞き、動画の画面を見る。


「動画、伸びねぇなぁ...」


その一言と共に自然と出てしまうため息を吐く。

俺、須藤奈輝は父の遺した夢を追うため、今自分ができる「ネット歌い手」に着手してみたのだ。


須藤奈輝の真ん中をとって、「どーなつ」という名前で歌い手をやっているのだが、全く再生数が伸びない。


その機材は父の部屋に置いてあったものを使い、マイクをとって何も考えずに歌う。そしてそれを友達に加工、通称「mix」してもらい、動画投稿する。友達にこの音源を聞かせるのは少し気が引けたが、自分にはない技術だったので、頼んでみた。


そんななんとなくで始めた第一歩だったが、俺にとっても何も考えず、自分の世界に入って思いっきり歌うのは楽しかった。嫌なことも苦しいこともすべて忘れて歌うのは、すごく楽しかった。


スマホのタッチパネルをスワイプして、コメント欄に目を向ける。俺の二つ目の動画に、一つだけコメントしてくれた人の意見。


「技術は稚拙だけど、素材はいいもの持ってると思う。」


他人から向けられた純粋な意見。自分の動画に初めて書かれたコメントは嬉しく、自分の活力となるコメントだった。


俺は一人で顔を綻ばせながら家を出て、高校に向かうことにする。駅まで向かい歩いている途中に背中に衝撃が走った。後ろを向くと見慣れた顔が2人並んでいた。鞄をぶつけられたようだ。


1人は黒髪のセミロングの女性の、片桐かたぎり 紅葉もみじ。もう1人は笑顔が眩しい髪の長めな男性の、相良さがら 瑞希みずき。どちらも俺の同級生だ。俺がmixをしてもらっているのは女性の方の紅葉。瑞希はそのことを知らない。


「おはよー!朝から背中が小さいねー!そんなんだからモテないんだよ?」


「奈輝、おはよー。紅葉もそんなんだからモテねぇんだよ、言葉にトゲが多い」


「うるさいなー!?学校では隠してるし!みんなからは絶対静かな女の子って思われてるよ!」


俺の友達2人が談笑している。そして紅葉、うるさい。そこは痛いところなんだよ。


「でも確かに学校での紅葉はちゃんとしてるのに、なんでモテないんだろうな?」


「やっぱ本質がバレてんだよ。あっ...こいつあかんやつや...みたいな、直感っていうの?」


日々一緒に暮らす2人と談笑しながら駅まで向かう。

2人とは小学校の頃からの仲なのだ。不思議なことに今までにクラスが離れたことは1度しかなかった。


木々の間から溢れる木漏れ日が3人を照らす。その暖かさに心を落ち着けている間に、住宅街を出て駅に着いた。電車の定期を出し、人が集まる電車に乗り込む。今日は人が少なめだったので、なんとか3人で座ることができた。


だが、電車はどうも嫌いだ。特に通勤ラッシュ時の人々の熱や息、機械質なエアコンの温度や風がどうも気に入らないのだ。紅葉と瑞希以外の人とあまり話す機会などがないからかもしれないな。


乗り込んだ駅から3駅離れた街につく。俺が住んでいる街とはまた少し違う、少し近未来的な町並みが目に入る。でもこんな高層ビルが立ち並ぶ風景よりは、俺が住んでいる街の方が好きなんだ。ビルの隙間から漏れる光を見ると閉じ込められている気がして、窮屈に感じるんだ。


そのまましばらく歩くと、俺達の通っている桜花学園に到着する。最近できたばかりの新設校で、設備も揃っているし、いい学校だと思う。ただ偏差値の方はそこまでいい訳では無い。3人揃って行けるレベルの高校を探し、悩んでいた時に見つけた高校だった。


教室のドアを開けると、みんながそれぞれ話をしている声が次々と聞こえる。女子が昨日見たイケメンの話をしていたり、男子が昨日拾ったエロ本の話をしていたり、良くも悪くもいつも通りだ。


俺も紅葉と瑞希と話していたら、あっという間に時間が過ぎてチャイムが鳴る。


「じゃあ日直前に出て、よろしく」


うわっ、という声が少し聞こえた。今話した先生は、気配を消していつの間にか現れることで有名な先生なのだ。きづいたら教室にいて、気づいたらいなくなるんだけど、少し怖いからやめて欲しい。


授業のことは特にいうことがなかったから割愛かな。

瑞希が寝てて怒られてたことくらいしか言うことはなかったような気がする。


「奈輝、パン買いに行こーぜ」


「おっけー、今日こそ焼きそばパンを貰おうか...」


「あ、私もいくー!」


俺達の昼食は基本パンだ。この中で料理をできるのが俺しかいないという絶望的な状況だ。


なぜかいつも残り一つになっている焼きそばパンを取り合う形になる俺と瑞希。今日こそ俺の手に焼きそばパンを!


「「おばちゃん!焼きそばパン下さい!」」


「あんたらいつもタイミング悪いねー、またあと1個だよ」


今日は話し合い(物理)に勝った。元サッカー部の瑞希に無所属の俺が勝ったのだ。誇らしい事実。


「何でそんなに焼きそばパン好きなの?やっぱメロンパンが正義でしょ!」


「やっぱ甘党だな。そんなんだから太...っ!?」


「.....なんか言った?」


何も言うでない、と言わんばかりの無言の圧力が今にも瑞希を食い殺そうとしている。顔を見るとニコニコ笑顔なのが更に恐怖を倍増させている。紅葉は見た目が綺麗で静かそうに見えるだけに怒ると怖い。


おかげで午後の授業から帰り道まで紅葉の機嫌はすごく悪かった。俺は瑞希が必死に土下座して許してもらっているところを苦笑いで見ていた。


帰り道、いつも見ている風景に差す夕日に照らされてオレンジ色に光る住宅に心を癒される。


学校では楽しいことがたくさんあり、みんなと別れて静かになった周辺がすごく怖くなる。ドアに手をかけると家族を失った悲しみを、あの1日を思い出して涙が溢れそうになる。だからこの瞬間が大嫌いだ。


「ただいま」


ドアを開け、誰もいない家の中で帰りの合図を口から、喉の奥から絞り出す。当然返ってこない返事に最近やっと慣れてきた。後ろだけを向いていても仕方ないから前を向こうとしているんだ。


帰ってから学校で出された宿題をする。普段着に着替えた俺の耳に入るのはシャーペンが走る音のみ。集中している時でも早く2人に会いたい、そう考えてしまう。


宿題を終えて夕食を食べると、俺はイヤホンを耳に当てる。まず父の古い音源を聞いてから、他に俺の心を動かしてくれる歌声を、毎日探しているんだ。


最近に見つけた期待の新人の歌い手、ネット上ではこのりんと呼ばれている「このは」さんや、「こはく」

さん、「crescent」(クレセント)さんなど、俺の心を動かしてくれそうな歌い手さんが増えてきてる。


耳から入ってきて心まで届く、綺麗で繊細な歌声を持つ人にはとても憧れる。俺にも父と同じ高音系の歌い手になりたいという目標があるから、それを満たしている3人を見本に頑張りたいな。


3人の歌を聴いてから俺は足取り軽く録音室に向かう。完全防音だから近所の迷惑も考えなくていいぞ。


「今日は歌うだけにしようかな...」


最近歌詞を覚えたばかりの歌を歌う。やはり高音域が全くでないな。ちなみに音の高さは俗称で、low、mid1、mid2、hi、hihiの順にそれぞれAからGまでの音階がふられていて、A、C、D、F、G、に#が付くと1音上がる。順に並べるとA、A#、B、C、C#、D、D#、E、F、F#、G、G#という音階で、例えばlowAとか、mid2C#とかいう風に使う。まぁ長々と説明したが覚えなくてもいいんだけどね。


俺の場合は地声でmid2Gまでしか出ないのだ。それより高いと裏返る。高音歌い手だと、hi域を普通に使ったりする歌もあるから、全然技術が足りてないな。

やっぱボイストレーニングとか行った方がいいのかな?


とにかく歌おう。息を大きく吸い込む。そしてマイクに向けて全て吐き出す。喜怒哀楽全てを、自分の持つ力全てを歌に込めて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あぁ、気持ちよかった。いつか自分の歌声を、日本中に披露できたらいいな。いつか、いや必ずやって見せる......見てろよお父さん!


そのためにはまず技術を磨かなければいけないからな、高校卒業までに絶対うまくなって、全国に俺の名を轟かせてやるぜ。


とにかく目標はまずhiA。そこからだ。













































お読みいただきありがとうこざいます。

これからもよろしくお願いします。


なんか悲しい系に行っちゃった。長い説明入ってるし...ま、まぁ次から本気(ry


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