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Come back to me  作者: 塚山夏名
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「2017年」1

「だからあ、最新の数値データだけまとめてどうするわけ?比較すんなら過去のデータも持って来なきゃ意味ねーべ」


いつも通り、課長がふんぞり返って私がまとめた報告す書にケチをつける。そもそも、昨日、過去のデータとの比較なんて時間のムダだと本人に言われたばかりだ。


「申し訳ありませんでした。直ぐつくりなおします。」


文句を言ったら余計、怒鳴られる。その方がより時間のムダだ。


「もういいよ。他の人に頼むわ。」


相変わらず男尊女卑の会社のお陰で私はいつも何かにつけて嫌味を言われる。自分の席について私は大きなため息をついた。この会社に入ってはや4年たった。もうそろそろ転職を考えてもいいだろう。課長のパワハラにもたえてきたんだから。


午前中の業務を終えて昼休みになった。近くの、レストランに後輩と向かう。


「あー最近、数字ばかり見ていて疲れますよ」


赤い縁の眼鏡を外し、後輩が目をこする。ボーイッシュな髪型に、中性的な顔立ち。顔だけ見れば完全に男子と見間違えるが、スタイルは完全に女性で身長も男子よりかなり低い。男性社員から好印象だ。

対象的に私、速水文子は高身長の割に全く色気がない(課長が陰で言っていた)29歳という歳に加えて、彼氏もいない。キツイ性格の為、男性社員から嫌われている。


「肩こりがひどいんですよ~…。最近眠れないし」


「まだ若いんだから、頑張りなさいよ」


微笑みながら答えるも、心中は複雑だ。彼女は高卒で入社してまだ1年程しか経っていない。私がこの子の歳では何を考えてたろうか。あまり思い出したくない。


昼休憩から帰ってきた私が見たのは、机の上に乗った大量の書類だった。課長からの嫌がらせだろうか。他の社員から哀れみの視線を受けながら、仕事をし始めたが、会議等で集中できなかった。そのままサービス残業で終電を逃した私は、タクシーで自宅へ向かう。


マンションの鍵を開けて、スーツのままベッドに飛び込むとどっと疲れがおしよせてきた。これからお風呂に入って洗濯をしないと明日が迎えられない。それよりも、何よりもアルコールを摂取したかった。

私は疲れた体に鞭打って、起き上がると小さな冷蔵庫を開けてビールを出した。課長への鬱憤を胸に溜め込んだままビールを一気に飲む。少し気持ちが楽になって家での<仕事>をする余裕が出来た。


取り敢えず、2缶空にすると私はお風呂に入る前にテレビをつけた。


『12歳の少年に、科学者達の注目が集まっています。SF的ですが、研究内容は将来の日本の発展に関わると考えられ…』

馴染みのニュースキャスターが、笑顔で読み上げる内容は殆どわからなかったが、私は12歳という歳に苦いコーヒーを一気に飲んだような感覚がした。


(私の12歳は、何か考える時間なんてなかったな…)


テレビの電源をきり、さっさと脱衣所に向かう。この時はまだ、気づかなかった。この12歳の少年とこれから深く関わって行くこと。そしてこの時、私の未来はー。


多分決定していたのだ。



1時間後、日本国内で最大級の科学研究所の目の前に、少年は立っていた。ここは彼の齢12歳にして、人生を決定づける所だ。全てレールの上。天才と呼ばれた父の思惑通り…。

カードキーで所内に入る。エレベーターを使い父親の書斎の扉を開けた。その瞬間聞き覚えのある声が響いた。


「息子さんの研究は将来の、犯罪捜査にきっと役立つでしょう。どうです?未来の公安に希望をだしてみては?」

確か、警視庁の警部だったか。でっぷりした体型に人の良さそうな顔。どこか、アライグマを思わせる。


「いやいや、息子には我々の否!私の研究を継いでもらいます。その為にもっと世論が必要でしょう。」


かつて科学の申し子、天才と呼ばれて今や世間に重宝される若手所長。それが少年の父、雪明宏だった。

銀縁の眼鏡に、ややつり目で歳のわりには老けて見える髪型。常にスーツか白衣の明宏は、テレビ業界では『科学雑誌から出てきた、理系男子』とまでいわしめた。


「おう、薫。記者会見の方順調で良かった。疲れているだろうから、はやく寝なさい。」


今日の明宏はいつになく上機嫌だ。ただし、いつも客の前では『よい父親』を演じている。


適当に返事をして、雪薫は部屋に向かった。1人になってやっと心が落ちついた。椅子に座ると、机の上の雑誌類を強く払い除ける。


(僕の研究は、父さんの道具じゃない!!)


母さんが死んでから、あの男は独裁政治を始めた。母さんが生きていた頃は、おおっぴらに自分の理想を押し付ける事はしなかった。まだ自由があった。


薫は、ベッドの上に寝転がるとこれからの人生を想像した。しかし頭の中に広がったのは、自分は父のペットで首輪をひかれて、ただただ暗い道を歩く姿だった。


きっと僕の人生は生まれた時から決定していたのだ。




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