待っていましたよ
シャーロットが新たに使用人に出会います!
最後にはもう一人の主要人物が…
屋敷に入ると、天井の高い大広間が出迎えてくれた。
正面に赤紫色の絨毯が敷かれた大きな階段があり、左右には濃い茶色の扉が見える。
階段を上った先には廊下が前と左右に伸びており、たくさんの部屋が並んでいるようだ。
「すごい!やっぱり中も広い…」
「んー…そうか?大袈裟だぞ。とりあえず一階から回るか」
「よーし!んじゃまず俺たちの秘密基地に行こうぜ!」
ディムがそう言って走り出し、シャーロットもディルと共に追う。
秘密基地を案内してもいいのかとも思うが、楽しそうなので黙っておいた。
それから約二時間が過ぎたが、未だに案内は終わらない。
(広すぎる…)
使用人の部屋や厨房、客間や鍵のかかった倉庫や立ち入り禁止の区域。
二人は無計画にあちこちを案内しようとするため、尚更時間がかかっているのだろう。
動き回って二人とも疲れたのか、最初よりも言葉少なだ。ことあるごとに走り回り、騒がしかったのだが。
「ディル~…俺久々に走り回って疲れたんだけど」
「俺もだ」
シャーロットはそんな二人の背を半眼で見つめる。
「二人してそんなこと言わないでよ…余計疲れるじゃない」
「おまえの荷物が大きくて重いのが悪い」
「あなたが自分から持っていったんでしょう。というか今更だけど置く場所なかったのかしら…」
三人揃ってのろのろと歩いていると、正面を一人の女性が歩いているのが見えた。
その人は扉が半分開いたままの部屋に入って行く。
「あ、ミー姉だ!あそこ客間だよな?」
「ディル、もうあそこだけ案内して終わろうぜ。ユガンもいるかもしれないし、疲れた」
「賛成!それでいいか?」
「もう何でもいい…広すぎて一回じゃ覚えられないし、わたしも休みたい」
相変わらずゆっくり歩く二人についていき、客間の中を覗いてみると、そこは白いソファーとテーブルが設置された部屋だった。
落ち着いた色合いの花柄の絨毯に、薄茶色の壁。
奥の背の高い窓の前では、外を見ながら使用人らしき老人と先ほどの女性が話をしている。
「お、いたいた!あそこで話してるじいさんがユガン。シュラ様に一番信頼されてるんだ」
「で、もう一人はミータ。俺たちはミーねえって呼んでる。シュラ様の手伝いもしてるんだぜ」
「へえ…」
ユガンという人はとても優しそうだった。歳はカイムと同じか、少し若いかもしれない。
見事な銀髪にすらっとした立ち姿。完璧に黒の燕尾服を着こなしている。
そしてミータという女性は翡翠色の目を持つ、とても綺麗な人だった。
まだ若そうなのに大人びた雰囲気を纏っており、白い肌も後ろで束ねられた髪も艶がある。
佇まいや顔立ちを含めたすべてにおいて、まさしく美人と呼ぶのにふさわしいだろう。
彼女がいつも側にいるのだから、ディムに地味と言われても仕方がない気がする。
「ミーねえはああ見えて最強の武術家なんだ。武器も扱える」
つい見惚れていると、ディムが小声で驚愕の事実を告げた。
「うそ…!?」
(あんなに綺麗な人が…!?)
つい食い入るように見つめていると、その視線に気づき、ミータがユガンと共にこちらへ向かってきた。
ディルとディムが中に入り、シャーロットも慌てて中に入る。
「…あなたが、シャーロットさんね?」
ミータが微笑みながらシャーロットに声をかけた。
笑顔が眩しい。
「あの、は…はい!シャーロット・カルファです!よ、よろしくお願いします」
緊張しながら紹介を終えると、勢いよく頭をさげる。
「ふふふ…ミータ・ラルフディーンです。よろしくお願いしますね。こちらはユガンさん」
ミータが視線を向けると、今度はユガンが一歩前に出てきて軽く頭を下げた。
「ユガン・マルクシャンと申します。シャーロット様、どうぞよろしく」
「よろしくお願いします!」
シャーロットはもう一度、今度は丁寧に深々と頭を下げた。
「…私たちは、あなた様が来るのを待っていましたよ」
ユガンがそう言って微笑みかけてきた。白銀の瞳が、優しい光を帯びる。
大切な何かを見つめるときのような、そんな眼差しに似ている。
「ありがとうございます」
「さて…ディル、ディム。シャーロットさんをお部屋に案内して差し上げてください」
ミータが指示すると、二人は同時にはーいと手を挙げ、振り返った。
「行くぞ新入り」
「行くぞ地味女」
偉そうに言って歩き出す二人にため息をつくと、シャーロットは再度ミータたちに頭を下げて後を追った。
「あなたたち、いい加減に名前で呼んでくれない?新入りと地味女じゃ恰好がつかないじゃない」
「だって新入りだし」
「だって地味女だし」
シャーロットは二人の頭を同時にはたいた。
「しつこい!次言ったら蹴るから。特にディム」
「なんだと!?」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら出て行く三人を見送りながらミータは少し驚いていた。
「あの二人があんなに懐くなんて…」
わがままでうるさく、手に負えないステイン兄弟がああも他人と楽しげに騒ぐとは。
ユガンも同じことを思ったのか、さも楽しそうに言った。
「シャーロット様はやはり面白い方ですねぇ…もしかしたらシュラ様を…いえ、この組織を変えることができるかもしれませんよ」
ミータは頷いた。
「本当に、そうですね」
***
時を同じくして、一人の青年が従者を連れ港町を訪れていた。
その港は多くの商人の船が集まることで有名なのだが、その中に他大陸からの船があった。それも、見覚えのある。
「…何か、嫌な予感がするな」
「…と言いますと?」
青年はしばし船を見据えていたが、視線を逸らした。
「いや、何でもない」
次は『居場所』です!
部屋に案内されたシャーロット
そこはとても広く、居心地の良さそうな部屋だった