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ヴェリスト家のシャーロット  作者: 水廉
第二章
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近道

通路をしばらく進むと、運のいいことに前を歩く人影が見えた。


(よかった、誰かいる)


シャーロットはドレスの裾を持ち上げて走り出すと、その背中に向かって声をかける。


「すみません!」


「…!」


主催者側の人間かと思ったのだが、驚いたようにこちらを振り返ったのは宝石に彩られた銀の仮面を付けた男だった。


輝く金色の髪が、光沢のある白のタキシードとよく合っている。


昔、村長やラースに読んだもらった物語に出てきた『王子様』という表現が似合うと思った。


足を止めて佇むシャーロットに、男はゆっくりと頭を下げてくる。


同じように頭を下げると、シャーロットは男に近づいた。


「すみません、突然声をかけてしまって」


「気にする事はないよ。君も、親に連れて来られたのかい?」


「え、ええ、まあ…」


曖昧に微笑むと、男はそっか、と静かに呟いた。


「それで、君はここで何を?とっくに劇が始まっている頃だよね」


「そうなんですけど、人を探してて…」


そう言うと、男の纏う空気が張り詰めたものに変わり、口元から笑みが消える。


何かまずいことを言ってしまったかと冷や冷やしたが、彼は少し考える素振りを見せ、腕を組んだ。


「……君、もしかして()を探してる?」


シャーロットはその意味を理解するなり目を見開いた。


「…あなたも?」


「うん。今回の会場も知ってるよ。良かったら一緒に来るかい?」


それは願ってもない申し出だった。彼と共に行動すれば目的の場所にたどり着ける。


「ですが…商品によってはわたしが敵になるかもしれませんよ?」


「その時は正々堂々と金額で勝負をするだけだよ。それに僕が欲しいものは…少し特殊だからね。君と争う必要はないはずだ。どうする?」


そう言って男は口角を上げ、手を差し出してくる。


この手を取ることは、一人ではたどり着けるか分からない会場への近道と言えるだろう。


迷う理由などないが、ここで彼の力を借りるのはシュラの期待を裏切ることにならないだろうか。


(…あ、そもそも期待なんかされてないか)


悔しいような、悲しいような、複雑な気持ちになりながら一つため息をつく。


ここで変な意地を張って失敗したくはない。


シャーロットは青年の手を取った。


「わたしも連れて行ってください」


「うん、任せて。僕はルギ。できれば敬語とかもなしで、友人だと思って接してくれると嬉しいな」


「わかったわ。わたしはシャーロット。よろしくね、ルギ」


それぞれ名乗り終えると、ルギはシャーロットの手を引きながら早速歩き始めた。


早くもなく遅くもない、丁度いい速度である。


「この先には表口があって、その近くに管理室がある。そこが今回の会場への入口なんだ」


「管理室…そこって簡単に入れるものなの?鍵とかかかってそうだけど」


施錠されていなければとっくの昔にヴェリストのメンバーが見つけているはずだ。


自分が囮になる必要もなかっただろう。


「管理室に入るだけなら、鍵は要らないんだよ。問題は入ってから。…見えてきたね」


そう言って彼が指差した先に見えたのは、扉が開いたままの部屋だった。


明かりはついておらず、ぽっかりと黒い穴が空いているように見える。


二人は管理室に駆け寄ると、その真っ暗な空間に恐る恐る足を踏み入れた。


「…駄目だ、電球が切れてるね。ライトを持ってきておいてよかった」


ルギはそう言うと内ポケットからペンライトを取り出した。


細い光で床を照らしながら中に入ると、部屋の奥、真正面に置かれた本棚を片手で壁沿いに横へとずらす。


シャーロットはその光景を見て目を瞬いた。


「そんな簡単に動かせるなんて…」


「ふふ、僕にしか出来ないと思うよ」


本棚の中には大量の本が並んでおり、相当の重さであることは容易に想像できる。


彼が怪力なのか、あるいは本棚に何か仕掛けがあるのか。


シャーロットは不思議に思い、本棚に近づいて触れようとした。


「シャーロット、こっち」


しかしそれは叶わず手を引っこめると、言われるがままに歩み寄る。


それを確認すると、ルギは目の前の壁をぐっと強く押し込んだ。


いや、正しくはただの壁だと思っていたそこが、一枚の回転扉になっていたのだ。


ゆっくりと回る扉の奥には、薄暗い空間が見える。


「僕が先に行く。足元に注意しながら付いてきて」


そう言って壁の向こう側へ進んでいくルギの後ろで、シャーロットは鞄から招待状を素早く取り出し、閉まる扉に挟み込んだ。


(目印になればいいけど…)


意味があるかは分からないが、何もしないよりはいい気がする。


「この階段結構長いから、落ちるとただじゃ済まないよ」


「そ、そんな…」


壁に手を付きながら、一段一段慎重に階段を降りていくと、やがて反響する靴音の中に人の話し声が混ざり始めた。


「…ここが会場だよ」


そうして二人がたどり着いたのは、埃っぽく、薄暗い場所だった。


無機質なコンクリートから成る空間を、黒や白の仮面をした大勢の男たちが忙しそうに動き回っている。


奥にある巨大な昇降台に、商品を乗せているようだ。


(ここが、倉庫…)


辺りを見回すと、宝石、絵画、武器など、様々なものがフロアライトの光に照らされていた。


とりあえずはシュラの狙い通り、無事に目的地にたどり着けたようである。


しかし、ほっとしたのも束の間。


「おや、一人多いようですね」


突然のことに驚き、声をかけられた方へと顔を向けると、そこには口髭を生やした四十代ぐらいと思われる男が立っていた。


艶のある上質そうなスーツを着ており、仮面はしていない。


「こちらにも準備というものがあります。予定外のお客様は困りますよ」


「はは、まあそう言わないで。彼女は僕の友人なんだ。彼女もここに用があったみたいだから」


じろじろと疑うような視線を向けてくるその人物の瞳は暗く翳っており、病的にこけた頬は不気味だった。


(なんだか、さっきから寒気がする…)


ルギはこの男と面識があるようだが、それはつまり常連客ということを意味する。


大劇場にいたのだから当然彼も裏側の人間なのだということを、今更ながらに実感した。


「はぁ…まあ貴方の紹介ということならいいでしょう。さて、では自己紹介を。私はこのオークションの主催者、ジデル・トリオン。お嬢さん、君の欲しいものを聞こうか」


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