表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェリスト家のシャーロット  作者: 水廉
第二章
23/27

***


少し癖のある、淡い赤紫の髪。


まさかとは思ったが、珍しいその髪色を見てシャーロット・カルファではないかと疑った。


声をかけるとぴしりと固まったので、本人だと確信したのである。


どうやら自分と会ったことが、彼女にとって不都合なことらしい。


彼女の態度でそれを理解し、照明の消えたホールから外へ呼び出すことにした。


「来い」


そう言って歩き出すと、遅れてヒールの音がついてくる。


シュラは扉を開け、そのまましばらく歩き続けた。


(ここにいるということは、何か狙っているものがあるとみて間違いないか)


どうやってここを嗅ぎつけたのかは知らないが、場所が場所なので動き回られては面倒だ。邪魔をされる前に帰すべきだろう。


当然のごとく、反発してくるのだろうが。


密かにため息をついて立ち止まると、渋々といった(てい)でついてきているシャーロットを振り返った。


いつもは結い上げられている髪は下ろされ、その身には漆黒のドレスを纏っている。そして顔を隠すための、鼻梁までを覆う仮面。


明かりの下で見た彼女の普段とは異なる装いに、シュラは一つの案を思いつく。


(一度…試してみるか)


シャーロット・カルファという人間が使えるかどうかの検証だ。上手くいけば、今回の作戦は楽に終わる。


「シャーロット・カルファ。作戦に協力しろ」


***


(やっぱり見逃してくれませんよね…!)


シャーロットはシュラを追いホールの外に出る羽目になった。


もともとオークション参加者がホールに集まっている間に劇場内を捜索する計画だったため、本来なら何の問題もない。


しかし要注意人物に呼び出されたというのがまずいのだ。


(今度こそ銃殺されたりして…)


びくびくしながらもついて行くと、シュラが体ごと振り返る。


彼はそのまましばし黙っていたが、やがて口を開いた。


「シャーロット・カルファ。作戦に協力しろ」


唐突に、さらっと吐かれた信じられない言葉に、シャーロットは自分の耳を疑った。


作戦とはユラの言っていたオークションを潰すためのものだろう。それに戦えない自分を参加させようと言うのだ。


これが冗談であったなら無理にでも笑ってみせたが、残念ながら彼がそういうタイプの人間ではないことは知っている。


「えっと…本気、ですよね」


「ああ。命の保証はないがな」


危険な作戦になるだろうことは容易に想像ができる。もちろん簡単に頷けるはずもない。


「いきなりすぎませんか?それに昨日命はかけられないって言いましたよね?」


「だが俺も言ったはずだ。おまえの意志は関係ないと。俺が使うと決めたら駒となる他ない。そうだろう?使用人を名乗りたいのならな」


シャーロットは押し黙った。立場上、彼の言うことは正しい。


そうは思いつつも納得がいかない、と睨みつけたが、対するシュラは薄く笑みを浮かべるだけである。


「おまえにもメリットはあるぞ」


「メリット?」


「今夜も様々なものが出品物として登録されている。ここにいるということは、おまえの狙いはその中のどれかだろう?」


確信を持ったような問いかけに、シャーロットははっとした。


『東の湖』


絵と聞いて劇場のどこかに飾られているとばかり思っていたが、もしもその依頼の絵画が今回の出品物だったとしたら。


「俺たちの目的はオークションの阻止。そのために劇場のどこかにある商品倉庫を探し出す必要がある」


「…なるほど。協力したら、わたしも商品に近づける。もちろん自由に探していいんですよね?」


返ってきたのは沈黙。それはおそらく肯定を意味している。


彼は暗に言っているのだ。協力するなら今回の勝手な行動は咎めない、と。


見事に彼の思惑に乗せられている気もするが、参加する以外の選択肢はなかった。


例え絵が商品ではなかったとしても、劇場を彷徨い探すことはいつでもできる。ならば今は腹を括って参加する方が賢明だろう。


(これが終わればラースを助けられるかもしれない)


シュラに会ってしまったが、目的さえ果たせれば報酬を得られる可能性はある。


「…そういうことでしたら参加します」


「もとより拒否する権利はないがな」


そう言ったときの冷淡な笑みに、何やらとんでもないことをさせられそうな予感がした。


その不安を表情に出さないように努めながら、自分の役割を尋ねる。


「何をすればいいですか?」


「そう難しいことはない。主催者側の人間に接触し、裏会(うらかい)に参加したいと伝えろ」


「裏会?」


聞き覚えのない単語に首を傾げると、シュラは少し声を潜めて言う。


「正式な競売の前に、直接主催者から商品を買うことができる会だ。客が商品倉庫に入れる唯一の機会といえる」


今回の作戦にとってはまさに絶好の機会。


これを逃す手はない。


「ですが、裏会ってそんな簡単に参加させて貰えるんでしょうか」


「顔を知られていないおまえなら、まず疑われることはないはずだ。それに、向こうが欲しいのは利益。最低でも五億ルドを払うと言えば参加できるだろう」


「五億…」


儲けることが目的の主催者にとっては最高の客かもしれない。


その役を任されたということだ。


「ですが参加できた後は?オークションを潰す作戦なのに、わたしだけ倉庫に行っても意味が無いですよね」


「簡単な話だ。おまえに俺の魔力を送り、それを辿ることでおまえの居場所、つまり倉庫の場所を把握する。あとは制圧して終わりだ」


魔力という単語が自然に出てきたことを、今は気にしている場合ではない。


重要なのは自分が囮だということだ。


万が一相手に知られたら、その時は死を覚悟するしかないだろう。


「…敵に怪しまれたら終わりということですね」


「そういうことだ。とはいえ気負う必要はない。おまえはただ、自分の目的を果たせばいい。俺たちがそれを利用させてもらうだけだ」


シュラはそう言いながら、シャーロットの両肩を掴んで引き寄せた。


突然のその行動に驚き仮面の下で目を瞠っている姿が、シュラの瞳に映り込んでいる。


「あの、シュラ様?」


「動くな」


囁くようにそう言われ、シャーロットは身を固くした。


間近にある彼の黄金色の瞳が一瞬煌めくと、刺すような冷気を肌に感じる。


次の瞬間、体の中を冷たい何かが駆け巡り始めた。


それは触れられている肩から全身に波打つように広がっていき、体温を奪っていく。


これが魔力というものなのだろうか。


まるで頭からつま先まで、全ての細胞が凍りついていくようだった。


「これでいいだろう」


やがてシュラが手を放すと、体が熱くなり、自分の体温が戻るのを感じる。


つい先程までの冷たさが嘘のようだ。


「…やはり適応が早いな。魔力はそれを持たぬ者には毒となり、最悪の場合死に至ることもあるらしいが」


それを聞き、シャーロットは血の気が引くのを感じる。


「そ、そういうことは先に言ってください!」


下手をしたら作戦に参加できず、依頼も果たせないまま、ここで死んでいたかもしれないということだ。


そう考えると黙ってはいられず、シャーロットはシュラに詰め寄った。


「わたしを使うと決めたなら、最後まで機能するように配慮してください。それが駒を扱う人間の役目ですよね?駒を動かす前に捨てるのは馬鹿のすることです!」


シャーロットはそう言い放ったが、当主に対する言葉としては間違っているかもしれない。


しかし自分の言った事が見当違いだとは思わないため、謝るつもりはなかった。


それを聞いたシュラは気分を害した様子はなく、それどころか、なぜかふっと笑った。


(え……笑った…?)


仮面で表情はよくわからないのに、それはよく見る不敵な笑みでも、冷笑でもない気がした。


単に、何かが面白くて笑ったように見えたのだ。


あまりにも意外で、シャーロットは思わず目を瞬く。


だがすぐに、いつもの無表情に戻ってしまった。


「おまえなら適応できる。その確信はあった」


「…?それはどういう…」


聞き返したが、シュラはそれには答えず、そのままシャーロットの横を通り過ぎた。


「おまえに明日が訪れるよう、最善は尽くそう」


「え…あ、当たり前です!見殺しにしたらあの世で一生呪いますから!」


すれ違いざまに放たれた言葉に、シャーロットは振り返ることなくそう返した。


「…それは鬱陶しいな」


そんな呟きと共にホールの方へと戻っていく靴音が聞こえなくなると、大きく息を吐き出す。


武器も策もない丸腰状態というのは、誰が見ても無謀だと言うだろう。


それでも自分は彼の望む通りに動くしかない。


「行きますか…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ