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暗い  作者: 小林希生
4/4

4 回り(1)

「あっどうぞ」

専務は特に表情を変えることなくそう答えた。

舞子はポケットからヴァージニアスリムを取り出し、使い込んでいるヴィヴィアンウエストウッドのライターで火をつけた。女は基本的にタバコを吸わないと考えている男が多く、舞子はタバコを吸うたびに何か遠慮しなければならないようない居心地の悪さを感じていた。専務も舞子がタバコを吸う断りをとった時、ダメだとは言わなかったものの、こうして指を立てて煙を吐き出す舞子を少し見て、驚いたような表情を見せた。

 緊張していたせいか、舞子はいつもよりタバコを吸うストロークが深くなった、一気に吸うので口腔にはいがらっぽい煙が入ってくる。タバコの柄に印字された文字が燃えてなくなりそうになったとき、専務が言った。

「そろそろあさごえだから、行こう」」

「分かりました」

 専務がもう一つの扉を開けるとそこは確かに車庫だった、中途半端な半地下になっていて。緑色の軽自動車が一台止まっている。専務はそのまま半地下の車庫の坂道を登り、駐車場に出た。

 駐車場にはもう既に20人程の人が集まっていた。どこからかビールケースが駐車場の真ん中に置かれている。専務が現れると20人は一斉にビール瓶の前に整列した。表情は暗い。

 専務はビールケースの上に立つと、さっきの「さっちゃん」が突然叫んだ。


「今日のあさごえ!」


すると残りの19人もほとんど乱れのないタイミングで


「今日のあさごえ!安全第一!」


と一斉に叫びだした。


「今日のあさごえ!安全第一、今日のあさごえ!仕事は宝!」

「今日のあさごえ!安全第一。社会貢献いらっしゃいませ!」


「ありがとうございました。もうしわけございません!」

「もうしわけございません!またご利用ください!」


「誠意!誠意!誠意で今日もがんばるぞ!」

「おおぉう!」


 舞子はその様子をただあっけにとられて眺めていた。

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