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暗い  作者: 小林希生
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2 面接(2)

 

 今回の選考、舞子は新卒採用として参加しているわけではない。

 バイト先のオーナーが「いい話がある」といって持ちかけてきた話である、詳細な募集要項があるわけではなく、オーナーを間に挟んで山田運送と連絡を数回取り合った結果、本来は学歴不問で年齢不問だが、舞子が商学系の短大卒であるからということで報酬に多少色をつけてくれることになった。舞子も最初は乗り気では無かったが自分が多少なりともエリート扱いされていることに悪い気はしなかったので、オーナーの顔を立てるつもりで面接に参加することにした。

 面接を受けるまでは結果はどうでもよいと考えていた、だから舞子は面接には私服で行った、そもそも舞子は就職活動をまともにしたことが無かったのでリクルートスーツを持っていなかった。それに、これは会社に来てみてわかったことであるが山田運送はリクルートスーツで行くことのほうが不自然に思えるような会社である。


「ところで小山さん、そのお茶はおいしいですか」


 舞子は言葉の意味がわからなかった。舞子の座っている椅子には机は無いのでもちろんお茶など出されていない。対面している3人の男達の前には湯のみに入ったお茶がある。みなそれぞれデザインが違うので個人の所有だろうか、先ほどから一番口を開く真ん中の男の湯のみはかわいいのかかわいくないのか判断しかねる猫のデザインの入ったものだ。これで女子社員の気を引こうとしているのではないかと考えたが、そうだとしてもこれは無い。逆効果だ、きっと真ん中の男は女子社員に良くは思われていないだろうと勝手に想像した。


「あの・・お茶って何でしょう」


「小山さんが持ってるのですよ、最近テレビでよくCMやっていますよね」

「あっすみません」

 男は舞子が手に持っているお茶について言っているのだ。


「ああ、そういう意味じゃなくて、まぁこんな会社ですから。いやぁ、こんなこと言ってはいけないですねぇ。そんな肩肘張らずにいいですよ」

「申し訳ありません」


「で、そのお茶おいしいですか」


 舞子はこのお茶が有名かどうか知らなかった。CMでやっていると言っていたがあまりテレビを見ないので男のいうCMを思い出すことができなかった。話が売れているかいないかの話になったが、舞子はコンビニで働いているので一番売れているお茶が何であるか大体の見当は付く。紛れもなくこれは、売れていない。売れていないから、舞子は店のバックヤードから一本拝借してきたのだ。


「実際コンビニでの売れ行きは芳しくないと思いますが、おいしいですよ。これ最近出たものでメーカーも力を入れているんでしょうか、売れるとしたこれからかもしれませんね」


「そうなんだぁ、テレビでやっている割には店では見かけないから、もう売切れちゃったのかと思ってました」

「そうですね、わからないものですね」

 

 お茶の話はこれっきり出てこなかった。この後、短大生活について、両親について、通勤手当の支払い基準など、ありきたりなやり取りを行った。


「じゃあ小山さん、いつから出てこれますか」

「えっ、そうですねぇ・・もし採用していただいたらの話ですけど来週の月曜日くらいからなら出られると思います」

「そうですか、ウチとしても小山さんにね、是非とも来ていただきたいのでお願いします」

 中央に座っている男はあまり表情を変えずに言った。


「ありがとうございます」


 山田運送での面接はこれで終わった。帰り、舞子は車の中で男達の名前を聞いていないことに気付く。

 普通は面接の前に名詞をいただけたりするなどと思っていたが、山田運送のような中小企業にはそのような文化はないのかもしれない、だから、中小企業なのかも知れない。

 舞子は推測した。そもそも舞子にあまり期待していなかったのではないか、だから男達は名乗ることをしなかった。でも舞子は合格したらしい。来週の月曜日から出社するらしい。だから男達の名乗らないという行動が余計不可解に思えてしょうがない。こうも考えられる、男達が自分の会社に誇りを持っていないのではないか。なんか恥ずかしいというか、そんな気持ちがあったのではないか。

 面倒くさくなってきたので舞子はそこで考えることを辞めた。






 出社するまでの間。

 舞子はまず、オーナーに報告した。オーナーは大げさに喜んで。

「よかったな、まぁがんばれよ!」

 などと嘯いているが、この人は自分の事をどんな風に思っているのだろうと考える。オーナーの娘は舞子も知っている、昔から頭が良くて優等生だった。今は国立大の学生である。舞子は彼女が何をしているか知らなかったが過去の舞子のイメージと国立大に通っているという事実とで医学部とか、法学部などの学部で、きっと将来は一流企業に就職するのではないかと勝手に思い込んでいる。


 三日間でコンビニの残務処理を済ませ、残りは特に何もせず、だらだらと過ごした。もうフリーターではなく会社員なのだからと、両親に対する後ろめたい気持ちも消えていた。誰かと遊びにいこうとも考えたが、平日なので誰も相手してはくれない。

 だらだらと過ごしていたせいで、舞子は来週から働くことすら忘れかけていた。山田運送のことが意識に上ることは面接以来ほとんど無い。ようやく会社のことが頭に浮かんだのは前日だった。

 面接の時と同じような洋服を着て、舞子は山田運送に出社した。







 











 

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