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【TS】こーいう世界のものがたり【現代】

うちの会長は今日も可愛い

作者: 秋野ハル

【注意書きというか、ちょっとした背景事情のお話】

 この小説は自分の拙作である『今日もオレ/俺は恋をする』と同じ『反転病』の存在する世界での話となりますが、あちらと直接繋がるような話でもないので、特に読んでなくても無問題です。

 数十年前から発生が確認されるようになった、十代のみに発症して男が女にまたはその逆に性別がひっくり返る奇病『反転病』(本当はもっと長く小難しい名前だが、世間一般ではそう呼ばれている)が、現在ではそこそこ珍しくもわりとよくある存在として、なんだかんだと緩めに受け入れられている世界。

 大体そんな前提で進む物語、ということだけ覚えていただければ十分かと。

 自分を偽る。外面を良く見せる。猫を被る……。

 そういった"賢しいやり方"を覚えたのは、いつからだっただろうか。


 幼稚園の頃、女子とおままごとばかりして遊んでいたら、同い年のガキ大将な男子にからかわれたときか。


 小学生2年生の頃、母親に「こんなことばかりしていたら馬鹿になる」と、ゲーム機を取り上げられた瞬間か。


 それとも小学4年生の頃、父親に「男なんだから本ばかり読まず、もっと体を鍛えろ」と半ば無理矢理、少年野球のチームに入れられてからだろうか。


 もしくは……中学1年生の頃、隠れてタバコを吸っていた同級生にちょっとした正義感からやんわりと止めるよう促して、最終的には頬に青あざを作っただけの不毛な結果に終わったときからだったのかもしれない。


 とにもかくにも気づけば、自分の中にはいつの間にかある種の"線引き"のようなものが出来ていて。

 態度さえ良ければ、傍から見て"お利口"にさえしていれば誰もなにも言わないし、煩わしいことだってなにもない。

 だからあえて"自分"を鈍らせて、世間に迎合させて。不平不満を飲み込み、周りと軋轢がないように、そればかりを意識して生きてきた。

 そうしたら予想どおりと言うべきか、それなりに友人と呼べる存在も出来て、女子とだって何度か異性としてのお付き合いもした。

 だけどいわゆる"友人"とは上辺だけの、クラスで孤立して悪目立ちしないためだけの付き合いでしかなかった。

 それに女子は女子で「勉強もスポーツもできてかっこいい」だの「他の男子と違って誠実そう」だのと持て囃し、告白だって全部向こう側からしてきたのに、数ヶ月もすれば「つまらない」とだけ言い残し、勝手に離れていった。


 ――そういうものなんだ、人って言うのは。


 『俺』は自分にとっての平穏を自分なりに維持しながらも、どこかで息の詰まるような閉塞感を感じていて。

 だからといって現状を変えようする度胸も、その気すらもないままただ無為に過ごしていた高校生活。

 俺が『彼女』と出会ったのは、そんな日常の最中だった。

 彼女は俺と同じく、猫を被っていた。

 だけど彼女は俺なんかよりもよっぽど大変なことを経験していて、それでも俺とは違って腐らず自分のやりたいことを見据えていた。

 前向きに生きるためにあえて猫を被り続ける彼女と、後ろ向きに生きた結果、気づけば猫を被っていた俺。

 この物語は、そんな俺たち二人だけの秘密の日々。

 "ありのまま"の俺と彼女の、とある日常の一幕である……。



   ◇■◇



 容姿端麗、清廉潔白。常に余裕と気品をその身に湛え、いついかなるときでも頼れる人格者。

 文武こそ両道とは言い難いが少なくとも文については文句なし。武では平均より若干見劣りするもののそれはそれで「愛嬌がある」と親しまれる辺り、最早長所と言っても過言ではないだろう。

 "天は二物を与えず"なんてことわざに真っ向から喧嘩を売りに行くような才気の塊。それでいて先生からも生徒からも男子からも女子からも平等にかつ圧倒的な人気を誇る、正しく理想の生徒会長。

 それがこの『市立青陽高等学校』の現生徒会長『明空あきそら 陽菜ひな』の、公の場での・・・・・評価だった。

 その彼女は今、『俺』の隣で生徒会としての仕事に勤しんでいた。


 "コ"の字型に並べられた長机と、そこに沿うようにパイプ椅子を並べて座る生徒会の面々。

 コの上下の線に当たる所には、線1本につき会計1名と書記1名が。上下合わせて4人の会員が着席している。生徒会らしくというべきか、その座り方からして各々の勤勉さが垣間見えた。

 そんな彼らの視線が今集まっているのはコの字唯一の縦線、この会議における中心とも言える座席だ。そこには当たり前のように、この生徒会の中心人物たちが席を並べていた。その数は二人。

 一人は生徒会の副会長。そしてもう一人は我等が青陽高校略して青高の誇るパーフェクト生徒会長、明空陽菜だ。

 その背になびく長い黒髪は、例えるならば大自然を静かに流れる清らかで美しい運河か、はたまた穢れも傷もない最高級の絹糸か。

 髪と同じくどこまでも透き通った黒さを持つ瞳は、ぱっちりと力強く前を見据えている。鼻梁の通り方だって、達人が筆で淀みなく引いた一筋の軌跡のように繊細かつ美しく。

 唇だって小ぶりながらも鮮やかかつ健康的な血色で、それらのパーツ一つ一つが、少々幼さを残しながらも大人としての色気を確かに感じさせる美しい逆三角の輪郭を持つ顔全体に、これ以上ないくらいぴったりに配置されていた。

 顔だけでなく、学校指定のオーソドックスなセーラー服を着こなしている体の方も、胸囲こそ平均的だがウエストは細く足もすらりと伸びていて、全体的なシルエットで見ればそつなく美しいバランスとなっている。

 学力や人格だけでなく、ルックスまでもがスバ抜けている彼女に羨望以外の眼差しを向ける生徒も少なくはないが……さすがは生徒会。メンバーは会長含めて男子3名女子3名の計6名だが、その誰もが会長を前にしても仕事に集中……いや、男子二人と女子一人がなにを思っているのか若干そわそわしているな。会長が目線を動かしたりする度に、体がぴくりと反応しているのが隠しきれていない様子。

 とはいえ今の会議に支障はないし、咎めるほどの行為でもない。


 そう、今は会議中だ。議題は『文化祭の予算運用について』。

 ところどころ剥げた壁の塗装に、古めかしいシミや傷を残す備品たち。さすがは半世紀以上前に建てられた校舎と言うべきか、良くも悪くも雰囲気に歴史が現れている生徒会室に、会長の透き通ったソプラノボイスが響きわたった。


「それでは次、後夜祭において毎年恒例となっている生徒会主催のキャンドルパーティですが――」


 背筋をしゃんと伸ばし、なおかつ微塵も緊張が見られない雄弁な姿勢で議題を進めていく会長のおかげで、議題はなんの滞りもなく終わりの兆しを見せる。

 こうなると、俺の出番はないも当然だ。俺のポジション的にやや不謹慎な気もするが、それでも退屈を抑えられず俺は宙に視線を向けた。

 ふらふらとさ迷う視線が、鍵のかかった窓で不意に止まる。窓ガラスには長袖のカッターシャツを着た俺自身の姿が――青高生徒会の副会長である『宮地みやじ ながれ』の姿が薄らと映っていた。

 全体的にさっぱりと短めに整えられて、清潔そうな印象を見る者に与える黒い髪。

 本来なら近寄りがたい印象を抱かれかねない細く鋭い瞳は、楕円形で細めのフレームを持つ眼鏡を通すことで、スマートかつ知的な物へと緩和されている。

 自分で言うのもなんだが、それなりに上等な顔付きをしていると思う。ついでに言えば学力も運動神経も申し分なく、学力に関して言えば学年でも5本の指に入るほど。

 まぁ控えめに言ってもこの学年で俺以上に優秀な人間なんて、それこそ現在俺の隣で喋っている生徒会長様ぐらいなもんだろう。ちなみに会長も俺も、2年生である。3年生は受験などで忙しくなるため、基本的に生徒会メンバーは2年生までの生徒で構成されているのだ。


「最後に、次回の議題についての概要だけ先に説明しておきますね。まずは――」


 そろそろ終わりそうだ……俺は意味も無く見詰め合っていた己から視線を外して会議に意識を戻した。

 そうしてしばらく。会議は最後まで滞る気配すら見せないまま、順調に終わりを迎えるのだった。


「――以上で、今日の会議は終了となります。皆さん、ありがとうございました」


 会長がぺこりと頭を下げて、会議は閉幕。

 その直後、俺の視界の中で生徒会のメンバーが思い思いに動き始めた。立ち上がって伸びをする者が2名、手元の資料で会議の内容を再確認する者が1名。そして……なにやら用事があるらしく、副会長である俺の下へと赴いた者が1名。

 俺の目の前に立つ会計くんは、先ほど会議中にそわそわしていた一人でもあった。


「あの、すみません副会長」

「ん、どうした?」

「いえ、その、少しこの間の案件で相談が――」


 どうも会長に対してだけでなく元々そういう気質なのか、俺の前でも若干そわそわしながらも、会計くんは相談を口にした。

 俺はその内容に対して出来る限り分かりやすく、かつ優しく答えるように意識して言葉を紡いでいく。

 はたして相談は無事つつがなく終わり、会計くんはやたらキラキラした眼差しで俺に頭を下げてきた。


「あ、ありがとうございます! さすが副会長です!」

「さすがって……そこまででもないよ。俺は俺の仕事をやっているだけだから」


 謙遜で返してみれば、さらに倍返しといわんばかりの尊敬を湛えた眼差しをぶつけられた。正直、その手の視線は暑苦しくて好きじゃないので止めて欲しい。

 とにもかくにも今日の生徒会の仕事は概ね終了している。

 ほどなくして俺と会長以外の生徒会メンバーは、それぞれ律儀にも一言挨拶をしてから各々部屋を出て行った。

 最後に例の会計くんだけが「なにか自分に手伝えることはありませんか!?」と無駄に気合十分な質問をしてきたが、俺は当然のようにやんわりと拒否した。


「あとは俺たちだけで大丈夫だから。というか、俺たちじゃないと出来ない仕事もあるしな」

「でも……」


 面倒なことにわざわざ食い下がろうとする会計くんだが、そのタイミングで示し合わせたかのように会長が割り込んできた。


「そうそう。悪い言い方になっちゃうかもだけど、こればかりはみんながいても仕方のないことだし……だから私たちのことは気にせず、自分の時間を大切に……ね?」


 微笑みながらそう言った会長。最後の「……ね?」が効いたのかどうかは定かでないが、その直後に会計くんが顔を赤くして「わ、分かりましたぁ……」などと若干上ずった声を最後に大人しく退出していったのは、確固たる事実だった。ちょろい。

 とにもかくにもようやく俺と会長以外の生徒会メンバーが全員出ていき、生徒会室にはひとときの静寂が訪れた。

 時は9月中旬。今年は夏の残滓があっさりと過ぎ去り、すでに気温は暖かめながら穏やかで過ごしやすいものとなっているため窓を開ける必要すらなく、外で部活動に勤しむ運動部の声も微かにしか届かない。

 静かな室内で、俺と会長はどちらからともなく目と目を合わせた。

 会計くんに向けたのと同じ微笑みを俺にも向けて、会長が言う。


「じゃあみんなも行ったことだし、"私"たちにしか出来ない仕事……やる?」


 その台詞を聞いて、軽く顔が綻ぶのを自覚しつつ俺も答えた。


「……そうですね、やりますか」


 手を伸ばせば触れ合う距離。いや、触れ合えるのは手だけじゃない。顔ですら……。

 放課後の静かな密室、至近距離で見詰め合う二人。見る人が見れば即座に"そういう光景"を連想出来そうな雰囲気の中、会長は手を俺に――ではなく、自身の足元に置いてあった学生鞄へと無造作に突っ込んだ。

 そのまま探って、よいしょと引き抜く。

 はたしてその手に握られていた物は、もし俺以外の人間がこの場にいれば間違いなく驚き目を疑ったであろう代物だった。いや、ただの一生徒が持ってくる分には驚かないが、まさかこんな物を会長が持ってくるとは夢にも思わないであろう……そんな代物。

 そしてそれを手にした会長の顔に、先ほどまでのたおやかな微笑みは影も形も見当たらなかった。


「はー、長かったー! ようやくゲームができるー!」


 会長の手に握られていたのは、まさかの某最新型携帯ゲーム機。

 その持ち主である会長の表情は……これまた俺以外の人間が見たら誰もが目を疑うどころかひっくり返ってもおかしくない程に、おおよそ普段の会長からはかけ離れた子供のような満面の笑みだった。

 しかしそんな笑みも、俺にとってはすっかり見慣れたものだ。だから俺は驚くこともひっくり返ることもなく、自分の足元に置いてあった学生鞄を引き上げる。

 その間も会長は、ゲームが出来るのがよほど嬉しいのかひっきりなしに口を動かしていた。


「『モンバス3』、昨日の夜もずーっとやってたんだけどやっぱ一人だと中々素材集まらなくてさぁ、だから"俺"この時間が待ち遠しくて。早く終われー! ってずっと念じながら会議やってたんだよ」


 俺。皆の憧れにして理想の生徒会長の一人称が、俺。

 男勝りな口調と、それに違わぬ晴れやかな表情。これを見たら一部のファンはひっくり返ったまま気絶しかねないな、例えばあの会計くんとか。

 なんて他愛もないことを考えつつ、俺は学生鞄を机に置いて会長が持っているゲーム機と同じ物を取り出してから、軽口を放り投げた。


「生徒会長がゲーム目当てに会議をくとは、なんともまぁ。しかしいっつも思うんですが切り替えすごいですよね。顔面表情筋疲れませんそれ?」

「疲れてるからこうしてゲームに癒しを求めてるんだろ。ほら宮地、はーやーくー!」

「はいはい今からやりますよ……」


 ばんばん机を叩きながら急かすんじゃない、ガキかあんたは。

 そうツッコミたくもなる雑な催促をBGMに、俺はゲーム機を起動して――


「あ、間違えて2持ってきてた」

「うそぉ!?」

「はい、嘘ですよ」


 起動したゲーム機から、モンバス3のメインテーマが流れだす。

 耳聡くそれに気づいた会長は、当然ぷりぷりと怒り出した。無論、そこには余裕も気品もまったく感じられなかった。


「なんだよもう! まったく意地が悪いんだから……人のことばっか言うけど、お前も大概猫被りじゃないか。なぁ成績優秀スポーツ万能、品行方正で聡明な、副会長さん?」


 さっきまで怒っていたはずなのに、すぐにころっと意地の悪い笑みを浮かべだした会長。つい数分前まではたおやかな微笑みがデフォルトとなっていたはずの顔面表情筋が、今は目まぐるしく活動しているようだ。

 なんにせよ会長の言うことにも一理はある。俺だって普段は今みたいな意地悪も、フランクな態度で誰かと接することも絶対にしないからだ。


「さてなんのことやら」

「女子の注目No.1なイケメン副会長様が、"自称"人嫌いの皮肉屋なんだもんなぁ。わりかし意地悪だしプレイスタイルだって実際、地味に陰険な眼鏡だし。やーい根暗メガネー」

「はんっ」

「大正義生徒会長を鼻で笑いやがったこいつ!」


 それが今ではご覧のとおりである。一応相手は同学年ながらも会長。目上みたいなものなので敬語は外さないが。

 とはいえ……。


「……ま、そこら辺はどっこいどっこいということで。それよりも、早くやりたいんでしょう?」

「もち! さぁやろうすぐやろう!」


 会長がいかにも"早くやりたいです"オーラを出していたためにこの場は適当に流したが、しかし俺はつくづく思うのだ。 


「やっぱ会長には、負けるよなぁ……」

「なんか言ったか?」

「いえいえなにも」

「ふーん、ならいいや。そんなことよりもモンバスだ!」


 会議でいかんなく発揮された耳触りの良いソプラノボイスも、今はモンバス3のメインテーマを口ずさむために浪費されている。

 隣で機嫌よく鼻歌を奏でる会長を横目に見ながら、俺は物思いにふけていた。

 やっぱり……"猫被り"においては会長に勝てる気がしない。

 だって、誰が信じるだろうか。

 容姿端麗、清廉潔白。文は優秀、武も愛嬌。誰もが憧れ尊敬する、理想の生徒会長様の中身がこんなに明るく男勝り、しかも大のゲーム好きだったなんて。

 その上おまけに――


(――本人曰く『2年前までは、そこら辺にいそうなただのゲーマー男子だった』っていうんだもんなぁ……)


 画面の中ではゲームの読み込み中であることを示す『Now Loading』の文字が右下に表示されていた。

 一方俺の頭の中で読み込まれていたのは、4ヶ月ほど前の記憶。俺と会長が今の関係を結ぶきっかけ、そして俺が"本当の会長"を知るきっかけとなった、あくる日の出来事だった……。



   ◇



 ――『彼女』が会長に、俺が副会長に選ばれたのは、当然といえば当然だった。


 青高の生徒会長は、基本的に2年生に担わせるのが一つの慣習となっている。

 一応全校生徒からの投票形式ではあるのだが、3年生は受験で忙しくなるから立候補しないし、かといってなにも知らない新1年生だっていきなり生徒会長に立候補したりはしないだろう。万が一立候補しても、経験が0に等しい1年生に投票する酔狂な生徒は早々いないはずだ。

 そうなれば生徒会長は、そしてそれを補佐する副会長も半ば芋づる式に2年生が担うこととなるのだ。

 もう一つ言えば経験値の高さと引継ぎの楽さなどの都合上、前期の会長が同じく前期の生徒会役員の中から有能な人材を選んで会長&副会長職への立候補を促すことも、また慣習となっていた。

 そうなれば、ぽっと出の2年生がもし会長に立候補したとしても、前期から生徒会をやっていた2年生の方に票が集まるのが必然。

 つまるところ、前期で生徒会役員だった新2年生の中で最も有能な者が会長&副会長を担う。そういうことになっていた。


 そして俺と会長……当時は会長じゃなかったけど。とにかく前期から生徒会に所属していた俺たちは、その学力の高さと人格から当然のように前期の生徒会長に立候補を促されて。

 当然のように今年5月の生徒会選挙を経て、会長は会長に。俺は副会長と相成った。

 エスカレーター式に役職が上がるのが半ば慣習化していた。という事実を抜きにしても、俺も会長も……特に会長の支持は言わずもがなの厚さで、誰も俺たちの役職に不満を持つ人間はいなかったと思う。

 才色兼備の生徒会長と、それを補佐する聡明な副会長。そのコンビはこれ以上ないくらいに皆からの期待を集めていたし、実際今までの俺たちの仕事ぶりもその期待を裏切らないものだと自負できる。

 だがその集まる期待や羨望の眼差しを、少なくとも当時の俺だけは冷めた目で見つめていた。

 生徒会に入ったのは特にやりたい部活もなく、対外評価もほどよく上がるから。学校に尽くす気だってこれっぽっちもないのに、ただ自身のみてくれを整えるために仕事をしていたら、いつの間にか副会長に祭り上げられていて。

 俺は偽っている人間だった。親の、先生の、同級生たちの評価だけを気にして、余計な諍いを起こさないようにずっと立ち回ってきた。

 だから俺は、周りが俺にかける評価や期待に対してずっと碌な感情を抱いていなかった。『俺の中身をなにも知らないくせに、好き放題言ってくれる』と馬鹿にしてすらいた。

 そんな俺だからだろう。当時の俺は会長を――明空陽菜という人間を、どこか胡散臭く感じていた。


 可愛くないと、そう思っていた。

 

 容姿端麗、清廉潔白、才色兼備にその他諸々、褒め言葉には事欠かない。完璧超人とは言えず短所だって存在するが、"嫌味がない"という意味ではもはや一種の長所だろう。

 ある種空想の産物じみた存在である彼女はどこか浮世離れしていて、だからこそ胡散臭かった。

 自分を捨てて、人にとっての理想だけを体現しているから、どこか作り物めいて見える。

 根拠は無いが不思議とそう確信していた。なぜなら自分も"そっち側"の人間だから。

 とはいえべつに秘密を暴いてどうこうする趣味も、俺になにかしらの利があるわけでもない。

 会長に対する胡散臭さといつもどおりの閉塞感を抱え、だからといって特になにをするわけでもなく、ただ新しい生徒会でそれなりに仕事をこなす日々。

 それがただのルーチンワークもとい日常となりかけていたある日のこと、その事件は起こった。


 その日は、新生徒会が発足してから数週間後の休日だった。これといって特別な日でも用事があるわけでもない、本当になにもないただの休日。

 なにもなさすぎて暇潰しのためだけに近所を散歩しだすほどに、なにもない暇な日だった。

 空高く昇るお天道様の下を当てもなくほっつき歩いて、10分だか20分だか。具体的な時間は分からないがとにかく適当に、しばらくぶらぶらと。

 団地を抜けて、田舎道を通り、橋を渡って、商店街へ。

 そうこうしているうちにいつの間にか、俺は1件のおもちゃ屋にたどり着いていた。古めかしく寂れた雰囲気が薄らと漂う、そのわりに大きさだけはそこそこありそうな店だった。

 この商店街は何度か来たことあるはずだが、それでもこのおもちゃ屋を見かけた記憶はなかった。外観からして最近出来たわけでもなさそうだが……。

 ほどなくして、理由には思い当たった。

 店自体が元々たいして人気ひとけのあるわけでもないこの商店街において、さらに埋もれるほど存在感が薄かった。というのもあるが……単純に俺が"おもちゃ屋"なる場所で扱う品物と縁がなかったのも大きいのだろう。親が、そういう物を好ましく思っていなかったのだ。

 しかし、だからこそ逆に……とでもいうべきだろうか。縁もゆかりもないはずだったその店へと、気づけば歩みを進めていた。

 そこに大した訳があるわけではない。強いて言うなら、単なる好奇心というやつだった。


 がーっと開いた自動ドアに出迎えられ、店内へと一歩足を踏み入れれば……そこは、俺にとってちょっとした未知の異世界で。

 失礼ながらもっとかび臭く雑然とした様相を想像していたのだけど、その予想は外れたようだ。

 店内も古めかしい雰囲気こそ漂わせつつも、しかし内装自体は意外なほどに綺麗で商品も見やすく整えられていて、そのおかげで俺の冷やかしも自然と捗っていた。

 俺でも名前くらいは知っているロボットアニメのプラモデル……え、このアニメ、いつの間にここまでシリーズ増えてたの?プラモデルの棚どんだけ占領してるんだ、ここまで来ると逆に怖っ。

 ジグソーパズルのコーナーなんかもあった。異国情緒溢れる風景画とか、子供向けの名作アニメのワンシーンとか。ふむ、こういうのもたまには良いかもしれないな。完成したら飾っておけるし……あ、さっきの某ロボットアニメのやつもあるのか。しかもやっぱりやたらと多い……。

 昔流行ったヨーヨーとか、モーター付きの小型自動車模型とか、ベーゴマの発展系みたいなおもちゃとか、小学生時代の懐かしき遺産もいつの間にかリメイクされていたようで。懐かしさに浸ると同時、「俺はほとんど買ってもらえなかったんだよなぁ……」と微妙に物悲しくなってしまった。今なら自力でも買えるが、しかし買ってどうしろと。

 ……不毛だからやめようこの話は、次だ次。

 そんなこんなで色々見て回っていたら、存外あっという間に時間が過ぎていて。

 そろそろ引き上げるか……そう考えつつ出口へと向かう俺は、しかし帰路の途中に設置されていた家庭用ゲーム売り場で、思わずぎょっと目を見開いた上で足もぴたりと止めてしまった。

 なぜならば……。


「あ、怪しい……」


 ぽつりと声を漏らしてしまい、我に返ると慌ててそばにあった適当な棚に隠れる。

 隠れた棚からわずかに顔を出してみれば、どうやら"奴"は俺のことには気づいていない様子で、その事実に俺はとりあえず一息ついた。

 しかし……やっぱり、怪しい。


 "奴"はさっきからずっと舐めるように、もしくは品定めでもするかのように棚に並べられたゲームをじっくりねっとりと見つめていた。

 黒のニット帽に、同じく黒いサングラス。そしてご丁寧にも裾の長い黒コートで口元から全身までを覆い隠した"奴"は、不審者という単語が擬人化された存在といっても過言ではない奇怪な雰囲気を放っていた。

 全身黒尽くめの不審者。この間『ここ最近、周辺地域で不審者が出没しているので気をつけるように』と注意喚起を促す用紙が学校で配られていたのを、よりにもよってこのタイミングで思い出してしまった。ていうか作成したの生徒会だアレ……。

 さてどうしようか。学校で注意されるような不審者が現れたとなれば、近寄らず一目散に逃げるのが筋だが……俺が逃げたあとになにかやらかした、となる可能性も捨てがたくそれはそれで後味が悪い。

 まぁまだあれが件の不審者とは限らないし……いや、あんな怪しい人間がそうそう何人もいてたまるかという話でもあるんだけど。とにかく、しばらくは尾行してなんかやらかしそうな気配を見せたら警察かどこかに連絡しよう。幸いというべきか、人の出入りは少ないから尾行して逆に俺が怪しまれる展開にはならなさそうだし。

 そう決めて、不審者(仮)を影からこっそり見守ることにした俺……だったが。


「長いっ……!」


 ソフトを手に取り、パッケージ裏を眺めるとそれを元の位置に戻して。また別のソフトに手を伸ばそうと……して、しかし誘惑を断ち切るようにしゅっと引っ込めた。フェイントか!

 俺の視界のうちで、不審者(仮)がそんなことを延々と続けて早5分ほど。そのじれったさに地味にだが、確実に俺の中で不審者(仮)に対するストレスが積もってきているのを自分自身でも感じてきていた。

 少ない小遣いを手に、どのゲームソフトを買うか悩む子供。

 そう形容するのが一番しっくり来そうな不審者(仮)の挙動に、それを見守る俺の中で「実はいうほど不審者でもないんじゃないだろうか、というかいい加減面倒だから早く帰りたい」と飽き……仏心を見せた俺と、「もし(仮)じゃなくてガチだったらどうするんだ。ていうかどっちにしろ、ここまで付き合ったんだから最後まで見届けたいだろ」と変に意固地になり始めた俺が生まれる。

 それらがせめぎあい無駄な葛藤を繰り広げることで、結果的に俺の足は地面へと縫い止められていた。


「もうどっちでもいいから早く決めてくれよ……」


 意固地が勝ったところで、不審者(仮)がようやく動いた。

 はっとして、抜けかけていた気を引き締めて、俺は不審者(仮)の動向を深く注視する。

 不審者(仮)はコートの裾に付けられているポケットから、財布を一つ取り出して開き――マジックテープ、だと……!?

 ビリビリ!と音を立てながら恥ずかしげもなくマジックテープ式の財布を開き、その中身をじっくりと確認してから……不審者(仮)は落胆したように首を落とした。

 ああ、なかったんだな金が……。

 しかしゲーム一本分だけは買えるのかすぐにきっと面を上げると、男らしくというべきか。先ほどまでの迷いを振り切るかのように勢いよくソフトを手に取った!

 ようやく買うのか!あ、いや今別のソフトを名残惜しそうに……お、ようやく振り切った!そして足早にすぐ近くのレジへと駆けていった!

 例の如くこっそりついていってみれば、特に万引きなんかに走る様子もなく、店員のお爺さんから普通に購入しているようで。

 迷いに迷った末、ついに己の決断を突き通した不審者(仮)もとい元不審者の立派な姿に感極まった俺は、今心の内にあるがままの思いを呟いた。


「うん、ものすごい――無駄な時間だったな……」


 不審者(仮)が不審者じゃなくて、ゲーム1本買うのにわざわざ10分近くかけるようなただのゲーム好きでしかなかった事実は本来安堵すべきものなはずだが、付き合わされた身としてはなんとも言えない心境である。いや事件起こして欲しかったとは言わないけどさぁ……そもそもゲーム買いに行く程度でそんなややこしい格好してくるなよ元不審者!

 なんとも気の抜ける結末に実際思いっきり気を削がれたが、奴が元不審者となった以上ここに居座る理由もない。

 ゆえに今度こそ帰ろうと、俺は隠れていた棚からなんの躊躇もなく体を出して店の出口側へと歩き出した……楽しみが抑えきれないとばかりに急いで、俺と同じく出口側へと向かう元不審者の姿にも気づかずに。

 気を削がれて、完全に油断していたせいだろう。俺が元不審者の通り道にうっかり出てしまったのだ。

 棚の影から突然現れた俺の姿に、元不審者としても驚いたのだろう。


「うわっ!」


 女性のような高い声で叫びを上げて、直後に俺たちはぶつかった。


「あたっ!」

「うぉ!」


 前者が元不審者の、後者が俺の悲鳴である。

 元不審者とぶつかり軽い衝撃だけが、そしてすぐに床に体を打ちつけたことによる重い衝撃と鈍い痛みが襲ってきて、そこで俺はようやく自分の不注意のせいで元不審者とぶつかってしまったことに気づいた。

 痛みはあれど幸い怪我はないようで、俺はすぐに上半身だけでも起こしてから謝罪をしようと――


「すみません俺の不注意のせいで! 大丈夫で――」


 言葉はそこで、途切れてしまった。なぜならば、喉を震わせることすら忘れる衝撃を……それも先ほどのように物理的ではない、精神的な衝撃を受けてしまったからだ。

 あんぐりと口を開いて固まる俺の視界の隅には、ぶつかった衝撃で元不審者から外れたらしいサングラスとニット帽、それにそいつが先ほど買ったゲームが入った袋までもが転がっていて。

 ならば視界の中央にはなにがある?言うまでもない、俺と反対方向に倒れこんでいるはずの元不審者だ。

 ……いや、もはや"元不審者"という肩書きすら相応しくないだろう。

 なぜならば俺の目に映っていた彼……もとい彼女・・の顔を、色々外れて露になったその素顔を"不審者"と定義するには、さすがに見覚えがありすぎたからだ。


「あいたたた……」


 上半身を起こしつつ彼女が痛そうに抑える後頭部には、長く立派な黒髪が生えていた。床にまで届きそうな長さのそれは例えるならば大自然を静かに流れる清らかで美しい運河か、はたまた穢れも傷もない最高級の絹糸か。

 あれだけの髪を隠していたなら、そりゃぶつかった衝撃だけで外れてもおかしくないわニット帽。なんて大よそどうでもいいことを頭の片隅でふと思った。


「す、すみませんこちらこそ――」


 こちらに顔を向けながら謝ろうとするも俺と同じく途中で言葉を失い、目を見開く彼女。その瞳は髪と同じくどこまでも透き通った美しき黒を深く、深く湛えていた。

 鼻梁の通り方もまた、達人が筆で淀みなく引いた一筋の軌跡のように繊細かつ美しく。


「な、な、な……」


 聞き覚えのありすぎる耳触りの良いソプラノボイスが、彼女の感情の震えに応じて音を鳴らしていた。

 コートの襟の隙間から覗く、小ぶりな唇がわなわなと震えている。普段はもっと鮮やかで健康的な色をしていた記憶があったけれど、今は血の気が引いているのか若干くすんで見えた。

 目、鼻、口……それらのパーツ一つ一つが、少々幼さを残しながらも大人としての色気を確かに感じさせる美しい逆三角の輪郭を持つ顔全体に、これ以上ないくらいぴったりに配置されていた。

 不審者ルックでも、褪せない美人だった。こんな場末のおもちゃ屋にいることそのものが不自然な美人だった。

 俺は彼女の名前を知っていた。彼女がどういう人物なのかもある程度は知っていた……はずだった。


 だが彼女は俺が知っている彼女では、青高みんなの憧れにして理想の生徒会長、明空陽菜ではなかった……らしい。


 余裕も気品もない焦り全開な声音で、不審者もとい不審者(仮)もとい元不審者もとい会長は、慌てて弁解を始めた。


「みっ……宮地くん!? なんでここにっ……とにかく、えっと、これは……そう! これはべつに"私"がゲームを買いに来たわけじゃなくて、"俺"の兄貴に頼まれて!」

「俺、兄貴」


 耳を疑う単語の羅列は、反射的な復唱を誘うのに十二分な破壊力を秘めていた。


「っ!?」


 俺がつい復唱してしまった単語によって、自分の口走ってしまった問題発言にようやく気づいたのか、会長は慌てて両手で口を塞ぐ素振りを見せた。

 その無駄かつ大げさなリアクションは、普段の会長ならば絶対に見られないであろう代物だった。


「「…………」」


 これ以上失言を重ねないためか両手で口を塞ぎ続ける会長と、そもそもなにを言えばいいのかが分からずただ口をぽかんと開き続けることしかできない俺。

 無言と無音が胃に悪い。いっそ誰かが来てくれればそれをきっかけに動けるのに、この店は相も変わらず人気ひとけがなくて、外からの助けには頼れそうにもなかった。

 今まで感じたことのない類の気まずさが場を支配する。なんだこれ、どうすればいいんだこれ。

 大人に気に入られる方法は知っていても、同級生と仲良くやる方法は知っていても、会長が会長じゃなかったときの対処法なんて、今の俺にはまったくもって分からなかった。

 全てが全て予想外だったわけではない。

 どこか空想じみたあの人の裏には絶対になにかがあると、たしかにそう確信してはいたけれど……。

 あまりの衝撃に固まっていた俺の頭が、まずはどうにか状況の把握だけでもしようとようやく働き始めた一方、ついに会長からこの空気を変えるアクションが――なにぃ!?


 再度の驚愕から、再び思考が停止する。

 俺の目に映ったのはジャパニーズの伝統芸能とも言える懇願スタイル"土下座"だった。


 ――みんなの憧れにして理想の生徒会長が、不審者御用達の黒コートで、場末のおもちゃ屋の地面に手を付き、DOGEZA。


 普段は生徒会長としてみんなの前に立つ際にいかんなく発揮される背筋の伸びも、今は土下座により見える背中の曲線を、より美しく際立たせる要素にしかならない。


「え、ええ……?」


 俺の口から思わず出たのは困惑の一言。いやだって、ただ純粋にわけが分からないし……。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、会長は必死な声で懇願を述べた。


「お願い宮地くん! 一生のお願いだから、俺がゲーム好きだってことは誰にも言わないで! あと元男ってことも!」


 ゲーム好きって……まぁ、たしかにゲーム一本選ぶのに5分も10分も真剣に悩んでいたし、それは分かる。分かるが……元男?

 その単語に対して俺はわずかに首を傾げ……しかし、すぐにひとつの解答に思い当たった。

 この世界ではそれなりに珍しく、しかしてわりと身近にある、そんな奇病が頭を過ぎる。


「元男って……え? もしかして会長って……『反転病』に罹った人だったんですか……?」


 反転病。ざっくりと説明すれば男女の性別が突然変わる奇病だ。つまり会長の言う"元男"というのは、そういうことで。

 これが本当ならば、さらりととんでもない秘密を聞いてしまったのではないのだろうか。

 聞き間違いの可能性を半分ぐらい疑いつつ、おそるおそる確認してみると……会長は「へ?」と間の抜けた面を貼り付けながら顔を上げて、首を傾げた。


「……あれ。もしかして、気づいてなかった?」


 そんなものが一目で分かってたまるか。


「気づくもなにも、一人称が変だなぁとは思いましたけど……ああ、そうか。元男だから"俺"だったのか……」


 言われてみればすんなり納得のいく話である。

 ……が、当の本人としては余計な情報を漏らしてしまった気持ちでいっぱいなのだろう。


「あああもう、なんで早とちりしちゃったんだろう俺の馬鹿! まだごまかせた可能性だってあったかもしれないのに……!」


 頭を抱えて額に皺を寄せて、自分の行いを悔いる会長。

 その姿を見て、先ほどまでの"醜態"とも言える会長の姿を見て……しかし俺は幻滅したわけでも後悔したわけでもなく、もっと別のベクトルの感情を抱いていた。

 ずっと気にかけていた会長の裏の顔。

 これが、本当の会長。本当の、明空陽菜の姿……。

 余裕も気品も一切ないどころか迂闊ともいえる人で、表情も目まぐるしくころころと変わり、どことなくアホっぽくって、どうもゲーム好きらしくて、男じみた言葉遣いで、ていうか元男という話で……。

 なんだろうな、これ。

 気づけば俺の口から一言、胸の内の素直な感情がぽろりと漏れ出していた。


「なんか、可愛い……」


 こんな気持ちは久しぶりだ。

 いや、もしかしたら生まれて初めてだった……のかもしれない。



   ◇



 たった4ヶ月前のことだというのに、やたらと懐かしく思えるのはなぜだろう。それだけあのエピソードがインパクト強かったとか、そういうことなんだろうか。そうなんだろうな……。

 俺は会長とモンバス3の協力プレイに勤しみながらも、脳内でようやく過去を振り返り終えて、少しだけしんみりとした感傷に浸って……いや、いうほどしんみりとしてないなこれ。

 一方携帯ゲーム機の中では、マッシブで浅黒い男キャラ二人がこれまたマッシブなドラゴン相手に重火器担いで大立ち回りを繰り広げていた。

 『モンスターバスター3』、通称『モンバス3』は、簡単に言えば荒廃した世紀末な世界観の中で異常進化したおどろおどろしいモンスターに対して、プレイヤーがやたら筋骨隆々でメリケンオーラ全開な外人たちとなって数多の重火器と共に立ち向かう、ハンティングアクションだ。

 あからさまにアクの強い、というかアクを固めて作ったようなぶっ飛んだゲームだが、一体全体どういうわけか息の長い人気シリーズだということで。

 さてそれはそうとモンバス3は自分で一から操作キャラを作れるタイプのゲームで、性別も男と女の2択式だ。リアルでは男女一人ずつだというのに、画面の中で重火器を振るうのはむさくるしいマッチョ二人。

 俺はなんとなく自分と同じ性別を選んでいただけだったが、会長の方はどうも男でプレイするのがお好みらしい。彼女いわく「やっぱメリケンなマッチョが無双するのは男の憧れだよな!」とのことで。しかしあの人今は女なんだけどそこら辺、本当に分かってるんだろうか。

 そんなモンバス3だが、とにもかくにもゲームは終盤に差し掛かっていた。

 会長が近接武器のチェーンソーや中距離用のアサルトライフルでガシガシ切り込み、俺が後ろから遠距離用のスナイパーライフルや手榴弾などの投擲武器でサポートする。

 遠近両面において偏りのない磐石の組み合わせ。そしてここしばらくの間、こうしてずっと二人で協力プレイをして培った息ぴったりなコンビネーションのおかげで、すでに敵であるドラゴンを虫の息という例えがぴったりな状態にまで追い込んでいた。

 中々に手ごわい相手だったが、ここまで来ればおそらく余裕だろう。それまで画面にのめりこみ黙々と真剣にプレイしていた会長も、一息ついて口を開いた。


「はー、やっと追い詰めたかな! ここまできたらあとはさくっと片付けるだけってな」


 この瞬間を待っていた、とばかりに会長の操作するマッチョがどこからともなく、自分の体格と同程度のサイズを誇るバズーカを取り出す。ゲームにこういうことツッコむのも野暮といえば野暮な話だが、お前それどこから取り出したとつい口を挟みたくなる巨大さだった。

 プレイヤーである会長も、獲物を仕留める猛禽類のごとき鋭い視線をゲーム内に注いでいた。

 ……先ほどまで過去を懐かしんでいたせいだろうか。ゲームにのめり込む会長の表情に、不意に俺の中であのとき感じたものと同じ感情が湧き上がってくるのを自覚した。


「そういえば、会長」

「ん?」


 俺ははばかることなくその気持ちを、ぽつりと漏らした。あのときと同じように。


「会長って、やっぱ可愛いですよね」

「なっ……!」


 会長が驚きの声を上げる。マッチョの放ったバズーカの玉があらぬ方向に飛んでいく。ドラゴンがお返しとばかりにタックルをかます。

 はたして画面の中では、会長が操るマッチョが「Nooooo!!」と劇画チックな叫びを上げて吹き飛ばされていた。

 しかし会長マッチョはギリギリ生き残ったらしい。地面に叩きつけられてからほどなくして、軽くよろけながらもなんとか起き上がってきた。

 「ふぅ……」と安堵の息を吐いてから、会長が俺を叱る。


「いきなり変なこと言うな! 大体、可愛いは止めろって何度も言ってるだろ!」


 ゲームを気にかけながらも横目でちらりと会長を窺えば、彼女はゲームから目線を外してこそいないものの、むすっとご機嫌斜めな表情をしているのが見えた。


「すみません、つい。会長の"素"を知ったときのことを思い出して……」


 俺がゲームに視線を戻しつつ正直に謝れば、会長も懐かしさから怒りを抑えてしみじみと……。


「ああもう4ヶ月も前だっけ……そういえば、お前あのときもいきなり可愛いって……そうだよそのときから止めろって言ってたじゃん!」


 あ、再燃した。

 そうそう、当時も「可愛い」って呟いたら耳聡く聞かれて怒られたんだ。

 当然のように覚えているが、あえて俺はすっとぼけてみせた。


「そうでしたっけ?」

「そうだよ! まったく、宮地が変なこと言うからせっかく良いところだったのに……よし、なんとか回復できた! ここから巻き返すぞ!」


 懐から取り出した回復薬で傷を癒した会長マッチョが再びドラゴンへと突貫する。

 俺も自分のマッチョをサポートへ向かわせつつ、ふと沸いたちょっとした疑問を会長にぶつけてみた。


「うっす。でもなんでそんないやなんですか、褒めてるのに」

「じゃあ逆に聞くけど、お前かわいいって言われて嬉しいか? それも男に」

「まぁ、普通にぞっとしますね」


 その手の人にどうこう言うつもりもないが、とりあえず俺にそういう趣味はない。


「ほらぁ、それと同じだよ。俺だって男だったんだし、やっぱ可愛いって言われてもこう、背筋がぞわぞわーって。あ、でも美しいとか麗しの生徒会長とか、そういうのはアリだな。そういうとこ目指してやってるわけだし生徒会長」


 ゲームに集中しながらそう説明をする会長。可愛いは駄目だけど美しいならありなのか。複雑な乙女心、と言ってもいいのかこれは?

 しかしまぁ、「ぞわぞわー」って。言葉のチョイスとかニュアンスが……なんというか。


「……やっぱ、かわいいですよね」

「だから止めろって! あ、痛っ。くっそまた回復しないと……」


 再びダメージを喰らったマッチョに会長がぼやいた直後――唐突に生徒会室のドアからコンコンと、軽いノックの音が響いた。


「「――!」」


 それは無音にして機敏。

 まずはゲーム機の電源ボタンを一瞬だけ触る。それによりスリープモード……つまり一時的に電源を落としてはあるが、また電源をつければすぐにゲームを立ち上げられる、一種の省電力モードとなったゲーム機をすかさず自分の学生鞄に放り込んでから、代わりにそれっぽい書類を机に置いておく。

 俺たち二人はそれら一連の動作を合図の一つすらなくほぼ同時に、かつ淀みなく手慣れた手つきで行った。

 そして会長が「はーい、入っていいよー」と先ほどまでとは別人じみた、穏やかな声音で呼べば、すぐにドアが開いて一人の生徒を出迎えた。

 部活の途中だろうか。体操着姿の男子生徒が俺たち二人を見て、ほっとしたかのような表情を見せた。


「ああ良かった会長たちいた……」


 体操着の彼はわずかな安堵の後、すぐに尋ねてきた。


「すみません、少し文化祭のことで相談があって……」

「うん、なにかな。私でよければ話してみて?」


 鍛えられた顔面表情筋から放たれる、会長スマイル。その微笑みは先生生徒優等生不良関係なく見た者の心を絆すと言われているが、その中身を知っている自分としてはただ単純に胡散臭いことこの上ない。

 しかしそんな事情を知る由もないただの男子生徒が、そのスマイルの効力に耐えられるわけもなく。


「はっ、はい!」


 案の定魅了されたようで若干上ずった声を上げたあと、目に見えて全身を緊張に包みその身を強張らせながら、たどたどしく話を始めた。

 そうしてしばらく。

 さすが会長と言うべきか、話はあっさりと上手くまとまった。そのおかげか……いや、どちらかと言えば会長と話せたことが大きいのだろう。

 やたら晴れやかな笑顔で帰っていく男子生徒を見送って、再び室内が二人きりになった途端。先ほどまで慈愛の微笑みを絶やさなかった会長の顔が、へにゃりと弛緩した。


「はぁー、びっくりしたぁ」


 しかし安堵の表情は、次の瞬間にはむすっと不満そうなものへと変わっていた。素の会長は、本当に喜怒哀楽が顔に出やすい。


「まったく……ああいう相談はもっと早くに来いってんだ。心構えってやつがなっちゃいないんだから……」


 なんてぼやく会長に、俺はちょっとした感心から口を開いた。


「相変わらずすごいですよね。その『会長モード』との切り替え方」

「だろ? 日ごろの成果ってやつさ」


 会長モード。

 それは会長……明空陽菜の"生徒会長としての顔"を表す用語だ。

 ちなみに命名者は俺。"生徒会長としての顔"に分かりやすい言い方がなかったために10秒で考え付いた用語だったが、「なんか、かっこいいから良し!」と当人からもお墨付きを貰い、今ではすっかり会長公認の用語となっていた。

 それはそうと、俺の言葉に対して会長は気を良くしたのか自慢げに説明を始めた。


「まぁあれだ……ノベルゲームで最適な選択肢を選ぶこと然り、シミュレーションRPGで隠しフラグを建てること然り。いつだって自分の意思とは異なる選択をしなきゃいけない場面は多々あるし、会長モードもちょっとしたゲームみたいなものだと思えばこれぐらいってな。そう考えるとやっぱゲームは偉大だな!」


 とんだ前向きなゲーム脳である。

 しかし軽く言ってはいるものの現実世界で"理想の生徒会長"を演じる労力なんて、それこそそこら辺のゲームとは比べ物にならないほどに大変なはずだが……。

 内心で勘ぐる俺を余所に、会長はゲーム機を鞄から取り出して、その電源を復帰させた。


「そういえばさっきのドラゴン……あっ、通信切れてる……スリープにしたからしゃあないんだけど。でもゲーム状況自体は引き継がれてるとはいえこっからは一人だし、正直めんどくさいんだよなぁ。バズーカ外しちゃってるのと回復薬の消費が地味に痛い……」


 ゲーム画面を見てがっくしと首を落とす彼女は、先ほどまで一人の無垢な男子を魅了していた生徒会長とは思えなくて、そういう姿が視界に入るたび「可愛い」と、わけもなく思えてしまう。

 でもだからこそやはり、本来はこんな表情豊かな人が自分を押し殺してまで生徒会長を続ける理由が浮かび上がらない。

 前々からずっと感じていた疑問。気づけばそれが、そのまま言葉として口から出てきていた。


「……前々から思っていたんですけど、会長って」

「しゃあない、もう一回通信を……ん、どした?」


 俺の言葉に反応して、きょとんと首を傾げてくる会長。

 その仕草に俺ははたと自分が言いかけたことに気づいて、言葉を詰まらせてしまった。

 こう言ってはなんだが、俺は人との距離感には敏感なつもりだ。他人とは絶対に一定以上の"距離"を空けて、逆に極力他人からも踏み込まれることがないように気をつけて、当たり障りのない日々を過ごしてきた。それが一番、平穏に暮らせる方法だから。

 しかしこの人といると、どうもそこら辺が鈍くなってくる。つい、距離を詰めてしまう。


「……」


 この疑問をそのままぶつけてしまっていいのか。逡巡する俺の気持ちを知ってか知らずか、会長は気さくに笑いかけて言葉の続きを促してきた。


「ん? いいんだぞ遠慮しなくて。俺とお前の仲じゃないか、ってな」


 一体、どういう仲だと思っているのやら。

 しかしまぁ……いいか。たまにはそういうのも。

 会長の無邪気な笑顔を見ていると、自分の中のなにかが緩くなって絆されてしまう。俺にとっては、同じ笑顔でも作り物の会長スマイルなんかよりよっぽど効果的面だった。


「じゃあ遠慮なく聞かせてもらいますけど……会長って、どうしてそんなに"理想の生徒会長"でいることに拘ってるんですか? 俺の見る限り……というか、おそらく学校内じゃ俺と二人きりでもない限り、ずっと会長モードですよね。あまりこういうこと言うのもなんですけど……そこまで無理する理由なんて、あるのかなって……」


 俺が紡いだ疑問の言葉に返ってきたのは、同じ言葉ではなくひとつの行動。目を見開いて、その瞳に驚きの感情を映し出す会長の姿だった。

 やってしまったかもしれない。思うが早く咄嗟に、取り消す言葉が口をついで出た。


「いや、すみません。大したことじゃないんで、忘れてください」


 俺がそう言えば、会長はすぐに顔から驚きを消した。

 苦笑なのか、ただ笑っているだけなのか。やや読み取りづらい、どことなく影を感じる笑いを浮かべながら、会長が口を開いた。


「……いや、うん。いいよ、ちょっと驚いただけだから。そっか、そういえば宮地には話してなかったな……うん、せっかくだし一度話しておくか」


 会長はそう言うと、座ったまま軽く椅子を動かして俺とわずかに距離を取る。

 そして机に方肘だけをつくと、どこか遠いところを見つめるように目を細めて、語りだした。

 誰もが憧れる理想の生徒会長ともただのゲーム好きの少女とも違う、もうひとつの明空陽菜を、俺はその表情から垣間見た気がした。


「嫌だった、俺を取り巻く"世界"ってやつが」


 どことなく気取ったような、もしくは詩的ともいえる出だしから始まった、会長の過去語り。

 俺はただ静かに耳を傾けて、次の言葉を待つ。


「……」


 次の言葉を……。


「「……」」


 ……あれ。


「ちょっと会長、早く続き話してくださいよ」

「いやいやお前こそツッコミのひとつくらいいれろよ! わざわざ中二臭いボケで場を和ませようとしたってのにさぁー、拾われないとただただ恥ずかしいだけじゃんか!」

「じゃあボケと分かる軽い雰囲気出してくださいよ。ところで中二ってなんですか?」

「あれ、通じない? マジかぁ……ま、いいや。とにかくだな……べつにそんな重たい話でもないんだ、本当に。だからといって、まんまホラ吹いたわけでもないんだけどさ」

「……」


 やはり、どうにも軽口を挟むのはためらわれた。

 押し黙る俺にこれ以上の問答は無用と判断したのか、会長も話を本筋に戻した。


「……この世界じゃよくある話だ」


 そんな前置きから、今度こそ会長の過去語りが始まった。


「俺が反転病に罹って性別が変わった元男だ……ってのは、もう宮地も知ってのとおりだけどさ。それがいつかってのは、たしかまだ言ってなかったよな」

「そういえば、そうですね」


 少なくとも1年生のときから、会長とは生徒会役員同士としての繋がりがあった。

 そのときはすでに女性だったし、会長が元男だという秘密を知る人間も、この学校では俺以外いないはず。

 つまり中学か、それより前に会長は……明空陽菜は、"彼"から"彼女"になったわけだが。

 なんにせよ続きを聞けば分かる。俺は黙して続きを待ち、ほどなくして会長も語りを再会した。


「プラマイ数ヶ月程度の開きはあるが……まぁ大体2年前だ。とにかく俺は中学3年生のときに反転病に罹った、つまり今の性別に……この体になった」

「中学3年……」


 これでひとつ、疑問が解けたが……しかしそれと同時に新しい疑問が差し込まれた。

 俺はこの青高のある地区で育ち、小中高ともにこの地区で過ごした。

 反転病にかかり性別が変わった人間も度々見たことがあるし、人づてに聞いたことも然り。

 だから珍しいとはいえそれなりにありふれた事象ではあったし、たとえば会長が小学生のときに反転病に罹っていたのだとしたら、時間と共にその事実が周りの記憶から薄れてもなんら不思議ではない。

 しかし会長が罹ったのは中学3年の頃、たったの2年前だ。

 もし会長がこの地区もしくは青高に通えるような近場に元々住んでいる人間だったのならば、元々注目の的みたいな人だ。噂のひとつも立たない方がおかしいというものだろう。

 そうなると……。


「もしかして会長って、ここら辺の中学校出身じゃないんですか?」

「お、いいところに気がついたな。そのとーり、俺はこっから結構離れた……それこそ県単位で遠いところで、中学卒業までは過ごしてたんだ」


 やはり。

 しかしそうなると芋づる式に「じゃあなぜこの青高に来たのか」と勘ぐってしまうのが人の性。

 俺は少しだけ思案して――すぐに息を飲んでしまった。


 差別、虐め、転校……。

 嫌な想像が、意識せずとも連想ゲームのように脳裏に浮かびあがってしまう。

 反転病が世に現れてから40年だか50年だか。この世界でその存在は、それなりに緩く受け入れられている。法整備だって整えられているし、差別なんてナンセンスなものだとも認知されている。

 だけど……だからといってこの世界の全員が全員、そこまでなんの抵抗もなく受け入れられるほど、反転病は"当たり前の存在"ではなかった。

 少なくともここら辺では見たことがない。だからあくまでも聞いた話でしかないものの……反転病に罹り性別が変わった人間に対する虐めや差別がまったくない、とはいえないのもひとつの事実だった。

 ないところにはないが、あるところにはある。そういうものだった。

 もし会長も、そういうのが"ある"側に属していたとしたら……。

 そんな不穏な妄想を張り巡らせているうちに、それはどうやら面に現れていたらしい。

 会長が人差し指で頬を掻いて苦笑しながら、俺の考えを読み取り否定した。


「あー、なんか色々考えてくれてるみたいだけど、そこまで重い話って言ってるだろ? たしかにこのご時勢でも、なんていうか、"そういうの"はどうしても無くならないところもあるけどさ……ただ俺のところは学校自体が、地域自体が多少なりとも理解はあった。それに俺が通ってたのは私立のちょっとばかし上等な進学校でさ。俺はともかく周りのみんなは賢かったし、3年生だったから。受験対策で忙しくて他人にあんまし構っていられないってのもあったんだろうよ。お前が考えそうなことはなにもなかった。ま、そういう意味じゃくじ運自体は悪くなかったんだ」


 その話を聞いて、俺はほっと一息ついた。

 だがその認識は愚かな間違いだったと、続く言葉ですぐに知ることとなる。


「そ、なにもなかった。本当に――なにもない。ただずっと、遠巻きに視線を送られ続けるだけだった」


 一瞬、言葉の意味が分からなかった。一際寂しげにそう言った会長の、その表情の意味が分からなかった。

 なんでそこまで寂しそうにするのか、感傷的になるのか。ただ"なにもなかった"というだけで――


「っ……!」


 気づいた。気づいて再び、息を飲んだ。

 なにもなかった。

 その現実を、会長が……本当は明るく人懐っこい性格である明空陽菜が、どういう目で見ていたのか。

 かける言葉が見つからない。

 俺の沈黙が、会長に続きを……おそらく、彼女の"傷"とも言えるであろう過去を語らせる。語らせてしまう。


「男子も女子も関係なく、腫れ物に触るように……いや、みんな賢かったからさ、どっちかって言えば腫れ物に触るとろくでもないことになるのが分かってるから、触らずやりすごそうとするって言った方が正しいのかな。とにかく友達だったやつらもそうじゃないやつらも、みんな俺と関わろうとしなくなったし、先生たちにとっても扱いが難しかったんだろうな。なんとなく『距離を置けば問題にはならないだろう』くらいの感じでさ。そんな感じでずーっと、卒業まで過ごしてた」


 「な? 本当になにもない、平和な話だ」なんて会長はおどけて締めくくったけれど……話を聞いている身としては、ぞっとしない気分だ。

 俺ならば、と思う。

 俺ならば、それでもいい。だって人自体が大して好きじゃないからだ。人当たりを良くしているのは、そう立ち回るのが自分にとって一番楽だから。干渉されないのならばむしろ歓迎するまである。

 だけど会長は違う。俺みたいなロクデナシとは間逆、この人は他人と関わりたがる側の人間だ。会長モードのときはいざ知らず、少なくとも俺と二人きりでいるときの会長は嬉しいときに笑い、悔しいときには怒れる人だ。ゲームに夢中なときの彼女は正しく百面相と言ってもいいだろう。

 その会長が誰からも不干渉を貫かれる……それがどんなに辛いのか、人嫌いの猫被りである自分なんかには想像すらおぼつかない。

 ただ、足がかりだけならあった。今日のようにモンバス3の協力プレイに勤しんでいたとき、会長とした他愛もない会話。

 いつ話したかすらはっきりとは覚えていないが、それでも不思議と印象に残っていた一幕だった。


『やっぱいいよなー、こういうの』

『どうしたんすかいきなり』

『いやさ、やり込み要素はゲームの華。一人で黙々とやり込む時間も乙なものだとは思うけど……でもやっぱ、こうして協力したり、あと対戦とかしてわいわい騒いでるときが俺は一番楽しいなって。初対面のやつとでも、得手不得手がばらばらでも絶対に一緒に楽しめるゲームが一本はある。そういうところに浪漫を感じるっていうかさぁ』

『はぁ、そういうもんですか』

『む、なんだよー楽しくないのかお前』

『いや、まぁそれなりには楽しいんじゃないですかね』

『適当だなおい』

『ま、ゲームなんて会長に誘われるまでほとんど無縁だったトーシロですから』

『んじゃあれだ、俺がもっとゲーム自体の楽しさとか協力プレイの熱さとか、色々教えなきゃな!』

『……それって、もしかしなくてもゲームクリアのための戦力が欲しいとかそういう』

『……そーとも言わない、こともない』

『おい』


 誰かと一緒に遊べる時間が大好きだと、あのとき目を輝かせて語っていた会長。

 彼女はゲームが好きなだけではない。その楽しみを誰かと共有するのも、本当に大好きなんだ。

 だからこそ、分からない。会長モードなんてものに拘る理由が。

 心が直接口と繋がってしまったかのように、俺の中にある疑問が、感情が言葉として形を成していく。


「だったら……だったらなんでなおさら、あんたは会長モードなんて仮面を被ってる。あんたの秘密を知ってから、俺たちは何度も今みたいにお互い仮面を外して、二人でゲームを楽しんでいた。そう、何度だってそうしてきたから俺はあんたの"素"をいくらか知っているつもりだ」


 声をむやみに荒げることこそしなかったが、言葉遣いに関してはあまり丁寧さを保てそうにもなかった。


「あんたは少なくとも、俺みたいになんでもかんでも適当にやり過ごそうっていう人間じゃない。会長モードはたしかにあんたの仮面にはなっているけど、生徒を思いやろうって、学校を良くしたいって思うあんたの気持ち自体は本物だって、俺は思っている」


 会長モードでも、そうでなくともいつだって生徒会の仕事には真摯に取り組んでいることを、俺は知っていた。

 今日だってゲームに勤しんでいるのは期限内に自分たちの仕事を終えられる見積もりがあってこそだし、公私混同して仕事をサボったりも絶対にしない。この時間は、俺たち二人の秘密はあくまでも、仕事の合間を縫って成り立っているものだ。

 そうだ、会長は俺なんかとは違う。この人は本来、猫を被る必要なんてどこにもないはずなんだ。能力も、意思も。生徒会長に必要なものは全て揃っている、そのはずなのに……。


「今までの仕事ぶりを見れば分かる。能力も、意思も不足どころか余りあるほどあんたは優秀だ。だったらそんなつまらない仮面を被らなくても、それこそたとえ元男だってことがばれたって誰かに嫌われるとも到底思えない。その気になれば友人だっていくらでもできるだろうし、大好きなゲームだって一緒に――」

「違うんだ」


 その否定の一言が、俺の言葉を、そして駄々漏れになっていた感情すらも塞き止めた。

 拒絶されたことによる無力感に歯を噛むと、それを見た会長が「ごめん」と頭に置いてから語り始めた。


「宮地の言ってることは間違いじゃないかもしれない。この学校はそういうところ、ほんとにおおらかだから。それを知っていたからこそ俺はここを選んだってのもある。だけどさ……これはきっと、俺の問題なんだ。ここまで長々と前フリ喋ってきたけどさ、まだ言ってなかったよな。俺が会長モードなんて仮面を被ってまで、今の立場に拘る理由」

「あ、そういえば……」


 すっかり会長の過去話に主軸が寄っていたが、きっかけは俺のその質問だった。そんなことすら忘れていたほどに、俺はこの話にのめりこんでいたということか。

 会長が、話を続ける。


「さっきも言っただろ? ゲームで最適な選択肢を選ぶようなもんだって。この会長モードが、俺にとってのそれだった。"なにもない平穏な日々"に暇を持て余してるときさ、ずっと考えてたんだ。『高校は、もっと楽しく過ごしたいなぁ』って。それがいつからか『高校を、楽しく過ごせるようになんとかしたい』に変わってて。んで、ある日思い立ったわけだ。『どーせイチから余所でやり直すんなら、俺が高校生活を楽しく過ごせるよう変えてやる』ってな。これが生徒会長に拘る理由」

「……そういう前向きさは、なんていうか会長らしいですよね」


 もし俺だったら……俺だったらきっと、その時点で腐っていた。現状を変えよう、なんて思いつきすらしなかった。

 しかし会長は、俺の評価をすぐに「過大評価だよ」と笑ってまた否定してきた。


「高校生活に全賭けしていた時点で、残り1年なかったとはいえ中学生活諦めたも当然の発想だぜ? さっきから宮地は俺のこと買いかぶりすぎなんだって、"俺"は……そんな、すごい人間じゃないよ。ほんと」


 過大評価、買いかぶりすぎ。

 意見の相違を表すその言葉が、俺の胸に重くのしかかった。

 俺は俺が思っていたほど、この人のことを知らない。本来当たり前ともいえるその事実を、今更ながら否応無しに思い知らされた。


「女に変わってから中学を卒業するまでの間にきっと"俺"は、うちのめされちゃったんだ。少なくとも……そっから逃げだした程度には。俺さ、今はこっちに住んでる兄貴の家に転がり込んでるんだ。それで高校入学前にも兄貴も巻き込んで、高校でなんかできないかなーって二人で考えたりもして。そうやって思いついたのがお前の言う『会長モード』……頭が良くて、頼りにもなって、しかも美人。みんなから尊敬される理想の生徒会長の"私"なんだ。言っただろ? 会長モードはちょっとしたゲームみたいなもんだって。"俺"が"私"を操作しているんだよ、生徒会長っぽく動けーって」


 現実にうちのめされて、逃げ出して。それでもどうにか前向きにやっていくために生み出された、会長の仮面……会長風に言えばプレイヤーキャラクター、だろうか。

 俺は会長モードのことを一種の"猫被り"と評していたが、真実はそんな生易しい物じゃなかった。きっと彼女にとっては、その選択肢が最後の拠り所だったんだ。

 会長はからかうように、もしくは雰囲気を和らげるためか、俺と二人きりだというのにあえて仮面を被り締めくくってみせた。


「これが、会長モードの理由。これであなたの疑問には大体答えられたかな? 宮地くん」


 たおやかな微笑みに漂う気品。本当に、切り替えが早い……反吐のひとつも、吐きたくなるほどに。

 確かに疑問には全て答えてもらった。ここで会長に便乗して重苦しい雰囲気を捨て去り、和やかにモンバス3を再開するのも言ってみればひとつの選択肢というやつだ。なによりも楽しくゲームをするのが好きな会長は、きっとそれを望んでいる。

 だけど……それでも俺は、"もうひとつの選択肢"を選ばざるをえなかった。

 会長の過去を知る中で生まれた選択肢、これだけは……どうしても捨て去れなかった。


「そうですね……でも会長、ひとつだけ。あとひとつだけ、いいですか?」

「ん、なにかな?」


 その上品に小首を傾げる仕草が、会長が演じる"私"のひとつひとつが、今は俺の心をささくれ立たせる。

 俺の中に残っていた躊躇をその苛立ちで押し流して、俺は俺の選択肢を、彼女に突きつけた。


「会長は――学校、楽しいですか?」

「――っ」


 それを言い終えたとき、俺の視界に映る会長からはすでに仮面が外れていた。

 息を飲み、目を見開く彼女の仕草に「当たり前だよな」と思う。同時に「馬鹿な質問をした」とも思う。

 会長といると、やはり"距離"が曖昧になる。自分の立ち位置すら見失ってしまう。

 それでも、たとえ会長の傷に踏み込むことになってでも、俺は知りたかった。俺の知らない会長の真意を。

 会長は静かに目を閉じ、逡巡を始めた。

 このあとは、過去を語るときと同じく影のある笑みを見せるのか、それとも本気で嫌な顔をするのか。

 想像はつかないが、どのみち碌な結果にはならないのかなと、今更ながらに後悔し始めた俺。

 ほどなくして会長の目が開こうとする。今度は俺が、息を飲む番だった。


 俺の喉がごくりと音を立てた。


 会長の目が開き、そして細められた。


 口が弧の形を描いた。


 その弧が開き、白く綺麗な歯が覗いた。


 ひとつひとつの動作がやけに緩慢に感じられる中、俺の感情だけが目まぐるしい混乱を見せていた。

 悪い想像だけしか浮かべていなかったから、会長は傷つくだろうと勝手に思い込んでいたから。だから、その表情は完全なる想定外だったのだ。



 ――彼女は淑やかな外観とは裏腹に、無駄に明るく騒がしかった。

 なんでもかんでもゲームに例えるくらいにゲームが好きで、その楽しみを誰かと共有するのも大好きだった。

 本当の彼女には余裕も気品も全然ないけど、それでも寄せられた期待と果たすべき責任を受け止めきれる器があった。

 それら全てと一緒に心の傷を仮面で覆い、はたして誰も彼女の"本当"を知ることのなくなったこの学校の中で。



「――楽しいに、決まってるだろ?」



 それでも彼女は、明空陽菜は、心の底からの笑顔でそう言ってのけた。



 不謹慎かもしれないが、ほんの一瞬だけなにもかもを忘れて見入ってしまった。

 一拍遅れてから、思わずぽつりと言葉が漏れた。


「なんで……」


 笑顔の意味が分からなかった、笑える理由が分からなかった。


「本当のあなたを隠してまで、自分の意思を殺してまで……それなのに、どうして……」


 上手く言葉がまとまらず、拙い問い方しか出来ないのは、それほどの衝撃を受けたという証左なのだろうか。

 しかしそんな俺の問いでも会長はしっかり読み取り……そしてそっと、首を横に振った。


「殺してなんていないよ。"私"も、"俺"の一部だから」


 はっきりと、否定の意を表す。今日三度目の否定、人の心をここまで読み違えたのは多分、初めてだった。

 続いて愛おしそうに、大事な物を抱えるように、会長は優しく言葉を紡いだ。


「そりゃ本音我慢するのが辛くないって言ったら嘘だけど……それ以上に、俺の手で高校と関わっていける今が楽しいのもほんとの話だよ。最初は俺自身が楽しく過ごすためにそうしたいって思っていて、そういう意味じゃ"俺"を隠している今はちょっとだけ目的がずれてるかもだけど……でも、やっぱりみんな笑ってる方が楽しいじゃん。ここはさ、俺と同じく性別の変わった生徒も、それでもここに残っている生徒もわりといるみたいだし……そんな人たちも含めて、みんなが俺の仕事で笑顔になってくれているって、そういうのを実感として手に出来る今が嫌だなんて、俺には思えないかな」


 紡ぎきってから、人差し指で頬を掻いて少し恥ずかしそうな表情を見せた。

 ああ、そうか。

 『学校が楽しいか』だなんて、愚問でしかなかったんだ。

 この人は自分の夢と、思いと向き合って進むべき道を見出していた。だからこそ、会長モードという仮面を被ってでもここにしがみついている。

 きっと俺は心の中で会長は俺と"同類"なんだと、今までずっと思い違いをしていたんだ。

 だからあんな愚問を投げてしまった。俺がずっと感じていた閉塞感ともいえるそれを、押し付けようとしてしまった。

 だからこそ、「学校が楽しい」と笑顔で答える会長の姿が眩しすぎて、その光に押されるように俺の腹から喉へと弱音がせり上がってきてしまった。

 押されて押されて、とうとう押し出されてしまった。


「会長は……俺なんかとは、違うんですね」

「え、そうか? 俺的には結構似た者同士だって思ってたんだけど」


 早い。

 ものすごい素のトーンで、ごく当たり前のことを言うように、予想だにしなかった返答が即座に返ってきた。

 そんな剛速球を上手くキャッチ出来るわけもなく、俺はつい素っ頓狂な声を上げてしまった。


「え?」

「え?」


 おいなんかオウム返しできたぞ。


「「……」」


 ううん、なんだこの微妙が極まったような空気。俺か、俺が悪いのか?

 とにもかくにもこの会長サマ、俺が今まで散々人嫌いのロクデナシであることを話してきたというのに、なにか勘違いをしているようで。


「あのですね会長、俺はあんたと違って成り行きで副会長になっただけで、基本真面目な人間じゃないですから。そこら辺分かってます?」

「でもなんだかんだで副会長の仕事、真面目にやってるじゃん」

「いやだからそれはあくまでも体裁を保つためで……」

「でも真面目にやってるじゃん」

「んんんんん」


 なんだこの頑なさ!

 どうにも話が通じなくて、頭を抱えたくなる。一体全体なにが言いたいんだこの人は。

 軋轢を起こさないため、平穏に過ごすため。人の心を読むことにはわりと自信があるはずだったのだが、会長相手だとその感覚がどうにも鈍ってしまう。この人の素だって知っているはずなのに、なんなんだろうこれは。

 眉をひそめてその皺を指でつまみ、目蓋をきゅっと閉じて真剣に考えてみるも、なにも分からないことだけしか分からなくて。


「もう、なんなんですか会長……」


 結局投げやりに会長に問いかけながら目蓋を開ければ、視界の先では……なぜか会長がにへら、と妙な笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「ちっ」

「人の顔見た途端舌打ちすんの止めようぜ、地味に傷つく」

「こっちが真剣に悩んでるのに相手が笑顔なのを見たら舌のひとつも鳴らしたくなるんですよ、俺性格良くないんで」

「性格が良くない、ね。へー、はー、ふーん」

「なんですか、なんなんですかマジで」


 笑みが深まり『にへら』から『ニヤニヤ』というオノマトペが似合いそうな胡散臭い物へと変わった。うざい、とりあえずうざい。

 苛立ち混じりに視線をぶつけると、会長が胡散臭い笑顔のまま言葉を返してきた。


「いやさ。人間、意外と自分で自分のこと分かってないなーって思って」

「は?」


 やはりこの人、意味が分からない。

 俺以上に俺を知る人間なんているはずがない。

 ずっとそう思って生きてきたし、実際周りの人間も俺の表面しか見てこなかった。親ですら俺の"素"はほとんど知らないだろう。

 そう、だから俺のことは俺しか……でもちょっと待て、会長とはこうして"素"で話してるし……いやでもそれはそれ、これはこれ……なのか?

 また悶々と悩み始めた俺の耳に、若干呆れたような感情を含んだ会長の声が届く。


「だからさぁ、簡単な話じゃん。本当に宮地が、普段自称してるような人嫌いでイヤなやつなら、もっとらしく・・・立ち回ることも、それこそ嫌いな人様の目なんて気にせず好き勝手することだって出来たはずだろう? 少なくともお前にはそれだけの能力があるんだから」

「いや、だから俺は……」

「周りと面倒事を起こさないため、だろ? じゃあそれだけのために周りからの期待に応えて、生徒会の副会長やってるのか? 俺は宮地が副会長やってくれて良かったと思ってるよ。みんなの前で真面目なのは猫被りだから当たり前っちゃ当たり前かもだけど……でも二人きりのときだって、ぶつくさと面倒言いながらもなんだかんだで俺の補佐はきっちり付き合ってくれている。結構無茶ぶりもしてるつもりだけど、お前はいつだってそれに応えてくれてる。その全部がただの嘘っぱちだなんて俺は思いたくないんだけど……それは、俺の買いかぶりすぎなのか?」

「っ……」

 

 先ほどまでのうざい笑みとはうって変わった、真っ直ぐな問いと表情。そして視線をぶつけられて、言葉に詰まってしまった。

 穢れない輝きを宿す黒い瞳が俺の中を見透かすように、俺自身でも掴めないほどの深部を覗き込んでくるようにじっと見つめて答えを待つ。

 実のところ、俺にはその答えがほとんど分かっていた。あとは曖昧なそれを、言葉という輪郭をもって形にするだけだった。

 今こうして問いかけられ、向き合わされる前からずっと、心のどこかで気づいていながら目を逸らしていたそれを……。

 だけど俺はその曖昧な答えに輪郭を作るのがどうしようもなく嫌だった。それを形にしてしまえば、認めてしまえば"人嫌い"という俺のアイデンティティのひとつにヒビが入りそうで怖かった、のかもしれない。

 はたして俺が絞り出せたのは、


「それは、会長がいたから……」


 情けなさ半端ない、気弱な一言だけだった。


「お、そりゃ嬉しい誤算だ」


 またにへらと笑って、しかし「だけど」と付け足してから言葉を続ける。


「俺たちがこうして会長副会長コンビとして組む前だって、宮地は飛びぬけて優秀なやつで生徒会でも一目置かれてただろ? だからこそみんなはお前に期待してくれていたわけだし、そのときから……いや、その前からずっとお前は周りの期待に応え続けてきた」

「それは……」

「お前は多分、お前が思っている以上にお人よしなんだ。みんなの期待に応えなきゃって、そう思える程度には……さ」

「……」


 反論は、出来なかった。思い当たる節がないなんて、言えなかった。


「それにどっちかって言うと"人が嫌い"ってよりかは"人が怖い"ように、俺は見えるよ。俺とおんなじ、周りの目を信じきれていないからつらの皮1枚隔てないと他人と接することも難しい。だから余計、期待に応えなきゃってなるのかもな」


 自分の中身を暴かれる感覚は、正直気持ちの良いものじゃないな。

 そう感じる程度には図星を突かれていて、自分がいかに自分から目を逸らしていたのかを思い知らされる。

 しかし腹の底である種の不快感が渦を巻くのと同時に、「この人になら暴かれても良いか」と思う自分が心の片隅には確かにあって。

 どうしようもなく山かなにかに向かって思い切り叫びたいが、実際叫ぶには微妙にボルテージが足りないというか。そんなもどかしさを持て余し始めた俺を余所に、会長は空気を変えるようにパンッと手を叩き音を立ててから言った。


「ま、でもやっぱお前は人嫌いのロクデナシなんだろうな!」

「はぁ!?」


 人を散々ヤキモキさせておいて、それ纏めてひっくり返すかこの人は!

 さっきまで渦巻いていたごちゃごちゃしたものを全部忘れて、驚愕一色に染まってしまった俺。そのリアクションを見て、会長は満足そうな顔をした。


「へへへ、こういうのってあまり簡単にはっきりさせるもんじゃないんだよきっと。会長モードが俺の一部であるように、宮地も宮地自身の知ってる宮地と、そうじゃない宮地がいるんだよ。だからあんま思いつめる必要も、『自分はこうだ』って意固地になることだってないんだ。焦らなくてもいつか答えのひとつやふたつ見つかるって! はい、というわけでこの話は終わり! あんま暗いことばっか話してるとほんとに暗くなっちゃうし、雰囲気的にもそうだけど時間的な意味でもな。時間は有限、今日中に集めときたい素材があるんだよ!」


 自分の台詞に照れでも感じているのか、それとも単純にさっさとゲームをしたいのか、とにかく会長は早口でそう言いきってからゲーム機を手に取った。

 ああ、もう。まだこちとら色々整理しきれていないというのに。

 とはいえ何度もぶり返したい話でもないし、会長がゲームをしたいというならば付き合わない選択肢が俺にはない。強制イベントのようなものだ。

 仕方なく、机の上の鞄から再びゲーム機を取り出そうとした俺が聞いたのは「宮地」と短く名を呼ぶソプラノボイス。無論、会長のものだった。


「最後にひとつだけ。さっきまでお前に色々えらそうなこと言ってたけどさ、俺も……お前と似た者同士だから。おんなじように、悩んでたことがあったんだ」


 鞄を漁る俺の手が止まる。会長の話が続く。


「そのときの俺は、誰にも素の俺を見せることが出来なくて。俺が頑張って周りは笑顔になって、それは嬉しかったけど……同時にその輪にいるのは"私"であって"俺"じゃないって現実を思い知らされるのは、正直言うと結構キツかったんだ」


 俺はただ、その話に耳を傾け続ける。


「だけどそんなときにお前に秘密を知られてさ、こうして素の俺でいられる時間も出来て」


 聞こえてくる声音が、少しだけ柔らかくなった気がした。


「俺が"私"を、本当の意味で自分だって受け入れられるようになったのは、きっとそれからだ。だからずっと、これだけは言っておきたかった」


 鞄に向けていた視線を会長に向けると……彼女は照れくさそうに頬を朱に染めた、どうしようもなく"可愛い"笑顔ではにかんでいて。


「――あのとき、俺の秘密を知られたのが……ううん、知ってくれたのがお前で良かったよ。今までありがとな、宮地」


 許されるならば、いつまでも見惚れていたいその笑顔。

 だが俺はあえてすぐに目を閉じ、静かに脳裏へと刻み込む。そしてほどなくして目を開き、なんでもない調子で言った。


「べつに、お礼を言われるようなものでもないですよ。それよりもゲーム、やるんでしょう?」


 そうしたら会長はいつもどおり表情をころっと変えて、若干不服そうにむすっとしてみせた。


「む、今の結構照れくさかったのにリアクション薄いなお前……あ、そうだ。もうひとつだけ」

「最後とはいったい……」


 またなんか言おうとしている会長を、ゲームを起動しながら適当に聞き流そうとする俺。

 今まで散々振り回されてきたんだ、もうこれ以上は驚くことも……。


「細かいことはいいじゃんか。宮地はさ、自分のことをロクデナシだなんて言うけれど……とりあえずあれだ。俺は、そんなお前のことが結構好きだぞ?」


 前言撤回、驚いた。

 ゲームを動かす手が止まり、通信の仕方すら頭から飛んだ。

 ぎこちない動作で会長へと首を向ける。俺と目が合うと同時、会長は慌てて言葉を付け足した。


「あ、でももちろんLikeって意味だから! Loveじゃないからな! 俺が美人だからって、勘違いするんじゃないぞっ」


 星でも飛ばしそうなウインクを冗談っぽくかます会長に、俺はあくまでも平静を装って答える。鍛えた顔面表情筋が、思わぬところで役に立った。


「……勘違いなんて、するわけないじゃないですか」


 無論、嘘である。

 露骨に反応してしまったから先ほどまでの洞察力を見る限り、ぶっちゃけ気づかれていないか地味に冷や汗物なんだが。

 しかし俺の心配を余所に会長はまったく気づくこともなく、俺の言葉を馬鹿正直に受け止めてほっとした様子を見せた。おい洞察力どこへ捨ててきた。


「だよなー。お前は俺の素も、俺が元男なことも知ってるもんな。いやさぁ、女になって2年以上経つし、まぁほら自分で言うのもなんだけど見た目はわりと美少女じゃん? だからまぁ告白なんかもそれなりにされたんだけど、気持ち良いもんじゃあないな。告白してくる側には悪いけど、どうしてもこう、ひぃって感じ。だって今の俺って言うなれば男が乙女ゲーやらされてるようなもんだしさぁ、俺としては誰の高感度も上げることなくED迎えたいわけよ。分かる?」

「……ところどころ微妙ですが、ニュアンス的にはまぁ概ね」

「よしよし。しかしまぁ、俺の素を知ってるとはいえお前って俺と二人きりでも全然動じないよな。麗しの生徒会長だぜ? ちょっとぐらい挙動不審になったって、俺も気持ちは分かるから許しちゃうぜ?」


 ついさっき挙動不審になりましたけど。

 彼女の心境的には気づかれない方が、俺にとっても得なんだろうが……まったく無視されるのもそれはそれで腹が立ってくる、複雑な男心である。


「せめてその頭の悪い発言をどうにかしてから出直してくださいよ」

「なんかいつもより毒が強い! あ、分かった。お前実は好きな人いるんだろ! なぁそうなんだろ? ほら誰にも言わないから正直に話しても良いんだぞ?」


 ずずいと顔を寄せながら、そんなことをのたまう会長。

 ああ、そういうこと言うのか。言ってしまうのか。

 なんだかんだで精神的に疲弊してたのだろう、気づけばぽろりと漏らしてしまっていた。


「……いますよ」


 会長が目を輝かせて食いついてくるのは、ただの野次馬根性か一種の乙女心ゆえか。多分前者であろうことは想像に難くない。


「マジで!? やだぁ人嫌いってニヒル気取ってたわりにやることやってんじゃんかー! 誰、相手は誰!? 同級生? 俺の知ってる人? いいじゃんここまできたら腹割って話そうぜ!」


 ああ、もう。ほんともうこの人は。

 一緒にいるだけで自分の壁が溶けていく。なんでもかんでも、吐き出してしまう。俺のことをもっと知って欲しいなんて、ともすれば気持ちの悪く見える欲求まで現れてしまう。

 男に告白されるのはイヤだって、さっき聞いたばかりだというのに。

 俺はあるがままの思いをとうとう、なんの躊躇もなく口にしてしまった。


「会長」

「……」


 一瞬の空白の後、会長が間の抜けた声を上げた。


「……え。あれ、でも前期の会長は男」

「明空陽菜」

「 」

「2年B組出席番号2番。容姿端麗清廉潔白おまけに学年トップの成績持ちで、常に余裕と気品をその身に湛え、いついかなるときでも頼れる人格者。だけど本当は無類のゲーム好きで無駄に騒がしいし言動もアホ丸出しだし――」

「まってまってまってまって……冗談だろ!?」


 ガタンッと椅子を揺らして立ち上がり、目を限界までひん剥いて驚きを露にする会長。

 "麗しの生徒会長"という自称にはあまりにも似つかわしくないリアクションだった。

 対して俺は、あくまで感情を抑えて淡々と言葉を紡ぎ続ける。伊達や酔狂で常日頃から猫被りをしているわけではないのだ。


「俺がこんな冗談言うと思います?」

「……お前、性格悪いし……」

「ちっ」

「ほらぁ!」

「性格悪いんで舌打ちのひとつやふたつ打ちますよ。……いいですか? あんたは俺が素で付き合えるほぼ唯一ともいえる理解者で、元男だからか知らないけど自分の容姿を半端に自覚してるくせして二人きりのときは妙に無防備だし、しかも可愛いし。おまけに二人だけの秘密まである。こんだけ揃って惚れない理由って逆になんなのか、ご教授願いたいですね」


 淡々とかつ勢い任せに問い詰めてみれば、会長は「あぅ……」と声を漏らし後ずさってから、たどたどしく答えを返そうとする。


「だ、だってぇ……会長モードだけしか知らないやつならともかく、素の俺はただのゲーム好きで、口調とかも男のときのまんまだし、女としての魅力なんてなにも……」

「俺が可愛いって思ってるのは、無類のゲーム好きで無駄に騒がしくて頭の悪い発言ばかりする方の会長ですよ。大体、二人きりのとき何度俺が"可愛い"って口にしたか、あんた分かってます?」

「いやだって、冗談」

「じゃないですよ。可愛いです、最初会長の秘密を知ったときから、ずっと思ってました。多分、だからこそ俺はあんたに素の俺を見せてしまったんですよ。つまり概ね一目惚れですね」


 もうほとんど、考える前に口が動いていた。人それをヤケクソと言う。

 しかしヤケクソした甲斐は一応、あったらしい。ようやく朴念仁な会長にも俺の本気が伝わったらしく……彼女はみるみる頬を赤くしたあと、最後の抵抗とばかりに呟くような小声で言った。


「……俺……男、だったんだぞ?」


 そんな些細なことで冷めるのならば、元よりここまでヤケになるはずもない。

 ゆえにばっさりと、会長の抵抗を斬って捨てた。


「俺は女の会長しか知りませんからね。どんな過去があろうともやっぱ俺にとって会長は『明るく騒がしくて、ゲーム好きで、誠実で、でもどこかアホっぽくて、やっぱり可愛い女の子』以外の何者でもありませんよ」


 俺が言い切ると、会長の方もいよいよもって極まったらしい。

 耳まで熱で真っ赤に染めた会長は、表情を見せてくれないほどに深く俯いて、とうとう肩まで震わせ始めた。

 一方が慌てれば慌てるほどもう一方は冷静になる。なんて状況は世にいくらでもあるが、俺も例に漏れず会長の様子を見て冷静さがわずかに戻ってきた。

 そしてヤケクソの報いとして、今更になって後悔が押し寄せてきた。

 会長は可愛いと言われるのも、男から告白されるの嫌がっていた。おそらく女扱いそのものに抵抗があるのだろう。

 べつに会長の過去を尊重しないつもりは毛頭ないが……それでも『可愛い女の子以外の何者でもない』。なんて言ってしまえば誤解を受けるかもしれない。デリケートな部分に傷を付けてしまうかもしれない。

 わりとやばい気がする。やばい気がするが、気の利いた言葉を思いつくには冷静さが足りない。表にはかろうじて出していないが、これでも人生で最もテンパっているのだ俺は。

 あ、なんか胃まで痛くなってきた気がする。

 早く、早くなにか言ってくれ会長。頼むから、この際罵倒でも……あ、やっぱそれは嫌だ。普通に傷つく。

 月並みな表現だが文字どおり永遠に続くかと思われた、短くも長い数十秒の間を空けて、ようやく会長が口を開いた。


「……分かんない」

「は」


 俺がどうしていいのか分かんない。

 しかし言うが早く面を上げて、会長は声を荒げた。顔は相変わらず真っ赤だった。ちょっとだけ、涙目でもあった。


「分かんないんだよいきなり告白なんてされても! "私"なら何度もされたけど"俺"が告白されるなんて、想像すらしてなくって、だって男だったんだぞ!」


 今度は両手を頬で押さえ、声を落としてもじもじと独り言のように言葉を紡ぐ。やはりそこにいたのは、一人の可愛い女の子だった。


「女な"私"は全部演技で、俺自身は男のときから全然変わってないって思ってて、だから男に告白なんてされてもイヤなはずなのに、でもお前に告白されたらなんかよく分かんない感じになって……悪い気分じゃないっていうか……」


 どんどん声のボリュームは落ちて、最後の方はほとんど聞こえなかった。

 だがとにもかくにも会長がテンパっていることと、露骨な嫌悪感を示しているわけではなさそうなことだけは分かった。

 ……ま、嫌われているわけじゃないなら、とりあえずは良いか。テンパってる会長は可愛いし。

 俺は未だにひとり悶々としているらしき会長に、ある提案をした。


「会長」

「ひゃ、ひゃい!」

「とりあえず、モンバス。やりませんか?」


 ゲーム機を片手で持ち上げ示しながらそう言ってみれば、会長は真っ赤なまま「いきなりなに言ってんだこいつ」とでも言いたげな仏頂面をして、しかしそれからしばらく迷って……


「……やる」


 こくりと小さく頷いてから、席に座った。


 無言で準備し、無言で通信。


「これ」

「はい」


 たったの二言でクエストを受注して、俺たちは早速ハンティングを開始した。

 敵はあの、途中で仕留めそこなったドラゴンだ。

 画面の中で遠距離仕様と近距離仕様のマッチョコンビが厳ついドラゴンに立ち向かうが、しかし両者共にコンビネーションがぎこちなく、中々ドラゴンに有効打を与えられない。特に近距離マッチョの方がひどかった。

 しかし10分もすればほとんどいつもの調子を取り戻し、連携も安定するようになってきた。

 それまでずっと画面を見続けていた俺は、ドラゴンの猛攻の間隙に出来たわずかな余裕を利用して、会長の顔を窺ってみた。

 ゲームに夢中になっている会長の顔からは、開始前よりもだいぶ赤みが引いて、口元にはわずかに笑みすら浮かんでいる。

 ……もう、大丈夫そうだな。

 ドラゴンの攻撃が薄くなる頃合を見計らって、俺はゲーム画面を注視したまま会長の名前を呼んだ。


「会長」

「ん……」

「会長の言葉、借りますけど……答えは焦らなくてもいいですから。それに俺に気兼ねする必要だって。俺が好きなのは、ありのままの会長なんですから」

「ん……分かった」


 短い応対の後、俺たちは再び無言でゲームに没頭し始めた。

 疎通がなくても伝わる呼吸。かっちり噛み合ったコンビネーションが、やがてドラゴンを再び虫の息まで追い詰めた。

 遠からずしてやってきた、ドラゴンの大振りな攻撃。もとい絶好のアタックチャンス。


「よしっ……!」


 会長が小さく歓声を上げた直後、彼女の操作するマッチョが以前外した必殺バズーカを担ぎだした。

 この光景、タイミング。俺の脳裏にデジャビュが過ぎる。

 うっかり告白してしまった今、同じことを言ったらどうなるのか……。


 ――試してみたい。


「会長」

「ん?」


 思うが早く、俺はその言葉を口に出してしまっていた。


「会長って、やっぱ可愛いですよね」

「なっ!?」


 会長が驚きの声を上げる。マッチョの放ったバズーカの玉があらぬ方向に飛んでいく。ドラゴンがお返しとばかりにタックルをかます。

 画面の中ではまたしても会長の操るマッチョが「Nooooo!!」と劇画チックな叫びを上げて、吹き飛ばされていた。

 ここまでは完璧に同じである。なんだか清清しい気分だ。

 このあとの会長は、いつもだったら……。


「かっ……」

「か?」


「――可愛いとか言うなって、いつも言ってるだろー!」


 いつもと同じ台詞で、いつもと同じくぷりぷりと怒っているのが声だけでも分かる。その結果に安心感を覚えた。

 しかし全てがいつもと同じわけではなかった。

 ひとつだけ、いつもと違ったところもあって……その変化を目撃した俺は、わけもなく楽しくなってしまった。


「なに笑ってるんだよ!」

「いーえ、なんでも」

「なんでもないはずないだろその顔は!」


 やはりばれたか。でも仕方のないことだとも思う。

 なにせあんなものを見せられてしまえば、惚れた身としては笑みが止まらないのも当たり前じゃないか。


「それよりも会長」

「こら話を逸らすな! 大体お前はいつもいつも――」

「会長の、タコ殴りされてますよ?」

「あー! 俺のマッチョー!」


 慌ててゲームに戻る会長を余所に、俺は先ほどの光景をもう一度見返すためにそっと瞳を閉じる。

 はたして目蓋の裏に焼きついていたのは、ゲーム画面でも、ましてや理想の生徒会長でもなく。


 一人のゲーム好きの少女でしかない明空陽菜がいつものように怒りながらも、しかしいつもと違い恥ずかしそうに頬を赤く染めている。そんな胸躍る可愛い姿だった。

【都合上、本編に入れられなかった余談集。いわゆるおまけ】

●実は宮地だけでなく、会長も眼鏡です。彼女の場合は人目を気にして、自宅以外ではコンタクトにしていますが。眼鏡党の方々にはすまなかったと思っている……。


●『会長モード』は会長の兄の発案。彼が持っていたギャルゲーのヒロインがモデルになっています。そんな明空(兄)は、会長と大体10歳ほど歳が離れた社会人。一昔前はわりとガチで声優のおっかけとかやっていたらしいですが、今はそれなりに足を洗って緩くオタ生活を楽しんでるそうです。

ちなみに、兄妹仲はわりと良いようで。会長のゲーム好きも元はといえば、兄の影響だったり。


●宮地は……あまり語れる設定とかありませんかね。両親は教育ママな母親と、頑固な父親だとかそんなもんか。

あと本当は青高よりも1ランク上の高校にも進学できる学力を持っていたのですが、そっちは色々ガチガチで面倒そうだからと親を口八丁で丸め込んで校風の緩めな青高を選んだ。なんて過去が実はあったり。これもこれで、彼なりのささやかな反抗期だった……のかもしれません。


●お気づきの方がはたして何人いるのか。この作品の青高も実は、オレ俺の舞台である青高と同一の物です。さらにもうひとつ言えば時系列的にも、拙作のオレ俺とほぼ同時期だったり。とはいえまぁ、こっちとあっちが関わる予定はやっぱり今のところないので、あくまでもそーいう裏設定だと思ってもらえれば。

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